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【三話シリーズ】30分タイムトラベル・追跡犯  作者: 常に移動する点P


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1/1

【1/3】額田浩二

「行っても、見るだけ。30分だけそこで過ごせます。時空に干渉することになりますが、何をしても構いません。どっちに行きますか? 過去? 未来?」

 そう言うのは、民間の諜報機関員いわゆるスパイからだった。20年前、20年後、どっちにでも行ける。タイムマシンで、30分の干渉時間が与えられるという。バカみたいな話だ。

 逃亡犯として十八年。時効がなくなったせいで、逃げ切るという概念がない。逃げ切ると言うのなら、死んだときだ。

 民間の諜報機関担当、警察組織とは違う。俺を追っているわけではない、らしい。ある事件を調査している中で、俺に接触する機会があったということだ。ビシッと紺のスーツを来た女性。パンツスーツ。リクルートか? と思うほどにフレッシュな印象。髪はショートヘア―、眉毛がキリっとしている。か細い腕ながら、体幹が強そうだ。柔道経験者か。

 コンビニで声を掛けられ、そのまま近くの喫茶店に。タバコが吸えるようだ。

 諜報機関担当の女性は、東島翔子と名乗った。ご丁寧に名刺もくれた。箔押しだ。

「どうなさいます?」

「どうして、その過去と未来どっちかを見ないといけないんだ?」

 最もな質問だ。明らかに怪しいし、俺である必要性がわからない。

「選ばれたから、という理由です。誰になんて聞かないでください。私も知らないんで」

「弱みを持っている人間の中から、選ぶというわけか」

「話が早いですね。さすが、元刑事さん」

 どこまで、何を知っているのか。東島の目を見て話すと、全て見透かされている気がする。


 20年前、夜勤明けで帰宅すると、妻が殺されていた。絞殺だ。だが、俺の夜勤を証明できる人間はいない。一人で連続殺人犯の容疑者を張っていたからだ。通常二名体制での張りこみがルールだが、出世を急ぐあまり、スタンドプレーに出たのが仇となった。上司には、夕方で勤務を終えたこととして伝えていたからだ。しかも、妻の急病で帰宅するとも。嘘が嘘を重ねて、目の前には殺された妻、犯人の目星はついている。あの連続殺人犯だ。


 殺害後は必ず、現場で被害者の顔に向けて射精する。狂った倒錯者だ。妻は犯された形跡もなく、ただただ惨めな死に方をしていた。


 逃げるしかなかった、俺は殺害された妻の顔を丁寧に拭き取り、犯人の精液をサンプルとして保管することなく、捨てた。自分の愛する妻が蹂躙された、たとえ、レイプされていないとしても、屈辱にまみれた死にざまを誰にも見せたくなかったのだ。


 唯一の犯人の証拠を捨てた俺は、法の裁きではなく俺自身による鉄槌で裁くと決めていた。だから、逃亡ではなく、追跡と言う方が正しい。


 そこでだ、20年前に戻るのか、20年後に行くのか。

 0年前に戻るなら、妻が殺害される2年前だ。家から離れて、厳重な管理のホテルに行くようにと勧めるか。とはいえ、あれから20年たった俺だ、妻が俺の言うことを信じてくれるのに30分では足りないだろうか。


 それなら、20年後に行ってみるのはどうか。俺はその頃は70歳だ。生きていればの話だが。逮捕されていれば塀の中。逃げのびているのか、いや、妻を殺した憎きあの連続殺人犯を捕まえたのかを知ることができるだろう。任意の場所に戻る・行くができるそうだから、俺は俺に会うことを希望する。

 未来の俺は、俺に教えてくれるだろうか。ことの顛末を。


 逮捕されている俺ならば、聞く必要はない。無駄足だ。それなら、いつどこで逮捕されたのか聞けばいいか。真犯人を捕えていたとするならば、いつどこで捕らえたのかを聞く。

 いずれにしても、未来の俺がちゃんと話してくれるかがポイントだ。


 迷う、妻との関係は良好だった。俺がSF好きということも良く知っていた。いや迷う必要はない、妻を救うの一択しかないだろう。


 こんなチャンスはまたとない。この東島という女性が嘘をついていたとしても、俺に実害はないし、むしろこの申し出に応えないことには、俺は警察に突き出されるだろう。


「過去に戻ります。20年前の妻の目の前に」


 そう言うと、あとは夢心地というか、目が覚めると生前の妻の目の前に。時間は30分。

家の中、20年前の俺は仕事に出ていた。キッチンで食器を洗っている妻の目の前、ダイニングのチェアに俺は座っていた。


 小さく悲鳴をあげる妻。だがすぐやめた。俺だとわかったのか?とりあえず、ここで落ち着かせねば。設定の説明をしているヒマはない。30分はあっという間だ。シミュレーションが役に立つといいが。


「幸恵、聞け。未来からやって来た額田浩二だ。オマエは、二年後殺される。いいか、2004年2月14日は家から出ろ。千葉の●×ホテルに行け。スイートルームを取るんだ。あそこは、要人たちも宿泊するセキュリティーの硬さでは定評がある」


 幸恵は、何かを言いたげな声をごくりと飲み込んだ。わかってくれたのか。頷いてくれた。あと20秒だ。今生の別れになるかもしれない、抱きしめたい。妻の体温を感じたい、妻に近づこうとするも、時間切れとなった。


 俺は再び現代へと戻された。

 東島とさっきまで一緒にいた喫茶店だ。東島はいない。店主が、お会計済みです、とだけカウンター越しに声をかけてくれた。客はひとりもいない。


 さて、どう変わったのか。幸恵は俺の言う通り逃げ切ってくれただろうか。あの千葉の●×ホテルのスイートルームに宿泊してくれただろうか。


 20年ぶりに、自宅の前まで行ってみた。表札は額田ではない。引っ越ししたのか。そもそも、生きているのか幸恵は。


 俺は、犬の散歩をしていた若い主婦に聞いてみた。もし過去が改変されていなくても、20年前の事件のことは知らないだろうが。事件が起きていないならなおのこと。俺は怪しまれないよう、このあたりの不動産仲介業者を装った。


「子どものころからこの辺りに住んでますが、たしか、あの角の家の奥さんが殺されたって聞きましたよ」と、欲しくない答えが聞こえた。

「あの角の家でですか?」

「そうですよ」


 幸恵は殺害されている。過去は変わっていない。俺は危険を承知でネットカフェで事件を調べた。十八年前自宅で殺害されたのと同じだ。絞殺されていた。着衣の乱れなし、顔に精子がかけられていたことは、ゴウ5チャンネルという掲示板サイトでいくつものスレッドが立っていた。千葉のホテルには逃げなかったのか?


 犯人は夫の額田浩二、逃亡しているとニュース記事にはあった。東島はどこだ。ポケットを探った、名刺。東島の勤める民間諜報機関を検索する。当然、ヒットしない。


 その三時間後、俺はネットカフェの防犯カメラ映像と、自宅近くで声を掛けた主婦の通報から、路上で緊急逮捕されることとなった。


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