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その次の日、4人だけで行ったプールの後でも続ける練習。いつもと違うアルカリ感がよそよそしくて、彼は目を落とす。
ただ……。
「フゥ……、フゥ……、良い感じですね。あの………私達出るわね、とりあえず演技もそうなんですけど、他の仕事とかも考えなきゃですし」
「う、うん……――。そうなんだぁ、分かったともちゃん。でも……、なんか素気ないね。この頃すぐ出ちゃうんだもん」
ピタリっとその言葉に止まり……――。
「まぁ――、賞味期限という奴ですよ、気にしないで良いわ。大体アレよ……、あのアルフレード感、それが分かりましたって事なの……フフフ」
その黒い髪をなびかせる灯火、少し眼鏡をはずして自身顔で……。
「あのねぇ……、もう飽きたわよ。正直私達はアナタのような人間に囲まれてますんで、そう例えば……」
撮影行ってたら突然ね、ある日は気合入った格好して来るのよ
それで無名な子に優しくして来るとか、食事誘われるだとか。良い話があるなんて……フフ――。そんなイカしたオジサンいくらでもいますんで。
「そうだねぇ~……。リンちゃんは分からないだろうけど、業界の端っこジャブジャブかじって食べてる、優しくて面白いヒト選りすぐりでいるもんねぇ、ふふ♥ もうちょっと先輩ぃ、まるっと飽きちゃったよ私達ぃ~」
「あぁー……―ふふ、なんとも辛辣だねぇ……。さすがって感じだけど。でもそこが良いと思うんだ、ね?」
その言葉にうなずく2人。
「じゃあまた今度遊びましょ~~っ♥」
その遠慮した笑みの輪廻、うなずく灯火とマイチ。
そのまま歩いて行くが……。少し走って。
「うーーん、まるっと良い感じに処理できたかなぁ~」
「まぁ、また今度って、そうつけたから大丈夫じゃないかしら? フフ――」
「でもあんまり入れ込み過ぎないでね? まるっとそっちが心配」「輪廻の方じゃなくてかしら……?」
ただ少しずつ、あっという間に近づいて来る舞台は。そして。
「あっ、トモちゃん私はここねっ、15ページでお願いしたの、5ページじゃないよっ」
「あぁえぇ、ごめんない……。ちょっと気を抜いてるわね、ふぅ~……」
特にこの頃暑い。
水だけでも重いカバンにうんざりしながらも、汗をぬぐったタオルを放り込む。そこは体育館に移していた。もう本格的な練習がしたいとマイチが……。
「まぁちょっと暑過ぎだわ……。実はあの部室もですね……、空調おかしいのよ。あの壮太が、なんかアイツいじっちゃってて……」フゥゥ―――――、アイツ本当にィ……。
「そう……なの? 大丈夫、2人共、体調悪いなら後にしよっか? ねぇこのまま遊びに行っても良いよね、2人が心配だよ私ぃ♥」
「いいえ……、全然やるわよ練習、むしろ楽しみでしかないの――」
その眼には何か、必死な感覚。誰かが体育館を開けた、その瞬間に群れで襲って来るセミの声に耳を塞ぎ。疲れる灯火をいさめマイチがうなずき……。
「はいは~いっ、でも少しだけ時間取りましょう~っ。あっ、壮く~ん♥ まるっと私にアレお願いねぇ~」電話越しに嫌そうにする壮太に指を突き刺し、その雰囲気と表情で買いにいかせる。アイスクリームだ。
マイチも出る。
「あぁ、あの………。ともちゃん、もし悩みとかあるなら教えてねっ、私達友達だよねっ」
「えぇ、そうねそう……」
ただ、あまり話が進まない。
ただただ待っていると、その端正な王子様に迎えられて輪廻は消えて行くのだ。
「お気楽にしてられるのも、実力なのよ……―フゥ……フゥ……、フゥ……――」
――。
―――――――。
「でも私にはそこしかないじゃない……結局巻き返せなかったじゃない。でもなんとかしないと、なんとかよ……」あの時みたいになるなんてご免だわ、絶対に――。
灯火が汗を必死にぬぐう、何も考えずにもうあがくように。
見つめる先には舞台がある、彼女はなんとか這い上がる。
「ごめんなさい……、輪廻。だからこの夏はもう、アナタの面倒を見てる事もできないわよ……。あとね、その先輩はもう信じない方が……フフ、フフフ――」
バタンっ!
「ねぇねぇっ、マイチ先輩にともちゃんっ、なんかファラオが流行ってるんだって~っ♥ 運動部の子がエジプト踊りだって言ってた、楽しそうにしてたよ~っ♥」
その入って来た輪廻のはしゃぎように演技を止める。
そして……。
「ねぇなんでかな……、どうしてリンちゃんここに残ってるの。まるっともう良いよぉ、大体分かったもん、必要ないよ~~」ん~~~~~。
フゥ……、フゥ……。
大きな汗、その親友からのストレートな言葉にたじろぐ。
さすがに――。
「え……!? なんでって……、一緒にいたいから――。夏休みだし舞台もするしって、みんなで少しでもって……」
「でもまるっと輪廻ちゃんはフリーだよねぇ……。むしろ追い込みだよ、正直あの女優さんにはあんまり私達関係ないもん。ただ私達は必死に合わせなきゃだ………。フゥ……フゥ……それでも来るのって多分……」
別の理由だと思うのねぇって?
その言葉に目を伏せる輪廻。
「ねぇ……―、もうやめなさいよ、むしろ良い加減に邪魔だわ。アイツの手が止まられちゃ困るのよ、今背景を1つ付け足してるんですから!」
その言葉に輪廻は寂しそうにする。
そして――。
「あぁあの……っ、あまり戸北くんの話でヒドイのやめてくれるかな――。私それはちょっと、受け入れられないよ――」
ため息を吐いて頭を振る。それだけで消えて行く灯火、そしてマイチも。
「もう良い加減あきらめてよ輪廻っ、もうゼッタイ4回目なんて来ないわよ――ッッ」
バタンッ――ッ!
戸北 壮太と残されても話す事はなく。




