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そしてその夕方、前日で前乗りの見送りを。寒暖差が激しい山の国、彼女はフェミニンなもこもこを着て、パーカーを被らされて闇夜で白く生えて。
本当に野獣の気持ちがわかる、それは可愛すぎる小動物なんだ。追いかけてしまったら止まらないだろう、田舎の夜だし押し倒して――。
――点滅する車のライト、他の女優達はもう慣れた物だ、軽く手も振らずに……。
「行ってくるね……、戸北くん。私は女優の義臣 年輪の、その、目いっぱいを出してくるからっ、きっと理想をかなえてみせるの私っ……!」
「そうか、そうだね……、あの………頑張ってねっ、輪廻っ……!」
そして出発。
「戸北くん、ありがとう。すっごく楽しかったよ、また絶対行きたいっ。でも……うん」やっぱり……ここでお別れなのかなって。
「待ってるよ、言ったろう輪廻……っ。終わったらまた始めるよ、また1からでももう一度だっ……!」
「あぁうん、そうだね……。でもきっと分からないと思うな……、だからね……」
覚悟だけはお願いね――。
私は大丈夫だよ、傷つかないから絶対
「じゃあ行ってくるね~っ! 2人と、あと戸北くんも~~ーっ♥」
マネージャーさんと車で移動する輪廻、それはもう義臣 年輪。
それはかなりコチラとしては手に汗握る事で……。
「さてさて……、全く、分不相応なメインキャラ攻略をなされたのに、でもだけどセーブリセットになるかもしれないモブ男君です。それでしかも残ると言ってますガ。ただ今からはその親友で美人なお友達とたわむれようとしてる訳ですよねぇ……」
「すごいですねぇ、女子の会話に入り込んじゃってぇ~。ここから10日間はきっとねぇ、まるっとハーレム形成期だぁっ♥」
すっごい女子オーラでの牽制にたじろぐしかない。
こっちは追いかける前にスタンガン出して来そうな美少女たちで。
「でも毎日毎日お土産祭りで美味しいよねぇ~♥ 丸っとやっぱりぃ~、東京はきっとオシャレさんっ♥」
手懐け方が上手かった。食べる姿が抜群に似合うマイチ先輩は、それさ……それ、希望しか持てないんだよなぁ……。細すぎる灯火と違って。
っていうか俺も食べたいんだよ、まだ東京からの献上品一本も分けてくれないから……。
「よっしじゃあ、これ食べたら稽古しましょうっ、ここからが私達も本番ですものね――」
早々に立ち上がる灯火。すると笑顔でコチラに向かって一本を……。
「あぁ……、でももしかしたらあの子、イケメン俳優と良い仲になるかもですわよ。ソレだけは防げないわ、誘惑は多いものねぇ、ホホホっ♥」
正直、気が気ではなかった10日間。
ひたすら彼女とは朝昼だけを一緒に過ごして、そして下校はすぐに消えて行く毎日。
そこからはずーっと、3人一緒の時は映画を気にしてる、いつもいつもそれが中心。
輪廻が行って帰って、現場に行って、そして残されればまた……。
「ハイ……、はぁ……はぁ……、はぃ……。どうだったでしょうか」
しかしかなり暑いわね……ふぅ~……。
残された女優陣、その役分担の一発目。大体この時に目つきが鋭い。
俺は緊張しながらも台本と原作を見つつ……。
「灯火。大体は良いと思うんだけど……うん。やっぱ良いよ、おおまかには問題ないっておも」「ねぇ言いましたよねアナタ――。しっかりと講評の時はマイチ先輩か、もしくは輪廻と比べて下さいと。私達は役が取れるかどうかよっ……」
「あぁ………………――。うん、じゃあマイチ先輩よりは、微妙かなぁって……。年齢的にこの人に勝てそうにないよ、悪いけど」悪いけどね、うん、はは……ははは、フフ――。
目の前、その言葉に非常に嫌な顔されるが、だがどっちに転んでも痛いこの殺人空間。
輪廻が消えてから更に殺伐とした感じが強くなってるし。
色んな、種種雑多な役にトライする分だけ癇癪が起こりそうな雰囲気をぷんぷんさせてて。
「あぁ、ねぇ……。それで考えましたか、答えは。アナタこの契約を更新するつもりなのかしら、戸北 壮太」
「もちろんだよ灯火っ……。だって俺は全然諦める気にはなってないんだ、むしろ楽しかったなって今も思ってるっ!」
「そうですか、でもですよ、言い忘れてた……。というよりあえて言いませんでしたが、実はキスシーンが削除されてますよ。本当はあるんです、輪廻のキス……」あの子は最後まで黙ってたわ――。
「えっ……――」「まぁウソですが」でもそうです か――。
素っ気ない言葉。
ただその眼は明らかに、すぐに分かる、分からされる、と書いてあった。嫌な雰囲気で。
「もうトモちゃんお手柔らかにぃ~っ。まぁでもねぇ、実際にねぇ……。この映画が2回目あったらねぇ、まるっとその部分には到達するよね、うん――」
結構雑なんだよねぇ~、原作では。
映画を見るという約束に、陰りが生まれる。
半年後、彼女と俺は――。
そうして朝だって一人で登校する事が多くなってって。
「おっ、壮太ぁ、お前来るのおっそいなぁ~っ」
「いや、もう輪廻が仕事入ったらさ、もういっぱいいっぱいで……。正直かなり俺、邪魔っぽいんだよなぁって」
目を擦り、チャイムぎりぎりで入る、今までいましたオーラを出してて「まぁ確かにな? 素人じゃ分からねえよな絶対、あの世界は独特だもんなぁ……。それにどうせ記憶に残らないんだ、良いだろうっ」じゃあ俺と一緒にカラオケ行かねっ?
その言葉にうなずき、壮太は一緒に出かけていく。
この間に思った以上にクラスメイトと仲が深くなったのは良かったと思えたが。
「まぁさ、マジであれは要注意だわ……。見てるだけじゃどうしようもないもんな」
灯火怖いし部活も休めないかな~。




