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「そうなんだ。あぁでもそう言えばさっ……、本当にマイチ先輩の男役キマッてましたよ、俺それに驚いたんだ、一番……っ」
「ありがと~♥ でももうあと一歩足りないのねぇ、う~~ん……。それでホントのお仕事に結びつかないとだ~……。そうやって丸っとリンちゃんはもう、年間でしっかりとお仕事もらえてるから」ふぅ~……。
事務所が中堅とは言え、リンちゃんだけはレッスンとかも免除だしぃ
「私達なんかはまるっと逆にお金払うんだもん、今でもトントンって感じだもんねぇ~」
「そう、マイチ先輩は男役をさせるとピカイチだわ。それでもエントリーシートも楽じゃないですよ……。事務所での立ち位置や力の入れられ具合、そして割り当てられたオーディション参加数に……」
頭を抱える姿、事務所での立ち位置から始まる仕事、それは心労も多く「そうよ……チャンス不足にあえぐ先輩なんていくらでもいます。大手事務所はコネもすごい、それでもあの子は役をかっさらっていきますよね……」
携帯を切る。夜でも艶めく、コンビニの光からですら光輪を滑らす黒髪を払って。
「はぁ~~っ、それじゃああの演技はもう、1万5000人の中でもって事か……」
聞けばやはり、かなり厳しいらしい芸能界の現実。
もう子役ですらドンドン頭角を現し、モデルやアイドルからも参入、しかも女優は30歳までが一つの限界に至る世界。凝縮された過当競争の現場。
「今の所、給料制をオファーされたのは輪廻くらいですよ、当然断ったけれども……。それでもそんな強さってズルい位ですよ……」
「えっ!? 給料制っ? お給料って、あの……、俳優さんって役の数次第じゃ? サラリーマンみたいな感じって事なんだ、気楽にできるね、そんな新人歓迎のシステムがあるんだぁ~」
「そそ……、だからねぇ、ソレをゴリっと勧めてくるのねぇ、ウフフ♥ まるっとあの人達は~、今から絶対上がると思うか、もしくはもう上がってる人間、それを安く使おうと必死なんだねぇ♥」
それは行きはよいよい帰りは……地獄。
ココにハメられるとCM500万とったとしても、基本給20万+ご祝儀10万とかになりかねない。とにかくキレるか移籍をチラつかせるまでは歩合制に戻さないという方針だ。
その姿になんとなく世知辛い何かを感じるが、だが、そのオファーをされたというだけで既に満点という事で。
「この業界、狭くて厳しくて息苦しいですよ……。普通の女優なら来歴はすっかすか、もし20歳はたちまでに映画やドラマに出られてれば人気女優です、10本で良い……、むしろここに入るかどうかで道が変わる……」
そして今15歳、あの子はこれで3本目――。
子役時代を除けばマイチ2本、灯火0本。
「主役までやっちゃうともう、大出世だよねぇって……。まるっとそれだけでCMも来るしぃ~、色んな賞とかも取れちゃう可能性が高いんだよぉ」格の違いって奴だね――。
「えぇそこですよね、そこ――っ。女優業だけでなんて、どんなに売れても1億がせいぜいだわ。でもCMの頭を抑えればそれだけで3億は行ける、これが現実ですよ」
その言葉になんとなく驚く。当然狙っているのだ、やはりこの3人は空気が少し違うと思える。
するとため息交じりに……「ねぇほらアンタ……――気づかないの? さっきからほっぱらかしだわ、思った以上にあの子はそういうの無理――」
そのぽかーんとしてて寂し気な輪廻への目配せに「アッ……、あぁぁ……そっかっ、ごめん輪廻っ。なんか本格的な女優さんってのを見ちゃってさぁ、ちょっと興奮しちゃったんだ、うんっ! でもなんか女優が分かった、輪廻達のすごさが分かったよ俺……っ」
むしろ今も驚いている、そのマイチ先輩の思った以上のオッパイ感と、可愛さと。
そして灯火の背がほぼ自分と同じ大きさだった事にも。それで「何――?」だなんて眼で言われると、近寄れない理由が分かったと……。
「だから絶対にその映画見に行きたいって思った俺っ。なんて映画なの、もし良ければ一緒に行こうかっ!」
「あぁ~えぇ~~っ? 私が出ちゃった映画に一緒はですねぇ……、ンフフ♥ねぇどうしよう、ともちゃんにマイチ先輩っ、これってありなのかなぁってっ!」
「まぁ……、賭けになる程度にはよくあるわね。私は行かないに1000円です」「えぇ~、私はじゃ~あ? 行くに1000円? でもまるっと前みたいに鼻血出しちゃったらもう、ノーカンで良いよねぇっ?」
なんか壮絶な事を言っている2人に輪廻が怖がっている、震えてる「え、え――、鼻血はヤだよ……ヤダ。じゃっ、じゃあ壮太きゅんっ、一番行きたいとこ行こっ、遊園地行こっかぁ♥ うん~~っ♥」
――。
―――――――――――。
「あ……っ、あぁー……えと輪廻。遊園地は、うん……――それはえぇと――――」
顔が変わって……。
どすっ!「ぐふ――!?」「こら……―っ! 演技じゃなくてもですねぇっ……、上手くかわす方法を見つけてよ、色々考えて下さいよ!」
ったく――。
灯火に怒られて小さくなるしかない。
笑っているマイチ先輩、ごめんね~と謝る輪廻。
そのままスルリと駅でお別れ。
前と違って、それは、なんとなく上手く行かなかった気がした。
電車に揺られる、3人は。
「本当にアナタ……、あんな程度の男で良いの。私には分からないわ、言っておいたでしょう」
「でも良い人だよ、絶対絶対。あんな事言ってくれるの初めてだもん、私……少し感動しちゃって」
「だからこそよ」
その言葉に目を伏せる輪廻に「あと何よりもこれ……、無駄ですよね。2周目以降は意味ないって分かってるのに、何故……―」
「まぁまぁトモちゃんっ。でも先輩さんは良いんじゃないかなぁ~って♥ まるっともしかしたらぁ~、あの子みたいにぃ、また奇跡、起こすかもだよ~?」
その言葉に鼻で笑う。
「どうだろうね……うん、戸北……、壮太くん」




