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舞台を間近に、金曜日。
人混みの中、携帯電話の先で軽い返事。
「エッッ……――。トモちゃんもコーハイ先輩も来れないの……、えっえっ、なんでナンデ――!?」
「良いじゃない、もうそろそろ限界よ……。男の一人くらい自分でさばいてちょうだい、私うんざりなのよ」
その言葉に心底がっかりした顔の輪廻。祭りの日、まるで一人迷子になったみたいで首を振り、何度も何度も……。マイチもそして……。
「輪廻。もうじゃあ行こうか。しょうがないよね」
その言葉にも首を振るが、だが、その通話はすでに切れていた――。
どうすれば良いのか。
祭りの笛が響く中、少し落ち着かない様子だった輪廻だが。しかし辰斗の気合いが入った姿に少しずつ冷静を戻していく。
「あの………、でも、まだ戸北くんに返事聞いてないんで、もう少しだけ……」
「あぁ、うん。でもね……。この話受ける時だけどさ……、一応守るけど、それって女の子を前にして。あの義臣 輪廻を前に効果あるって思うのかな――って。そう言ったら黙ったよ。それから何も言ってこないな」
「そう……なんですか、そっか……――」
そうなんだ――――――。
そして返って来た返答はやはり――。
そこからは2人っきりだ、彼女の浴衣姿は素晴らしく可愛らしかったし。白にピンポイント1点しかないという、人を選ぶが映えて美しい浴衣で。夜だから帽子もなくて、それは初めてだろう素顔の。
そしてイケメンの方も十分に並べる姿だ、エスコートも上手くて背が頭2つ分は高く、それは正に……。
「いやぁ~~、ハハハ。たぎるねぇ。実は僕の子供の頃はさぁ、特技は唯一の型抜きだったんだ。地味でもあれで人気者になれたんだなぁ~、ふふふっ♥」
そう言うとなんと、指のデコピンでその3割くらいを次々と剥いてしまうのだっ!
驚く輪廻、でも綺麗になっている、信じられない。
そして最後とばかりにもう一撃を目の前で――。
「なんとねぇ……、1時間で自給2000円さっ……。たっちゃんはスゴイ、たっちゃんは英雄だっ……! それでなんと、1万円の物をかけてさ、その時人気だった女の子に告白して……」
ぱしんっ! 「アッ!? あぁぁ……――、フフフ♥ 惜しかったですねぇ辰斗さん。それでそれでっ……、でもどうなったんですかその話っ」「輪廻……、その辰斗、やっと言ってくれたね」
その言葉に微笑む輪廻。ただむずがゆそうに……。
「あの………、辰斗……先輩、ホントの事言いますね……。私結構初めてです、デート。多分これが初めてで緊張してて……」
そう言いながら必死に胸を抑えて目を逸らすから。
「あぁうん、そうだろうね……。そんな気はしてたよ」「あぁでもでもっ……私っ、結構見慣れてますよっ? 美男子系って……はい、フフフ♥」
その言葉に苦笑いするだけ。場違いだったと顔を隠して、手を繋がれれば一瞬でまた髪の毛を気にしてしまう。巡って行く夜店。
2人を祭りの色が照らし出す。黄色か……、闇夜か、リンゴ飴か。
「ねぇ……、君達はさ、少し長く一緒すぎたんだよ……。まぁ良いけど、僕も楽しかったさ。だって君が忘れたくないって思う人とその場所と……、そこからキミを未知へと奪うってね」
その言葉に困ったような目をして、輪廻は一人その射的へと向かう。結構不快そうだが――。
「アッ、、あぁ~~……、駄目でしたぁ。何気に難しいんですよね、コレ。私も昔は上手かったのになぁ……。フフ。ともちゃんとマイチお姉ちゃんとで競って私……」
すると割って入って彼が打つが、全部外れだ。次々、次々と。でも十分だろう「これが君の今いる祭りだよ、輪廻。もう良いだろう……手早くお互いが忘れられて、いつまでも一緒だという気は、ないんだろう?」
その言葉に止まる、ただただ戸惑う輪廻。
するとその時。
「ねぇ、輪廻。君はかなりキスを温存してるけどね、そんなに隠す理由があるかな……。例えばどれくらいなら君は僕に応えてくれる?」
そう言って射的の的を指すのだ、そして顔を近づけていく。
かなり慣れさせられたが、それでも……。
まぁ……キスは……。はぁ……はぁ……確かに私のキスは軽いですから……、あの――、はい。
「でもそれでもそれは……、舞台の上が良いなって思ってて私」
「でも君のハートが欲しいなって……、そう言ってるよ僕はさ。そっちは相当嫌がるだろう輪廻、君を見てて分かる」
その時花火が上がり始める、だがそれでも……。見つめ続けて堂々と、その浴衣の上から心臓を触るのだ。
「確かにここの記憶には残らないかもね、じゃあさ……もう一度デートしようか、これが終わってからデート。何度でもデート」
君に勇気があるなら――、だ。
そうささやかれると、輪廻があからさまに反応してしまう。観衆の声が上がる中……。
「何度でも同じ事ができるよ、君は何か忘れてる……。僕がまるで本気じゃないかのようなね。そして本当の輪廻ですらも役を演じる分、男は追いかけないといけなくなってるとも――」
その言葉に恐ろしいという目をして、その辰斗の体をすり抜けようとする。必死に言葉を紡ぎ出して少女は……。
「あぁでも………―、はい……。なんとなく嫌なんです。怖くて。ごめんなさいっ」
だがしかし、強く強く腕が握られた。抱かれ……。
「だからさ、最初から恋人にはならなかった僕は。君がそんなに遠ざけるから、だってその悲しいを吐き出させたかったんだ……」
「でもでも……。あの……――それは……」
――。
―――――。
息が荒くなる……。涙が漏れた、恐らく先にも後にもこんなに理解されていた事はないだろう。もうマイチも灯火もいなくて……。
「あの………、それと今は、嫌な予感がすごくするんですよ。女優って怖いって、疼くんだって――」はぁ……はぁ……――。
息を切らしてそう言うと、だが、その辰斗の手を取って……。
そのままキスを……。キスして――。
「ンゥ………っ、ぢゅ、うぅ」あぁ先輩……、先輩駄目です、あんまりは……。あぁ……うぅ、ンヂュ……うぅ――。
放してくれない。
何か聞こえた。その場所を差すのだ、明かりへと……。
「はァ……はァ……はァ……――――――」
花火を、見ていた。




