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「はいっ、じゃあ早速各自で役をしましょうねっ! 映像部は本格的に活動だ、頑張ろうねッ」『お~ぅっ♥』
今こそ熱が入った様子で、まるで自分達がその現場にいるようになる3人。荷物の片づけをするしかない俺は部室で激しいやりとりをする女優を見ながら、その始まりを感じ取る。
そして時を見て、はい、行ってきました。と、近づいてきた彼女に……。
「あぁ輪廻……っ、おかえり! 本番もうすぐなんだよね。確か衣小って、もう衣装も小道具も入れた合わせなんだろう、全部が出来上がったっていうサインだって……!」
「うん、そう。そうなの戸北くんっ。もうすぐ私の映画が始まるよ、楽しみにしててねっ。今回は10日間なんだ~、迷惑かけるかもだけど……、でも戸北くん、義臣 輪廻をどうかよろしくです……」
そう言うと真剣で、そして同級生らしく少し赤い満面の笑みを見せてくる女の子。
こんな嬉しそうな少女を見ると実感する、辛くても2周目を選んでよかったと。
「10日だ、もうすぐ終わる……。そしてまた始められるんだ……」
そこからは映像部が本格始動、ただひたすらに3人で、そして2人でだって稽古してる。
顔があえばひとまず色々な配役を試し合い、何度も何度もその台本を手にして、部室で輪廻が出てもいない1シーン目から続けて。
そして録画したのを必死に覗き込んで確認と練習に延々と費やす。
「ハァ……ハァ……、しっかり撮れたかしら……」
真剣な表情、あとのマイチはうなずくが「うーーん、でも……、も一回お願いっ。でもありがとうねぇ、こんな本格的な女優さんと練習できるなんてスゴイからぁっ♥」あっ……それでねそれでねっ、次はこの子だ……。
どうしようかぁ?
「あぁー……、どうしようもないねぇ~。でもホントにこのプロダクション強いですな~、まるっと明らかに違う雰囲気だもん、ねじ込んだのかなぁ――」
「えぇ、バーターでしょうね、分かりやすい気がします。またこの事務所ですし」「そういう人の演技って出たとこ勝負だからねぇ……。うーーーん………経験的にでも、まるっと分かるのはねぇ……」もうヤダぁ……っ、私この事務所キライって事ですぅっ……!
そう不平を言いながら練習する3人、だがすると、輪廻が時計を見て出てしまうのだ、どうやらクラスでの当番があるらしい。ごめんと謝ってすぐに……。
「ふぅ………、しっかし、大手プロはこの子推しなのかしら、面倒ですね」「うーーん。まるっとどうしようか~~……。ホント面倒なの。もう年齢被っちゃうじゃ~んって、ホント迷惑です~~っっ、もぉぉおっ!」
でも良いなぁ~~、事務所大きくて……。
「あぁあの………、そんなに事務所とかって関係あるのかなって。結構かなり気にしてますけど、正直実力とかあったら結果成功するみたいな、そんな場所なんじゃ……」
「甘いなぁ~……、甘い甘い。壮太君まるっと申し訳ないけどぉ、芸能事務所が全てを握ってるんだよ? 私達じゃいつ首飛ばされるかも分かりませんっ……、押し出しやすいんだよねぇ、困った事に」
「あぁねぇ、じゃあですよ? 例えばアナタ中学生に、プロのプレイヤーになりたいなら頑張ればなんとかなる。実力があれば公立からだってドラフトかかるよ、気にするなよっ、って……。そう言います?」
そんな常識あり得ますか?
その言葉に激しい程に同意させられた。それが事務所だ、甲子園に出れるかどうかも既に入学で決まってるし、そこからしかスターは生まれない。
経験できる大きな試合も練習器具も、監督もコーチにも差。コネにまで大きな差が……。
「とりあえずだけど~、まぁー……ありていにね?事務所間違えたらまるっと最悪だよぉ? 早急に出ないとだ。自分のやりたい事に弱いだとかぁ、運の良い悪い以前の問題だよぉ~。最悪売り飛ばされ……」
あっあっ、でもこれ、これなんか良いんじゃなぁい……っ!
話をしながらもしっかりと編集し、探っていく2人は。
この部室は何気に5台ものカメラが取り付けてあったりする、しっかりとした個人撮影用の部室になっているのだ、だから棚や机も置いてない。正直ゴミを除いてあまりに殺風景なんだ、よく下にヒザをついて堅い椅子で少女達が筆記してるし。
「えぇえぇ……、大体こんな感じですね。3人の適役も見えてきた気がしますし」「えぇ~、まるっともう少しだけ確認すべきだよ、まだ早いよトモちゃ~ん」
「まぁ……、えぇ、そうでしょうか。あと少しカメラワークが……、まぁ無理ですけど。コレで良いかと思うわ。あとでもそれなら私はぁ……――?」あぁ……―フフ、アナタは覗き込まないでよ――。
あっちお行きなさい、しっしっ――。
何気にパンチラが普通に、多数撮られているので触らせてもくれない映像。映像部部員ですが――。
「でもやはり……、さすがに海の場面は水辺でヤリタイですねぇ、越県して遠いけど海辺行きますか、しょうがないわね……」当然荷物持ちもよ。
「あぁ~……、でも遠くないかい灯火。まだ全然水は冷たいしさ……、そこはもうCGとかでやった方が良くないかな」
「えっ……?アナタ……、そんな事までやってくれるんですか? CG技術も身につけて効果音処理までしてくれると――」
その言葉にすぐに小刻みに頭を振る男に「ちっ……――本当に役に立ちませんね、雑用で死んで下さいよ、雑に死んで欲しい――ッ」
本気で怒られた……。




