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それから10時に寝て4時に起きる。朝早くからずっとずっと走って声を出して、深夜にまで練習する。
だが何より厳しい、何せ肝心の……。
「まるっとやっぱり難しいんだってぇ~……。アイーダと椿姫の融合。しかも言うこと聞かない役者を入れる、それが大女優入れての融合なんてぇ……」ふぅ……ふぅ……。
全くの無表情で、死んだ魚の目で見つめるマイチとのストレッチ、甘い声が気持ち悪い。
でも台本も書ききれないらしい。マネージャーからさじを投げられる、これでは全く予想がつかないだろう。強い光が浸食してくのを影へと逃げて。
「しかも私達もアナタの援護をしなければならないと、こんな……ふぅ……ふぅ……、実績として残さなきゃなのに、コレでは……。やっぱりこれは自分の心臓を、そのハートを試すしかない戦いだわ……」
「あぁ分かったよ……、とりあえずじゃあ、時代背景とかも頭に入れる、原作も読むよ、ヴィオレッタを知り尽くすよっ……。輪廻が作り上げる幻想なら全てを受けるんだよ俺はっ」
だから頼むよ、頼む――。
2人の女優でさえ億劫になるほどの舞台だ、最悪巻き込まれて失態を演じる羽目になる。
だったらあの2人ならしれっと手を切るだろうし。
「そうだ……、だからなんとか信頼してもらえないといけない、俺はなんとしてでもっ……はぁ……はぁ……!?」
基礎の基礎を日夜繰り返す演劇、朝から晩までずっとだ。輪廻がどうとかもう構えない程。
キツイだけの練習を女優達も続けていると、ある日は……。
「あ、ハァ……ハァ……壮太くん壮太くぅんっ。今日の夜はお姉さんとだけ練習しよ~っ、昼も私で~、夜も私だけぇっ♥」
だからその分だけのお菓子は持ってくることねっ
「トモちゃんはぁ来れませぇん、何せ重要なお仕事だからぁ~っ♥」
「えっ!? 仕事なのっ!? 何に出るの灯火は、何かの役をもらえたんだ……っ良かったじゃないかぁっ。応援するよ、どんな役だいっ――」
「私もなかなか時間は取れませんけどね、えぇそういう事です。仕事は仕事ですよ」
俺が汗をかいてると心理的にも実態的にも分かるような距離を表してくる、女優。いや少女か……自分も汗まみれの癖に。いやまぁ確かに灯火なら――。
そうして全く答える気の無さそうな灯火の顔に、その役どころを邪推してしまう壮太くんは。
なんとなく恥ずかしいアレなのかと、その様子にますます不機嫌になる灯火、不穏な気配が渦巻き始めて――。
「ううん? トモちゃんはねぇ、まるっと専属モデルやってるんだぁ~」「ちょと――先輩っ」
「あぁ~~……―、うーーん、トモちゃんはかなり優秀なモデルさんだよ。結構どころかまるっと最前線っ、売れてるティーン雑誌に所属してるもんっ♥」
「エッ!? そうなの……っ!? すごいじゃないか灯火ぃっ! そうなんだね、なんかでもびっくりって気にはならないよっ、何せ灯火は一番モデルさんっぽかったしさぁ!」
確かに男と同レベルで背は高いと思ったが、眼鏡で全く雰囲気がなかった。そう思っていた。
「そう………――。でもアナタ見ないでしょうよ。あぁそれか、差しあげましょうか……―? 男の使い道になるのは珍しいので、しっかりとした感想、どこで何を、どういう考えかをいただけるならね……――フ、フフ――」
それ以外は触らないで頂戴ね――。
その超高圧的な目に壮太はかなり戸惑う、パワーウォッシュ!
まぁまぁまぁ……「でもそれだけじゃないから~。まるっとトモちゃんはね、CM出演だってピカイチなんだよ、事務所でも有名な位だよ~っ♥ まぁでもぉ? その理由が壮太君にも分かったと思いますがぁ、あのCM撮影でならきっとぉ~、フフフ」
その眼は見ていたぞ、という目だ。
明らかにコチラが驚いたのを見透かしている、あの眼鏡を取って化粧した灯火の、その顔面偏差値のあまりな高さを。
「まぁ……――、では、なんでも良いでしょう。とりあえず明日とあさっては来れないですね。マイチ先輩、よろしくお願いします」
激烈に男を睨んで来る灯火、ただし、その眼鏡の下はダントツに可愛いから。
「マイチ先輩、怒りますよ」「いーじゃない、教えてあげれば~……。まるっとこんなに頑張ってるんだよぉ?」
「あの程度、当然の範囲ですよっ、腐る程どころか大体の舐めた奴らはアレですっ……。大体遅いのよ全てが――」
「でも諦めない力、持ってるよ……。それを理解してるのはトモちゃんじゃないかな~。リンちゃんに2度来た子はいたけどぉ、まるっと3度目……、しかもコレは初めてだよねぇ――」
きっと悔しいんでしょ。
「フゥ……フゥ……、知りませんよっ、そんなの」
すぐに消えて行く灯火。
そして怒らせちゃった~、と笑って戻って来た先輩は、2人っきりになると密着が多く。それは柔らかいしドンドン熱くなるし、もうお尻くらいは触れるし、いつの間にやら……。
「はぁ~い♥ 頑張れ頑張れっ♥ はいはいはぁ~い♥」
自分の上で跳ねる姿、そのマイチのしごきは、記憶が飛ぶ程にすごかった。地獄――。
ただ問題はその記憶にあるんだ、オッパイだけが揺れるのだ、思った以上に甘甘ボイスだけ残っていて……。
「はぁ……はぁ……はぁ……――――――――? 今、家でオレ、母さんにお粥を食べさせてもらってる……………」家………だとっ!? 家ぇ――!?
そして気づいたらベッドの上で、一歩たりとも動けなくなっていた。
だが最高だったもう、痛い――痛いよ――、病院を呼んでくれぇぇ……、痛いぃいぃ……!? ア゛ッア゛ァ――!? 初めてぶり返す痛みに涙を流す――。
このマイチといる時間は全て全て飛ばされる、時間の幅などは関係ないんだ、その間どうなってるかは定かじゃ~ないが、必ず幸せな夢を見せるだろうよ。声は最高だ。
そうして現実に帰った瞬間には確実に堅実に、貴様は重傷として倒れるのだぁア――!
おーらおらおら――!
そして……貴様を最後はレクイエムと化す――。




