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「はぃ……、はァ……はァ……少しは早くなりましたね。ではアナタはひたすらに腹筋を。私が台本を読み続けますので、なるべくさっさと答えてよ……、暗記したラダメスを出してみせなさいねっ!」

 そう言って仕方なさそうに足に乗って掴む彼女に「ハァ……ハァ……、うん、声を大きくするのに、腹筋なんだよねぇ……っ。でもこの頃お腹が妙に痛いんだけど、でもやるしかないって、でも………う゛ぅ、、う゛ぅぅぅ」


「そうだわよ、それでハッキリはきはき喋るの、大事だよ……! まずは声からだ……、人間は話し方と表情で演技に入りますからっ!」

 その言葉と共に、灯火に上からセリフを浴びせられる。

 それに壮太は素を返して、次は演技でラダメスになりきって、時にはヴィオレッタとして応えさせられて。


 全部全部、眼を見ながら必死に返す壮太。


あの………アッあぁ、それに汗がね……、灯火の汗が眼に……。

ぺしぃっ! 私達のお汁はご褒美よ……、我慢なさい! はい―っ!

何よ……っ、あなた今、メガネは絶対外さないからね――。いや、大丈夫だよ、大丈夫ぅ。

ウソおっしゃいよ……―、私が眼鏡外して優しくならなかった男はいなかったわ。何が灯火さんよ、一体――。


 見つめ合いながら、汗まみれで2人言葉を交わす昼間。時折その姿を運動部に見られるが、そんなのもう構えなくなってった。

 ちょっと揺らしてみる、メガネ強いな――。



「ハイ……はぁ……はぁ……、良いですね、受け答えもだいぶと進んだわ。ではアナタはこのまま監督の仕事をしてるという事で……、それでまた帰って来たら相手して差し上げますから」

じゃ――。そう言ってほっぽり出される炎天下、強気の目線で見下して。でも……、やっぱりマイチ先輩の方が断然柔らかかったな、ただプレミア感と満足感は半端ないが。

 ノイズキャンセリングせみフォンかと思うほどの合唱の中で意識飛びそう、ちなみにこの場合は大体お昼ご飯だ……、まぁあの部屋に行ってもクソ仕方ないので1人死んだように――。


「うわ~~っ、エロいっすぅ、見てたぞ見てたぞ戸北よぉっ。美少女と汗だくでくんずほぐれつかよ~」


「お前……、お前は後藤田じゃないか。はァ……はァ……なんで夏休みでいるんだ、確か全然来ないって……う゛ぅぅ」

「まぁぁ~……なんていうか? すっごい楽しそうだったしなぁって……。それは皆がお察しよぉ……お察し、ひひひっ」


 そう言うとジュースと共に、かき氷をくれるのだ、なんともありがたい差し入れ。

 田舎の学校、ひたすらにその冷たいのを掻きこんだ、セミどもめ……喰らえよ。



「あぁ、ふふっ、でもそうかよそうかぁ……。そんな事やってんのかぁ。お前まだ学校来て2か月だが、どうよ、ほれぇ……? それ、なけなしの高校生からもらうかき氷だぜ、美味いか、それ……女にかまけてほっぽり出した奴のジュースだぜぇ――」

ふひひひっ♥

 その言葉にコブシで押すんだ。


「まぁ~~……でも、お前らが色々部活を回ってって、巻き込んで……。もう一大イベント確定だしな……。学校もタダ乗りよ、俺もかなり拡散しといたわ。恐ろしい数が観に来るぞ~、このメッセージを見る限りじゃ――」

うん、やっべえわ、ヒヒヒヒっ!


 その覗かせた数に青筋を立てる。何せそこには色々な部活の奴らがいて、外様だけど勝手に情報流してるハンドボールやバレーボール部に。リツイートボットと化した各生徒たちも。あと仕事を頼んだ美術部にパソコン部に、それでしかも……あの吹奏楽部も……?

「オマエがって……、これまさかでも、交渉してくれたのかっ!? 難しいって言われたんだよ……、古典の中でもキツイんだって――」でもこれ練習中ってあるぞ――。

「そうそ、これで公開処刑にならねぇようにしないとなぁ~、戸北 壮太ぁ。俺はこういう楽しそうなのには首突っ込むぜ、なんかヤバそうなのあれば言えよ……。俺さ、実は」

結構悪い人だったんだ。

「でも安心しろよ、耐性ありそうな奴しかケリ落とさないから――」


――。

――――――――――。


「フゥ……。行くわよ……。部室が開くまで続けます、とりあえずアナタ、これで早口言葉行ってみましょうか、ねぇ♥」

 更にバテてる俺に。でも帰らせるらしい輪廻と道井戸、それならとにもかくにも練習だ。

 炎天下の下でメッセージももうロクに返してないが、ただひたすらにもう2人きり……。


「えぇ、よし……っ。もうすぐ学校出るみたいです、じゃあすぐ立って、すぐ立ちなさいっ。立ち稽古を始めるわよアナタ、大体もうヴィオレッタは想定できてるわよねぇっ……」

「いや……、ごめん、でも立ち上がっても、もう無理だわ、もう無理……。お腹がもう……」声もかすれてさ……。はぁ……はぁ……。

 その言葉に腕を組んで待つ灯火だが、だいぶと疲れていて……。


「あの子と道井戸先輩の話……、してあげましょうか? もうかなり無理よ、私達がいないから好き放題してるわ。プール、楽しそうだったわよ、着替えの時ももう上の空。そろそろ女優がでてきてます。もうキスだけじゃ終わらないと……」

でもそれもマネージャーも認めてる。私の予想を超えるかも。

 ――。

 ――――――――。


「ねぇ……、本当に駄目なのアンタ、無理だよ……ハァ……ハァ……。そのレベルじゃ絶対に大成しない。追いつくどころか常にっ……、延々と引きはがされ続けますからっ……!」

「うん……フゥ……フゥ……、うん………、そうみたいだね」


 走って演技して感情を叫んで、叫ぶなと怒られ、演技するなと言われ、無理なポーズで止まれと命令され。

 余韻がどうとか、視線は誰を見てるだとか、声が汚いだとか……。


 灯火も座り「戦ったって勝てない……、無理は無理よ。それに何も分かってないあの子を、アナタが知ってる情報は不確かなのよ……っ」

「でもさ……、あの記憶を失う彼女と戦うには、コレしかないだろう、ハァ……ハァ……」

 ――――――――――。「分かってますか? 今度の敵は大きいわよ、本気でかかっても若手ナンバー1でも敵わない……。だってアレは古典が生む悪魔ですからっ! 全ての情報を網羅し続けてるわよ……、誰も彼もが演じたその姿を、その中で一番良かった答えを あの女優は理解しているの――」


 時代背景やキャラ考証も擦り切れるまで行われた、古今東西の天才が一度は通ってきている。それをメキメキ吸収しているのだから――。


「ねぇ、灯火……聞きたい。結構キミって青春したい感じなの……。女優のくせにモブと一緒、太陽の下で大になるとか案外中二――」

 ぱしぃいっ!

「ふぅゥゥ……――。土日も使うと良いです、私達は仕事がありますが、一人でやれますね戸北 壮太――?」

 その言葉にうなずく。


 もうあの言葉に……、あの後藤田にはその観客見積もりを吹奏楽部にも伝えて欲しいと頼んだ。例え本気出しても無理だと断られたあの音楽教師に。

 だって……、俺もだから。

 頑張れよ――、その親指に壮太がうなずいて。これは既に賭けに入っている、もう逃げられない。今も輪廻はきっと……。


「ヤルよ、俺はヤル――」

 休むことなく演技して、走って腹筋して、そして幾つかの資料となる動画を見た。



「あぁ……クソっ、なんで動いてヤッてる時はさ、真似できてると思うのに、全然違うのが――」

 やればやる程分からなくなる、大体からしてだ……、大声で他人の前に立つなんて気が引けるに決まっている。そして見返して、自分を見るなんて恥ずかしいったらありゃしないし、下手で下手でヘタで……。

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