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「えぇっと……――次は背景か、それでこれは……うん。とりあえずなんか、美術部とかに助け求められないかな、さすがに無理だ……」無理だよっ。

無理――。


 ウェブで見た、高校演劇の小道具の作り方を必死に読み、セットを整える。

 だがとりあえず色々なツテを使わないと、とてもじゃないがヤレそうにない。あと何より大変なのが……。


「あぁ……うんうん――。分かった、じゃあモールさんにそれも聞いて来るよ、えぇーーっと……」

じゃあ聞く事って幾つだぁ~?



 モールとの交渉。それは多岐に渡る。特に消防法などはかなり厳しい、全ての事柄を事前チェックせねばならない重圧。


「でも今回は楽ですよね……。チケットもプロモもあっち持ちだから良いわねぇ、フフフ♥」煽ってるとしか言いようがない目で灯火が見て来るんだ。ただその言葉に幸せそうにマイチ先輩もうなずき、俺を後ろから抱いて見せて。

「そうそう、それに何よりこれだよねぇ~、パンパカパーンっっ、まるっとポスターーっ!」これも向こうさん持ちぃ♥

「ウ、うわぁあっ♥ コレっ……これを早く張ってもらって下さい監督さんっ、1日でも早くですっ、監督さんお願いぃぃい♥」


 俺が抱かれて抱くそのポスターを凝視し「すごいわ……、良いじゃないのぉ」「うんうん、完成品さっき見たけれど~~、まるっとしっかりと可愛く顔が映ってたんだよぉ~♥」

 駆け寄る。その3人の女優が並び、バッチリとした宣材が人混みでも映える、こんなに良い話はない。


 実際可愛いとしか言いようがないポスター、悪いがむしろ、演劇って所に違和感持つ程に可愛くて……。


 壮太は2枚ほどくすねながら「あっ……あぁ……。それでね、あまり暗くし過ぎるとお客さんが転ぶから無理だって。外に出るなら良いけどって~、うん~――」

「あぁ……、でも外は無理だわね、音が五月蠅くて声が通らないわ。でも椿姫って大体が暗いんですよ、うーーん……、まぁ」

なんとかして。あぁ、動かないで――。「あぁ……、良いじゃない、ありがとう……」


 ひたすらに小間使い。そして演出家であり演者達はけんけんがくがく。

 でも案外楽しいんだ、だって彼女達は……。


「あぁ~、ねぇ、これドッチが良いかい? どっちのライティングで行こうかっ……」「そんなのアナタが決めて下さいよ、私は従うわよ。ただ……、えぇ、そうね」確かに―――。

 その心底困った顔のプロ女優様の表情に、かなり気圧される物がある。だがそれでもしっかりと吟味し、真剣で噓偽りなく……。


「そう? そんなライティングで行く気なのね、じゃあ私は……こうかしらね……。ただどうかしら、でももう少し色味を工夫して欲しいの」

「うんうん、確かに~。後ろの背景がこれじゃ味気ないよ、もう一枚欲しいかなって思うんだもん、ねぇどうかなっ……、戸北くんも思うよねぇ!」

「いや……背景、でももうあと1ヵ月切ったよ、さすがにもう無理だよぉ……」


「でもでも……、やっぱりもう少し綺麗な方が絶対絶対良いって思ったの私っ」「そうですね……、私も賛成だわ。監督さんなんとかなさってよ、なんとかよ。アナタ名監督でしょうっ……!」

 2人してわーわー言ってくる女優にしかめっ面だ。だがオッパイ女優様が降臨し……。


「なにかな、なにかな~~? まるっと壮太君ったら大人気してる~、ふふふっ♥ でも2人して壮君にわがまま言っちゃ駄目だから、張り切りすぎて欲が出ちゃったのかなぁ~?もぉ……」

特にリンちゃんは珍しいねぇ~。

「あぁ、そうですね……、確かにアナタの注文なんて聞かないわね。そんなの全くないくせに、じゃあここは輪廻の為に頑張ってあげたらどうです? フフフ――」「それは……っ、で、でも私だけじゃないもん、ともちゃんだって言ってたよねっ、ひどーーい、ヒドイよぉっ! 私だけみたいにぃっ……!」


 顔を赤くしながら輪廻が灯火と戦っているが、全くなんか、まんま純真な生娘と女優に見えた。少し笑っていると輪廻が顔を真っ赤にし……。


「とっ、とにかくです、もっと頑張って欲しいって思いましたっ、頑張って下さい監督さんっ! ふんだ……っ」

 そんな感じで続く作業。一つの仕事で結構色々な事が進む、綺麗な女の子が3人も舞う。大変な仕事だがやりがいも分かる気がした。


 すると一息ついた休みの時、ふと輪廻が横に来て……。


「あの……―っ、ごめんねぇ……? 私熱くなっちゃって。なんか……、ここからは見た事ない気がしたんだもん、なんだか分からないけど、すっごくすっごく楽しみで……」

「あぁ良いよ。でも、そんなライト一つで変える必要性あるのかなって? 一応見せてもらった椿姫の色味、あれを真似しただけなんだけどなぁ……」

「あぁ分からないんだねぇ、戸北くんは。じゃあほらほらコッチだコッチ……っ♥」輪廻に連れられ体育館の後ろに行くと……。


「あぁ……、ホントだ。全然違う、見え方が――」

 見ていて驚嘆する。だって灯火とマイチ、その動きは違いが分かる、素人目にも変わったと分かるんだ。

 観客席の一番後ろに行った時こそ動きの差異が大きい。だってたくさんの観衆が並んだ中での演技、それでも奥の奥まで届かせねばならない使命を持っている。それが女優で。


「顔なんて分からない人いっぱいいるよ……。でもね、それでも可愛いって思わせなきゃなの、悪女って怖がらせるの貧乏人だってさげすまれるの。私は輝きたいから」

だってそれが女優だもん――。


 ここは学校であり、予算もなく人もいなくて、そして寂れた演劇部だった。

 そこに舞い降りる大女優はただ、微笑むだけ、ひたすらに自分に集中するだけで。

 衣装が無くとも背景が真っ白でも、例え照明がなくたって、やり通すんだ、全てに目をつむってでも。

 ただただ召喚された器に乗って『演劇』が生み出す力の本流を見せつけ、そして消えて行くだけ。


 その輪廻は困った顔をしながらも、だが、少しの微笑みを浮かべてる。


「うんうん♥ じゃあ丸っととりあえず椿姫、ある程度できてるかな~って。そう思うよねぇ。ただ一つだけ……」

気づいてないんだ、しっかりとしなきゃだよ、リンちゃん。



 壮太を見る。

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