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「あぁ~~、あっつぃよ。スゴイねぇ……、7月入って一気に夏って感じだ、フフフ。戸北くん、ねぇ……。こんな時は女優には必勝法があるんだよ……、えぃっ!」「ぎゃああっ!? 下半身に制汗スプレーはちょっと……っ、、ちょっと輪廻……。それ女優は本当にするんだな、輪廻まてぇえっ!」

 追いかけていく坂道、制服で。結構急なんだ、でも機嫌が良い時とかは積極的に手を繋げるようになっていたし。へばる彼女を捕まえて、一緒に腕を当て合いながら登って。



「ねぇ、昨日は楽しかったねぇ、どうしよっか戸北くぅん。とりあえず今日どうしよ、お昼も一緒にしようね、色々考えようっ」

 陽の光に屈託なく笑う女優、朝も昼も順調。麦わら帽子が追加されていた笑顔。

 それを見てもう一度気合を入れ直す、何せ既に期末のテストが始まっていた。


「よっしよしっ! 古典は赤点回避だぞ、なんとかなったぁ――っ!」

「私もだよ~っ、戸北くーんっ、ふふ♥ マネージャーさん本当に優秀、追試どころかもう大学見据えてるんだもんっ、ありがたや~~っ」

 どうやら全員、赤点は回避できつつあるらしい。

 テスト期間中なので暇が結構あるから、だからこそ人がいない食堂で2人っきり。携帯見てたり背徳のDVDなんかを見たりもするんだ。


「あぁ~、ねぇねぇスゴイよ戸北くんっ、これ見て~。やっぱりSF系は衣装が良いのね、私憧れちゃうぅ」


「え!? この……、これ? この妙な衣装とか着てみたいの輪廻、ちょっとコレが自分なら……、見るの恥ずかしいわ。輪廻は自分を見れるのかい?」

「モチろんだよぉ! 私ね、よく段ボールとかで色んなの作ってたんだもん。まだ色々あるよ、今度見るぅ? 自作で渾身作、段ボールプリキュアっ♥」

あとねぇあとねぇっ、私オリジナルの作品とか大好きなの!

「もうすぐ高校の演劇コンクールの予選が始まるんだよねぇ、一緒に見に行こうかぁ♥」


「えっ!? あぁそうなの……っ、高校生の演劇大会?それは甲子園みたいって事? じゃあ輪廻達もまさか……っ」

「ううん、私達は出ないよ、全国大会とかでないの。ビビりなんだな~って、んふふ。でもねぇ見るのは好き、大好き♥ 一緒に行こよ、行こっ、ねっ」

 夏休みの間のイベントなんかもチェックして過ごす2人。バイトを入れようと画策もするし色々な事を考えるが、やっぱりあの美少女は持て余すほどに可愛くて。


 ウキウキの夏本番が来る。そう思っていたが……。


「それで私達は恒例のっ、夏休みの特別講演あったよねぇっ。独自の演劇公演に向けガンバりましょう!」

おぉおおオっ!

「えっ………!? なんでっ……――」


 梅雨の最後の涙、その輪廻の言葉に驚く。

 ひたすらに意味が分からなかったが、だが……。


「はいはいっ! じゃあ私はやっぱりぃ~っ、まるっと古典が良いと思いまーす♥ それも恋愛系、やっぱりそれが一番分かりやすいよ~」

「えぇ……、それに前回は中学生だった訳ですし、年齢もあって色々遠慮したんですけど。高校入れば自由だわ、それで文化祭の予備にもなるわよ……ふふフ」

「うんそう、じゃあとにかくもだ、3人一緒で頑張ろっ! 観る人が溢れる舞台にするんだ、楽しんでやろうねぇ~っ。おぉ~~っ♥」


 2人は嬉しそうに手を上げ、あと1人は眼鏡を上げて。

 ただひたすらに計画を前に進めようとするが、そんな……、それはと……――。


「あの待って……えと、本気なの? 本気って事? 仕事じゃないよね、別にそれは特にする必要がないんじゃ……夏休みなのになんで……っ」

「あぁうん、でもね、文化祭の出し物位はしたいじゃない……。高校生になったんだもん、だったヤリたい事やろっ。ソレが早めになってね、それで本気なだけなんだよっ、ふふ」

 そんな軽い輪廻の言葉を聞いてショックを隠せない。


「お前らは良いのかよ、そんな簡単な―――」その言葉に2人は、マイチ先輩と灯火は何の気なくうなずくのだ。

 誰よりも知っている彼女らが決めた道標だという事。


「とりあえずぅ、まるっと昨日の会議の続きからだねぇ~。恋愛のお話にしたいですって確認しましたっ、やっぱそうだよぉ~、この年齢だとそれしか回って来ないんだも~ん♥」

「うんうん。じゃあ、次は場所だよっ。まずは昨年みたいにオンモールさんにお願いだそ……、やっぱりあの舞台こそが一つの頂点だよ、前の年で思い知ったからぁっ……」


「まぁ所詮? あのオンモールであっても1企業に過ぎなかったと……。輪廻がちょろっと映画に出ただけで手のひら返しですものね……フ……フフフ。あの天下のオンモールも取るに足らないですよ――ンフフフ♥」

 なんで東京を知るツワモノ共がそこまでイキるのか分からない位、なんというか、メガネ圧力女優が今までにない渾身の薄ら笑いを浮かべるのだ。

 この街は何かしら絶対にある――。


「それでアナタももういっそ選んで良いのよ、良いなら……良いですが、ふっふ」パッドを開き何故か俺にも聞いて来るんだ、嫌がらせだろう。唇を噛む。

 でも実際やる事がなくて、むしろ決まらないでくれと願う自分が。その真剣なまなざしを。


それでじゃあじゃあ……、前もってアップしてた物語の中から、恋愛に絞ってだね~「私は……どうだろう、今昔物語とか……?」でもこれ演じるだけで良いんだっけ?詩とかは~……?

「気にしないで良いわよ、歌無し踊り無しでも面白いと思える物をって。演劇にするにはちょうど良いと言われたの、それは汎用性あってやりやすいわよねぇ」

「うんうん、そうそう……、それで私はねぇ。コレ、まるっと幾つかの中から『椿姫』、これが良いと思ってたんだ~~。有名だしぃ、これなら舞台でも絶対綺麗にやれるよね♥」



 それはフランス・パリ。

 社交界にある高級娼婦がいた、その名はヴィオレッタ、通称椿姫。



「スミレの君、ですか、あぁ……、えぇ。私も異議なしよ……。これは比較的少人数で作れますんで、そして何より日本人にはあってると思うのよ、えぇっ……」その言葉に全員がうなずく。

「じゃあそれで、私は良いよ、それで台本をお願いしよっか。とりあえずぅ……、次の演目は全て自前の持ち出しになります。だからスケジュールとかも各自しっかりと詰めようねっ、良いかな……っ、戸北くんもっ」


「エッ――――――」あぁ………、うん。


「まるっとじゃあ自主制作だし方向性大事っ、だよねっ♥ 結構大変だけど頑張ろうねぇっ!」

 あっさり掃けて行く世界、始まる夏。終わった恋。


 それでも頭を切り替えるしかない。俺はその予定表をゴミ箱に思いっ切り投げ捨てた――。

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