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「あ、おーいっ、今日も一緒に帰ろう輪廻ぇ――!」

「あぁ~~、ごめ~んっ。今日はでも、結構迷惑かけちゃうかも~。今から他の俳優さんの演技チェックしなきゃだから、詰めなんだよね……。あんまり話はできないと思う、ごめんねぇ~」

「えっ……。女優さんって、他の俳優さんとかもチェックするの、そこまでしなきゃいけない物なの?」


 微笑んで来る輪廻は頑張ってますっていう顔で笑い……。


「えとねぇ……、まず、私達って映画のお仕事が始まったら集合してね? それで年輪さん出番で~すって呼ばれて、ハイ、じゃあ演技で、お仕事終わりになるのね?」

「ん――? え……え?ソレ……意味が分からないんだけど、どういう事?」


「ほぼ即興なの、リハーサルと実演入れたのは当日挟むけどぉ……、だけどその前に皆で集まってこうやろう、こうしよう~って感じは全くないんだよ」

だけどそれでもアドリブとか挟むからね?

「だから正直……、他の俳優さんの思考とか間とか呼吸、しっかり見とかないといけない、有名な人ってある程度分かるからねぇ、それは楽なんだ~って、ふふふ」


 そう言いながらしっかりと見入る輪廻に、少し恐ろしい物を感じる。そしてあんなに必死に灯火がマイチが、あの台本にしがみついてる理由が分かった気が。


 夏の訪れ、まだ明るい空の下。


そう……、そうだよ。それで……一番怖いのは名前を知らない人なのね……。同じような役だったりをしてるとありがたいけど、それは息が合うか……。

「ふぅぅ………。でも多分私もそう思われてるよ、それでも個性を出さないとだよ……よっしっ、お願い……」


 そう言うと何度も何度も繰り返す。映像と交互に台本を見て真剣な顔。


「あぁ……、輪廻? 映画の仕事って大変なんだね。一緒に会うのとかは大丈夫なの、そんなに難しいのに……、もし主役になって仕事増えてきたらさ……」それはどうなって……――。

「あぁあの………っ、実は特殊事項を上手く出し入れできるよう頑張ってるよ。CMとかも特にそうだしねぇ……、雰囲気に波あるね~、なんて言われるけど、大丈夫なのっ♥」そう言って笑って髪をイジる。

「戸北くんは気にしないで良いよ、全然うん……。結構スゴイ子は早退とかするらしいけどね、そこまでじゃないんだよ」私はまだまだかな……――。

「そうなんだ、分かったよ……」


 うなずき、ひたすら横にいる事しかできなかった。


 でも確かに彼女は学習している、恐らくは色々な形を模索し……。

 若い女優はこの一発の現場で、誰も知らない、内輪に入れない外様で。名前すら分かってもらえずとも現場で結果を出すのだ。


 大手と中堅と、弱小。そして新人や血縁。

 主役なら3か月もの長丁場の撮影、彼女の仕事に対して改めて不安を覚え……。


 私なら絶対……私の居場所……、絶対にどこかで……。








 もう木陰じゃないとなって思い始める暑さが来てて。退屈な美術の授業中、あまり絵に興味ない男同士でだべっている。


 学食の微量でかすかな臭いがして……、何よりも湯気っぽい圧に心労を思いながら。


「それでさぁそれでさぁっ、なんとうちの姉ちゃんがさっ……、このままじゃ私、スタントマンにしかならなくなーぃっ!? って突然言うのな」

「おっ……おぉ、確かなんかあの人……、お助け部じゃなかったっけ。あの天界少女の人まだ同じような事してんだな――」それで……?

 だべり続ける。するとふと、気づく甘い香りが。そこに見慣れた顔を見た気がしたんだ。携帯を掲げて何か――。



「あっ、なんだコーハイ先輩じゃないですか~。おーい……どうしたんです~? 何か探してますかぁ? 鳥とか虫とかですかね、それとも音波でも?」フフ。

「あぁ、ううん、違うけど……、でも近いかも~。まるっとリンちゃんの鳴き声探索隊だよ~~。大丈夫かなぁ~」多分ここら辺で……。あっ、あっ。ほらほらぁ、今聞こえたよねぇっ!

 あの子またやってるぅ~~っ!


「えっ? あぁ……本当だ、これは輪廻の声か、多分これは音楽室で……」


 聞こえてくるのは輪廻の声。

 だが授業中だ、確か彼女は体育だったはずだが――。


 がさごそガササ……。あぁ、あの……、普通に行けばよくないですか?ナゼ草むらルートを。

「まったくぅ、悪い子リンちゃんだなぁ~。あの子は激しい動きのある役とかだとね、自分の体の限界を超えようとマルっと必死になる時があるんだよねぇ……。だからお姉さんがそれを止めなきゃなんだよぉっ!」

「エッ!? うそ……っ。やっぱりなんていうか、乗っ取りとかあるの、本当に!?」

「あぁ~ー……そういうホラーじゃないんですけど、なんていうのかしら……、えぇ」横に突然現れた灯火が――!「台本が最高に良いか、それか最高に駄作だと特に起きやすいんですよ。まぁ、今がそうよね。女優よ……。意地でも自分の力で変えようとする――」

 笑いかけ。


 それでも2人が見守っている。そして本当にセミでも捕まえるみたいに忍び寄り……!


「こらぁっ! いけませんリンちゃんっ! まるっとそろそろオーバーワークだよぉっ」「わぁぁあア!? また捕まっちゃったの私っ……!? でもでも、このまま帰っても恥ずかしいよぉっ、マイともフレンズ見逃して~~っ」ふぇええーーん。


 聞けば美術や体育に音楽、あと家庭科と科学の時はよく仮病を使って抜け出すらしい。その言葉にマイチが駄目駄目して、バタつく輪廻を一本カツオ締めしながら引きずって行く。


「ふぅ~……、まぁ、それが私達の関係だわ、持ちつ持たれつ――ね」

 そして灯火がどこからかカギを出して、見事に施錠してみせるのだ。薄笑いかけられる。


「ねぇ……、ところでですね、あの子は東京行きますから。用意しといて……、見送るのでしょう? ほぼ専属マネージャーとしては終わりよ、是非来て下さいよ……」



 その言葉にぞくっと心臓が高鳴るんだ。

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