22
もう輪廻がいないその間にも、じっとりねっとり梅雨の季節がやってきて。臭いが変わって霧が出てて――。
帰ってくる限界までその一つの台本を読み込む2人。彼女達はどうやら輪廻から逐一現場の様子を聞いているらしい、アップデートし続けてて……。
「めちゃくちゃ読み込みますね……、もう全役やってる気がしますけど」
「だってプロの台本を読める事ってぇ、はぁ……はぁ……、マルっとあんまりないからねぇ~ふぅ~♥」汗をぬぐう、水がもう1リットルでは効かない。
「それにですね……、何より、私達がしたい役の対象がいるじゃない。それって大事だわ、答え合わせができるの。改めて見て……、それが例え事務所の力だと分かっても」
うん――。
熱心な二人は互いを見てうなずく。
そしておぼつかない壮太にカメラを回させるのだが……。
「でもちょっと気になったんだ……。灯火は特になんだけど、だいぶ違うよね。2時間で縮めてるからか原作に有ったはずの言葉がだいぶ消えてる。この2人のかけあい、どう表現したいのかなって」
「あぁ……私、原作は読まないから大丈夫だわ――」
「えっ? それって全く? なんでかな、結構うるさかったよねぇ……」
「理由? 簡単ですね、必要ないからよ、全くだわ――」
その言葉尻にさすがにムカッと来る。
詰め寄ろうとするとマイチ先輩があっさりカットインし――。
「じゃ~あ~……壮君、出版社さんとして考えてねぇ? 例えばお金、どうやって儲けようかな~って……。原作が好きな人が絶賛して、何か儲かるかなぁ? 実際全巻持ってるし、もう何も変わらないんだよねぇ~って」
「そこで少々原作とかけ離れてようがですよ……、芝居として全うできればソレで良いのよ。適当な配役でも正直どうでも良いんです、ターゲット層がある訳ですからね」
あとはダマってマンガ好きが見てくれれば興行は安泰安泰――。
「そうそうっ、ソレだねぇ~……っ、ふふフ。だからぁ、私達役者が原作を知る必要ってあまりないのね? 丸っとリップサービス程度に知ってれば十分じゅ~ぶんっ」チュって……♥ キス仕草しながら笑う先輩。
女優が見るべきってね、配給会社さんと出版社さんだけだよぉ?
なんともリアルな話を聞かされ、だが納得できない、首を振り……。
「あぁ……、えと。じゃあ実写化って……必要ですかね、大体失敗してません? ほら……、熱心な支持とかされたらゼッタイ話題になりやすいのに、なんかこんな中途半端に不評を買うならさぁっ、再アニメ化とかの方が遥かに良い気がするけど――っ」
「それはどうやってでも間口を広げたいからじぁないかなぁ――? 漫画っていう小さな文化、オタク世界を一般に訴求してチャンスを広げたいっ。 まるっとそれって~~、業界には全て良い事だよねぇ~って?」
「そう、それよ……。ソレは女優としてもありがたいけれど、実際オタクがほとんどそれにケチつけてってるって……、そう私達は思ってる。あのね」
そのくくりに入りたくないんだよ、一般人に原作愛とか全くいらないもん。イメージ悪くなるだけですね。
「足引っ張ってどうする気なの……? ねぇ。女優にそれを聞くのもイジメだわ、対談とかで話せる程度は監督さんから聞けてますよ。私達は原作とか気にしない……、勉強になる小説なら読んでも良い――」
そう言い切ると目の前の演技だけに集中し、台本にしっかりと眼を通し続ける灯火とマイチ先輩。
「仕事は仕事だよねぇ~、フフ。それは別に有名なシェイクスピアさんでも名無しの漫画家さんでもありがたいけどもね? でも……、客層は選ぶからね、私達」
抜群に陽の女子が突然叫び出した陰を避けるカオ。彼の方は好きだったその……。
「ぁぁぁ~……――」
オマエ、本当は生まれた意味があったんやな――。
ナマの声を聴いて、戸惑うしかない。評価2,8のその中、ストーリーとしては及第点だけど原作物としては0点って書かれたレビューに、眉根を寄せる。
11日間もの撮影は、その輪廻が突っ走る時間は、長いようであっという間だった。
「はぁ……はぁ……えぇ、アナタの大詰め来ましたね輪廻……。それでですけど……、この人、どうです? 私この人の演技が知りたいのよ輪廻」
「あぁ……、この人確か結構監督さんに話つけられてたねぇ……、なんて言われてたかは分からないけど、多分……」
お昼ご飯の時もかなり熱心に演じ、話し合う輪廻達、正直もうご飯を食べている気配すらない。これが普通らしい3人。
例え何がいても仕事があれば撮影の事で目いっぱいだ。
それでも少し、大事な話があるから。考えに考え抜いたけども、でも迷惑だろう。心臓が喉まで来そうで。だけど渾身の勇気を握りしめ、ひたすら待って……。
「あっ、あのさ……――、あの………。付き合って欲しいんだ2人共! 俺は服を買いに行きたいっ!」
――。
―――――。
「あぁ~~……、なるほどですねぇ、ダッサダサですものアナタ、フフフ。じゃあ……まずもっと眉も整えた方が良いですよ、どこでやってるかは知らないけど、それ」明らかに適当よ。
「まぁまぁ、でもまるっとでも壮太君そうだよねぇっ、お服欲しいよねぇっ♥ じゃあ後輩なお姉さん達が見てあげる~っ♥」
「いや、私は嫌ですよ、行くなら2人でお願いしますから」
「えぇ――。それって私……、どうするのぉ? 心細いよ……、ねぇ……まるっとトモちゃんは私を1人にする気なのかな? 私の方がオドオドするよ、そんな実力ないよ私ぃ……――」
その言葉に頭を抱える灯火は「あの広大なモールに残されたらどうしたら良いかな……、壮太君が思った以上に弱かったら襲われちゃうよ。私お服もあんまり分からないよっ……、大体の目安で生きてるだけなの私ぃぃ~っ」
ちょっと……。本気ですか。目線を背け苦虫を潰したように……。
「あぁ……――。でもまさか、デートだなんて思わないで下さいね。温情ですから、輪廻の当て馬役ですし」
まぁそれに、ヤル気は少々はあると……、えぇ。
とりあえず、文句を散々言われながらも2人をゲットした。
「うんうん……、しっかりと上を見れるようになるんだよ~、壮太君。そういうのまるっと大事ぃ♥」




