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「この話、邦題が椿姫っていう形で、日本人がやっても全然おかしくないんですよね……。むしろなんとなく地味で、ヴィオレッタは美しい和装が似合うわよ」

ホント……――。

「うんうん、そうそう、トモちゃんに借りたの読んでみたけどぉ~、まるっとフランスっていう気配ないよねぇ~♥ でも多分ホントのあの国ってこんな感じなんだろうねって、ふふっ」


 笑顔で大体の話を確かめ合う3人。

 そして灯火がマイチが、そして輪廻までもが台本を取ったんだ、その時からが女優の始まり。


「あぁあの………っ、でも本当に輪廻はやるの。せっかくの夏休みだよ、もう少し軽いのとかでさぁ……。はぁ……はぁ……、確かその力を使わない事もできるって、演技はやれるって言ってたよねぇ……っ」

「うん……。そうだね、戸北くん。でも私はね、誰かに支えられてるんだ。それはあの2人だから。ごめんね……」


 自分の存在感の小ささを痛感させられる。

 これから3年、例えずっと一緒でも彼女とはもしかしたら思った以上に小さい間柄にしかなれないと。その一冊の本すら超えられない。


「リンちゃん、まるっと頑張ろっ。この舞台は売り込みも兼ねちゃうからねぇっ。これが我が田舎……、この地元出身だって。それでラジオも出られかもだし、あと何よりポスター宣伝とかで使ってもらいやすいよ~~っ」いーぱい頑張ろうねぇっ♥

「地元密着……。人がいない中で若くて伸び盛りで、そうして既に結果を出してる女優なんてそうはいないですものねっ……。しかも高校演劇でほぼほぼ禁止の椿姫よ、こういった事で何より手堅い注目が得られますっ!」


 ちょうど東京に手を伸ばせる位置でいて、それでも十分な田舎の少女達だ。そのくせ突出した可愛さを持ち、知名度だって都会であってもそこそこある。

 彼女ら3人はココじゃ、その壮太が知らない世界ではもう完全に有名人で。


「私達は台本の読み込みするからね、その後はお願いします、戸北くんっ!」

「……――」

 応えられない焦燥、夏は始まり、梅雨雲は開けて散って、まばゆい光は世界を照らし。たった一冊の本で終わる。それは初めての青春を待ちわびた体に突き刺さる。

 その日、夏は閉じた。










 そしてテストの全返却も目前、悲喜こもごもを抱いた高校。

 他の者たちは色めき立ち、そろそろアツい計画を練っているのだ。え、お前彼女いたん――、なーんて怒号。

 でも壮太は本当に本当にセミがやばいド田舎で2人して出かけ、暑い日差しをかいくぐって、そして帰って来るだけの。


「お~~い♥ それで早速ねぇ、はぁ……はぁ……壮太君と行って来たけどねぇ。まるっとモールさん8月15日にしてくれたぁ~っ、しっかり良い日貰えたよ!」

あち~~っ♥

 その言葉に大いに湧く女優達っ!


 だが正直壮太が一番驚いている、こんなドストライクの日をもろ手で貸し出してくれるなんて。しかももう1ヵ月前なのに。

 帰る途中に、良かったねぇ~、この世界でもナンバー3だよ、あと2人だよ―――。って、田んぼが囲うド真ん中でしっかり見つめられ、大層困惑だったが……。


「じゃあ気合入れよう、マイチ先輩っ、ともちゃんっ、戸北くんも! もっともっとだよ、絶対前よりお客さんが来てもらうよーーっ!」

「えぇえぇっ、夏も私達は演じるわよ、女優の夏よっ! 椿姫を全力でやるわよっ」

 始まる演劇、やはりテンションが高くて3女優ともに全力、その配役と勉強に勤しんでいる。ある意味初めての部活らしいとも言え、しかも大舞台で妙に心がむずがゆいが。だが初心者の壮太はまず、その激戦となる部分に入って行かねばならず……。



「いえっ、この場面は前からあえて被せるべきよ輪廻っ、良いわね!」「えぇ……っ? でもそれお客さん見にくいよともちゃん、やっぱりダメぇ!」「でも明らかに登場シーンでしっかりドレス見せないと! じゃないと分からないわ、何せ兼役ですものねぇっ」べりべりべりっ!

 演出でモメに揉めまくる女優達。本人達が劇の立ち位置から出るタイミングまで決めるのだ、それを監督たる自分が記述する。体育館の壇上は使わないから良いのだが、体育会系たちがはしゃぐ体育館でもその声が轟き響いてビックリされる女優たち。

 板張り上、その壮絶に入れ替わる舞台にマークをひたすら……。


「うんうん、そうだねぇ……、まるっと前に被らせるなら、でも私もこっちにすべきだよねぇっ……。私絶対光でおかしくなるよ、コッチィっ!」ぺたぺた。

「じゃあじゃあっ、前の登場からやり直すべきだよっ、戸北くんもう一回だよ!」べりりっ!

「いや……あの、せっかくぅ……」


 ただ女優に演技の事で入って行くのは非常に怖くて。ただでもこれ、本気で全部やるの? 全ての登場シーンで俺が……、こんな地味で面倒な作業をずっと。

 ペタ、ペタ、ペタっと……っ。汗が板へ。


「壮太君、もぅ、まるっと早くどいてぇっ! この4日で絶対通さなきゃなの、大きなロスになっちゃうっ、何も始まらないよぉ~っ!?」

 そう言って何度も何度も台本を持って演じてみては、オペラの動画を見返して、あーだこーだと話し合う。

 そして汗だくになれば……。


「はいはい水ですね水……。フゥ……フゥ……、でも大変だよねぇ、本当にこんなのするんだ……。あのさ、なんかでも女優がするの間違ってないかぁ……」やっぱケンカ多いよぉ~――。

「ふふふっ♥ でもまるっと壮太くん、元々は演出家さんなんていなかったんだから~。シェイクスピアさんの時はねぇ、俳優と作家だけで成り立ってたんだよぉ♥」

「えぇ、だからむしろ近代演劇の基礎とも言えるわね……。演出こそが全てですよ、この舞台のカギとなるのよ。はい……っじゃあ」も一度通します。

邪魔な監督はすぐに掃けるのっ!


 ひたすらに練習、そしてやり直しての繰り返し。絶対に譲らない女優達は何度でも位置を変えて、改善し改悪し、そしてまた新しい何かを模索して。


あぁ………この勢いだと着替えるのに1分て所かしら。少し長めに頂戴ね輪廻。それでこの位置なら……、この衣装を置くのは――。

よしよーし、じゃあアルフレードさんはココぉっ。私がここからだねぇ。男をバッチリ見せないとだっ、よっしよぉっしっ♥


 壮太はその動きを凝視しなければならない、最終決定稿、台本に記述されるべきを整理するのも彼の仕事だ。それを上役たる本物のマネージャーさんにチェックされハネられ。女優に文句言われ。



 しかもその合間にも仕事は増えて……。

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