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42.黄金の手を持つもの

【☆★おしらせ★☆】


あとがきに、

とても大切なお知らせが書いてあります。


最後まで読んでくださると嬉しいです。



 静寂が、フクロウ亭のリビングを支配していた。

 チクタク、と古時計の音だけが響く。


 嵐のようなヨランダが去った後、残されたのはギルバートとソフィアの二人だけ。

 ギルバートは、手渡された紅茶のカップを握り締めながら、内心で大きく息を吐いた。


(……これは、ホテルに泊まった時よりも心臓に悪いな)


 あの時は、最高級ホテルの非日常感と、勢いがあった。

 だが今は違う。ここはソフィアの生活空間だ。彼女の香り、彼女が選んだ家具、彼女の日常。

 そこに「泊まる」という事実は、ギルバートに妙な意識をさせていた。


 ふと、隣に座るソフィアを見る。

 彼女もまた、顔を赤らめて俯いているのではないか――そう思ったのだが。


「……ギルバートさん」


 顔を上げたソフィアの表情は、予想に反して暗く、沈んでいた。


「どうした? 顔色が悪いぞ」


(以前の私なら、こんな悩み、人に言えなかった……)


 人に悩みを打ち明けることで、聞いた人に迷惑をかけてしまうのではないか。

 そう思って、誰にも弱音を吐けなかった。

 でも……目の前の、この人は違う。

 いつも自分の側にいて、自分という存在を受け止めてくれる。


「あの……私は、リサさんを不幸にしてしまったのでしょうか」


 ソフィアは、膝の上でギュッと手を握りしめた。


 ギルバートの魔力こころは……揺らがない。不愉快に感じたようにも思えない。

 彼の目は真っ直ぐに、ソフィアを見ている。ちゃんと、自分の気持ちを聞いてくれる。

 その安心感に身を委ねながら、ソフィアは胸に抱えていたものを吐露した。


「私のせいで、彼女は全てを失ってしまいました。デリックさんの悪事を暴いたのは正しいことだったと思います。でも、その結果、彼女を路頭に迷わせてしまった……。私が『正義』を振りかざしたせいで、誰かの人生を壊してしまったのではないかと……」


 かつてのソフィアには「呪い」があった。

 自分の価値がないから、他人を助けなければならないという強迫観念。

 それが解けた今、彼女は純粋な優しさからリサを助けた。

 だが、助けた相手は、自分が原因で落ちぶれた女性だ。その矛盾が、ソフィアの心を蝕んでいた。


「……ソフィ」


 ギルバートはカップを置き、彼女に向き直った。

 そして、静かに、けれど力強く告げた。


「君が心を痛める必要はない」

「え……?」

「彼女が不幸になったのは、彼女自身とデリックが選んだ道の『結果』だ。罪を犯し、人を貶めた報いだ。君が背負うべきものじゃない」


 ギルバートの言葉は理路整然としていた。


「全ての他人の不幸に心を痛めていたら、君自身が壊れてしまう。……それに、君は十分に優しい。自分を虐げた相手に、温かい食事を与えられるほどにな」

「ギルバートさん……」

「だから、自分を責めるな。君が助けたいと願うなら、俺も協力する。だが、罪悪感を持つ必要はない」


 その言葉に、ソフィアの瞳から涙がこぼれ落ちた。

 張り詰めていた糸が、ふっと緩んだのだ。


「……ありがとうございます。……救われました」


 ソフィアが涙を拭い、微笑んだその時。

 ギィ、と寝室のドアが開いた。


「……あんたって、本当にお人好しね」


 立っていたのは、リサだった。

 彼女はバツが悪そうに視線を逸らしながら、ゆっくりとリビングに入ってきた。

 どうやら、話を聞いていたらしい。


「リサさん、起きていたんですか?」

「ええ。……軍人さんの言う通りよ。悪かったのはデリックと、それに乗っかったあたし。……あんたに恨み言を言ったのは、八つ当たりよ。ごめんなさい」


 リサが、深々と頭を下げた。

 プライドの高い彼女が、初めて見せた謝罪だった。


「……でも、現実は変わらないわ」


 顔を上げたリサは、自嘲気味に笑った。


「家もない、金もない。実家からも勘当された。これからどうやって生きていけばいいのよ。あたしみたいな『何もない女』が」

「何もないなんてこと、ありません!」


 ソフィアが声を上げた。


 何もない、という単語が、彼女の中で聞き流せなかったのだ。

 ……本当の、何もない人間なんて、いない。

 前世、あれだけ他人に迷惑かけていた自分でさえも、両親からの愛を受け、そして両親たちに生きる喜びを与えていたのだ。


 彼女が手に入れた真実を……ソフィアは、否定できなかった。否、したくなかった。

 彼女は立ち上がり、リサの手を取った。


「貴女には『生産スキル』があるじゃないですか。それは、私にはない素晴らしい才能です」


 リサは呆れたようにソフィアを見た。


「……馬鹿にしないでよ。あたしのスキルはただの『量産コピー』よ? 質より量の、安っぽい『模造品イミテーション』を作るだけの力よ。……あんたの作る『本物』とは違う、器用貧乏な力よ」

「いいえ。その力は、使い方次第で『黄金の手』にもなります」


 ソフィアは真剣な眼差しで言った。


「私のお祖父様……伝説の職人ヴィル・クラフトも、実は貴女と同じ系統のスキルを持っていました」

「えっ? あのヴィルが?」

「はい。お祖父様は、一つの設計図から、軍隊全員分の剣を一晩で作り上げたそうです。貴女の『量産』は、それと同じ可能性を秘めています」

「そ、そんな……」


 リサは動揺した。

 自分のスキルは「安物作り」だと卑下していた。だが、目の前の天才職人は、それを「伝説と同じ」だと言う。


「で、でも無理よ! あたしには、あそこまでの技術も知識もないわ!」

「技術と知識なら、私が教えられます」


 ソフィアの瞳に、職人の火が灯った。


「私が設計し、貴女が量産する。……私が構造レシピを教えます。貴女がその意味を理解してスキルを使えば、品質は劇的に向上するはずです」

「教えるって……なんで? 敵だったあたしに、なんでそこまでするの?」

「見てみたいんです。……私一人では作れないものを、二人でなら作れるかもしれないから」


 ソフィアはリサの手を、もう一度強く握った。


「教えてあげられます。貴女が、手を伸ばしてくれるなら」


 その手は温かかった。

 路地裏で差し伸べられた時と同じ、救いの手。


「…………お願い」


 リサの目から、また涙が溢れた。今度は、悔し涙ではない。


「教えて、ソフィア。……あたしに、生きる術を」


 静かな夜のリビングで、新たな師弟関係――あるいは、最強のパートナーシップが生まれた瞬間だった。

 ギルバートは、そんな二人を優しく、誇らしげに見守っていた。


(……さて)


 一方で、ギルバートは背後をチラリと見る。

 ……フクロウ亭の出入り口の扉が、少し開いている。そこから、こちらを睨みつける目が……一つ。


「……坊ちゃん、あとで、マジ殴り」

「……速く帰れ。寒いから」


 ヨランダは「月夜ばかりと思うなよ……」と物騒な言葉を残して、去って行くのだった。

【おしらせ】

※2/25(水)


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 リサも言う様に」お人好し此処に極まれり・・・・ 最凶?のライバルが最強の職人とタッグを組めばまさに覇権が取れそうです(^^;; ヨランダ・・・・ww 次回も楽しみにしています…
コピーって、材料は必要なんだよね? いらないとしたら、ソフィアどころじゃないほどやばいやつなんだけど・・・
さてと公爵家子息で現役の軍人で高級将校さん対公爵家の万能侍女さんの実力の差は如何にw
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