木枯らしは世界の輪郭を揺らし僕は風を統べる者となる
木枯らしが吹く季節になると、僕は気分が落ち込む。
なぜなら、僕には人には言えない悩みがあるからだ。
秋になると異形の者が、僕の周りに集まってしまう。姿かたちは見えないけれど、僕にはわかる。
学校の敷地から出て数歩、もう後ろから僕に話しかけてきた。
(すみませーん)
「なんですか、もうッいい加減にしてください!」
しまった、声をかけられて思わず返事をしてしまった。
(すみませーん、取り憑いてしまいました)
楽しそうな声が聞こえる。
気味の悪さを感じて血の気が引き、呼吸が浅くなる。
怖くて動けずに立ち尽くしていると、ふと学校の先生の顔が浮かんだ。
僕の担任の先生も、同じ体質を持っているという噂を、こっそり耳にしたことがある。思い切って相談してみよう。そう決めて、職員室を訪ねた。
「先生…僕、木枯らしが吹く季節になると、変なものを呼び寄せてしまうんです」
声は細かく震えていたと思うが、先生は穏やかに僕を見つめ、静かに頷いた。
「そっか…話してくれてありがとう。その体質は、怖いよね。でも恥ずかしいと思うことはないよ。異形の者の気配を感じたら、とにかく離れること。それが一番大事なの。」
先生の声は優しくて力強かった。
僕は意外な回答に驚いた。
立ち向かえる男こそ、かっこいいと思い込んでいたから逃げることは悪いことではないと聞いて、そんな生き方もあるんだなと思った。
「無理に戦おうとしなくていい。異形の者に話しかけられたら返事はしないで距離をとる。それだけで十分だから」
先生はそう言って微笑んだ。
その日から、僕は木枯らしの吹く日は特に慎重になった。
なるべく立ち止まらないで心を穏やかに保つ。
異形の者が近づこうとする気配を感じたら、戦いは挑まず、少し距離を取る。すると諦めてくれた。
ある日の放課後、また視線を感じた。
薄暗い影が僕の周りをうろうろする。息が詰まるような怖さを感じて、手は汗でじっとりとしていた。冷静になってゆっくりとその場を離れる。異形の者は、風に紛れて消えていった。
まだ、怖さは消えないけど、異形の者に追われても逃げることも選べるし、僕には対処する方法がある。
そう考えると、木枯らしが吹いても、大丈夫だと思えた。
僕は深呼吸をして夕暮れの街を歩き出す。異形の者を引き寄せる体質に悩みながら僕は少しずつ、この悩みのタネと付き合う方法を覚えていったのだ。




