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「では一番一番大事な事をね……」

 息をのみ、その一番の本格的な闘争へとまずは足を「配役決めなんだけど。まるっと今回は結構な大舞台だから、リンちゃんに主役をやらせようねぇ」


――。


――――――。


―――――――――。


「まぁぁ………―、――。マネージャーの指示ですしね……、色々ですが、良いでしょう」

 その緊張は正直かなり重い物があった。ハッキリと汗が伝ったのを感じる。


「そっ、それで衣装に関してはねっ、私達である程度出した方が良いよねって、フフ……、フフフ――っ♥ いつも通りだよいつも通りに……、それでっ……あとの方も色々だけどねぇ……うん!」

「ま、そうですよ………。あと色々の方が問題だわ、これまでもここでつまづいたのだから。全く……面倒よねぇ?」


「うん、やっぱりそうだねぇ~、まるっと私達いつも適当だったし~~。ねぇどうしよっかぁ、うーん……」

 チラチラとこちらを見てくる。いや、本当に女優かよと言いたくなるほど、なんとなく戸北 壮太に察せよという気配。


「今まで重要な事から逃げて来ましたからね……。ただ、今回はそうもいきませんよ、ねぇ」第3者、いるわよね。

 見つめられる輪廻は。

 そして重圧に耐えきれず意を決して……。


「ねぇ、この舞台の監督さん、任せて良いかな、戸北 壮太君っ、お願いしますっ……!」

 その言葉に驚く、何せ思ってもみなかった――。

 もしこれが任されるなら初の大役だと……っ!


「え、俺が……監督。良いの、そんな大きい役をくれるのっ!? いきなり監督ぅ!?」あぁでもそうか、灯火はきっと――。


「ま、駆け出しですらないのですがね……、しょうがないわよ。ふぅぅ~~……―。いるといないのでは大違いですよ……、ヤラセて差し上げます。一応………?私も従うべきは従いますもの、私も一介の女優ですものね」

でもだけどもよ……、満足させれるよう本気で頑張って下さいよ、そうじゃなきゃ無理よ名監督さん、フフ――。


 渋々でも託すような灯火の顔と言葉に、なんとなく力が湧くんだ。だがその横で壮太に向け笑顔でマイチが首を振っていて、その……。


「ううん、壮太く~ん、まるっとソレからかってるのねぇ~……。これって監督さんでも、演劇のなの、それって思ってたのと違うよぉ……」

「そうだね……、うん。なにせ実は演劇では演出家さんの方が全然偉いんだよ、ごめん。想像ではアレだよねぇ? 最終日に腕組んで演劇の出来を見てうなずくの、でもあれは全部演出家さんなの~~」

 その言葉に訳が分からない顔の壮太。

 じゃあ一体監督とは……。


「フフフ――。えぇまぁ演劇での監督とはね……、雑用係の王様って感じですよ。全ての機材チェックに進行、俳優たちのスケジュールと健康チェック、抑えた劇場とのセッションに予算の管理も。では、はい――」

頑張ってちょうだいねぇ……名監督さん♥


 オモテの演出ウラの監督、これが演劇。全部任せると言われ、放り出されるのだ。

 どうやらこれから舞台の設営や背景の材料選びから何から何まで、全てコッチの管轄らしい。恐る恐るやるべきリストを女優達に貰ってくが、これがまた面倒そうな物ばかりで……。


「いやぁぁー……――、なにこれ。何もできる気がしないんだけど、ホント……」

 ねぇこれ絵を書けって事? BGMの用意って……どうすんの? 照明ってどこにあるんだよ、モールへの挨拶周りってどんなんだっ……? まさか……持って行くのも?

「しかもデザインして設置までして、その全部の責任持つの俺でェ――!?」


「ホラホラっ、突っ立ってても時間は過ぎるわよ。早くなさって下さい名監督さんっ……」

 演出 兼 女優。雑用いっさいは任せますと、演技の事だけに集中したいのでと……。3人の女優はその脇ですぐに台本を用意し始める。

 マネージャーさんがそういうのは得意らしい、そこでも攻防があるようだが……――。



「じゃあまずは壮くんの為に~~、まるっと物語を解説しようねぇ♥ 知っといた方が良いの、最低でも女優くらいの理解度は当然だもん、全然違うからぁっ」

 渡されたのは、既に作りあがった台本。

 それを凝視する。もうできてたんだと……。


「では、椿姫、ソレは悲しい恋の物語」



 フランス・パリ、とある高級娼婦。華やかなる社交会、煌びやかな世界でうごめく高級娼婦のヴィオレッタは、いつも胸に椿を差す。

 そこにある日、彼女に一目ぼれした田舎貴族のぼんぼんがやってくるのだ、名前はアルフレード。


「彼はヴィオレッタを愛してると言うのよ、一か月前からずっと愛してた、でもそれはあからさまにまだ幼いんです……。そして彼女はソレを簡単にいなすのだけれど、それでも迷います」

「この国では女の人が男の所有物なんだよね……。レディーだどうのって言っても、夫の人が認めなきゃ女一人で銀行口座も開けないって、実際結婚できるのだってまだ幸せで……」

しかもこの物語は実話が元なんだよ。


 女性側の家庭が最低でも数百万の持参金を用意せねば話にならないフランス。

 だから多くが娼婦か修道院に入るしかない。彼女はそんな中でも一生を賭しても得られない贅沢をしていて、それで……。


「でも結局はねぇ、まるっと彼と田舎で暮らし始めるのね。だけどこのお坊ちゃん全然生活力無くてさー……。それでヴィオレッタが色々売り払って生活してたのを、メイドさんが言っちゃうんだよねぇ」

 大金を作り出し、彼女はその3か月の生活を維持し続けていた。

 今まで貯めたたくさんの資金を、それを余す事なく全て使っていくヴィオレッタ、その話に驚き彼は取り返しに行くというのだ。


「でも彼がいない間にアルフレードのお父さんが来て、ヴィオレッタに別れるように言うんだよ。高級娼婦と一緒におままごとしてるせいで、妹の婚姻が危ないなんて――」

 必死に嫌がるが、だが、最後は納得してしまうヴィオレッタ、夢の終わり。同棲の終わり。

 そのまま高級娼婦に戻るのだ、涙を流しながら。

 そして馬車で一人孤独な世界に帰るヴィオレッタは。


「その事情を知らずに、まだ心が少年なアルフレードはお別れの手紙読んでね、まるっと浮気だと思って乗り込むの。ケンカまでしちゃうんだよねぇ……。それで色々言われて、でもヴィオレッタは我慢するんだよ、だって義理のお父さんに理由は言わないって約束だったから……」

「それで怒った彼は全ての金を返すと言ってバラ撒き、彼女の気持ちも分からず、その時の彼女のパトロンにタンカ切って決闘しちゃうんですよ――」


 そのまま時が流れる。


 そのたったの1か月後には彼女は病室にいた。友達だった全ての者もいなくなり、美しい姿も栄華もそして何より……。


「それで最後、肺結核に倒れても、それでもひたすら待つの。彼は真実を知って後悔し、向かっていると、そう書き綴られた手紙を読み続けるの。たった一人でずっとずっと待って……」

 そして最後に出会えた希望に感謝し、そしてスミレは天に上る……。

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