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大女優の恋、引き受けます。
闇に浮かぶカゲロウ。
たくさんの人が人生を描く、その光を必死に囲んでる。誰もがココにいると、ここに人生があるのだと叫んで世界を切り開くのだ。
鮮やかで……、そして何より煌びやかで。だがしかし、それは社会階級か、恵まれない者や貧しい者も。これから幸運に恵まれる者、破滅する者。悲劇に喜劇。英雄の歌。
でもそれでもひと際大きな女の子の声が聞こえた……、女の子の声は呼んでいるんだ。必死にもがく、それは必然を取り戻すために、でも彼女は今は……。
さぁ………、出番が来たね。大女優の始まり……、そうしてアナタだけの為の舞台なのね。
ねぇお願い、見ててね……、しっかり今度は観てて欲しいの――。
うなずいた。迷いがない訳じゃない、でも君のその姿を見守り続けるしかなかった。だって舞台でなら花開くのだ、その天才の躍動する姿が……最高の女優との出会いを。
ただただ彼女がその、眩い光に駆け出す姿を見ていて……。
「あぁ……、やっぱり輝くんだ、特別だったんだ……。ここが彼女の居場所だよ、もう間違えようのない才能になれたんだ、だが――」
暗い顔。だが……、遅かった。震える……。
彼女は一瞥すると必死に笑顔を見せてくるのだ。しかしそれも儚い、その消え入りそうな願いに……。
「今回は絶対に最後まで……、見届けないとな、ぐすっ。キミが望んでた舞台だよ。そして約束した俺の為の舞台……っ。でもさよなら……―さよならだ……、おめでとう、もう最後だね」
取り巻く全てがもう、ソレを知っている。彼女が命の全てを振り絞り作り上げた世界は最後を飾る。
それは俺のための最後の大女優――。
そして幕が降りると知りながらも、その眼を離さず見ている事しか、もうその一人旅はすぐに……。
それは全てが遅かった日々で、間に合わなかった月日を過ごし。5月。
花は散り、全てが終わりはじめ行く当てもなく。ただただ散る物もないその青臭さを滲ませる路上で、寂しく一人歩いた。目の前で肩を押し、ふざけあってあって走る男子を見て抱く苦しみは。
「もう……、桜はとっくに散っちゃったか、キレイだった記憶があるのにな……」
失敗した。
チューリップすらもしおれてる、緑が覆う路肩はただただ徒労と恐怖を。誰からも来ないメッセージ、送る先すら分からない言葉は。
一人……。
だがそれでも、ただ……、それは帰って来たんだと。
ひとたびそこを歩けば間延びする程ののどかさが刺して、変えていくから、自分を引き戻していく。
空気も川も陽射しも、その街並みだって、それでこの、春の残り香の感じ方でさえも……。
一陣の風は爽やかで透き通り、かなり離れていた町を歩いた、その故郷。
空は広くて鳥達の声を邪魔しないんだ、青空に遠く遠く響かせるのだと思い出すんだ。
誰かじゃない音で溢れている。ほんのりと甘く、水の音。
なぁ……、もう青くて良いさ、大丈夫だよ。久しぶりに帰ったけど何も変わってない。
それに俺だって……。
「そうだよ……、案外消えてくもんだよ、物も思いも………。何も変わってないのに、でもやっぱりオレも」
ただ1つは、たった1つの例外だけは。
あの子を除いてだよ、やっぱり大事な事だけは分かる、そう……あの子の事だ。
「うっひょぉおおっ! 最高ーーーっ! 急げっ、急げぇええ!」「モール、モール、モーールぅウ!」
「あぁスゴイ―――。大型ができちゃってホント、なんかとち狂ってるのだけは分かるけどな。浸食してる……、浸透だ。あの子うっきうっきじゃないか、子供が踊り狂ってるじゃないかよ――」
田舎で車の行列、続く……続くのだ。流れていく歓喜の舞、子供の叫び声。一人目、二人目、その五人目は……、、いやそれオマエ高校生だろ、なんでライダーキックしてんだ。
揺れるワンボックスカーの後ろで踊り狂う子供を5連し、その威力を十分思い知った。たったモール一つでもこの街では大騒ぎだったろう。
一息つく、笑う。自分がまるで都会を知ってる強者のように鼻をすすり「さてさて……、どうなってるんだろうなぁ。もう5年も前の事だもん、小学生の頃だったし」
通った小学校。そこから眺めた場所、あの思い出を探して歩いて行く道。
懐かしさと共に成長を感じるけど、ただそれでも大して感情は湧かなかったんだ。今はまだあの難解な方言から解放された方が大きい程度。
懐かしい、されど少しよそよそしい町を眺めた。
決意を固め。
「よっし……―、じゃあ転校初日っ。しっかり行くかっ!」
引っ越し作業もなんとか終わりを迎え、そして新しい制服。やっとこの感覚から入れると、知らない布の感触と初めての匂いに手を通す。ツノの張った袖を撫であげて慣らし。
「でもやっぱり変な時期の転校だからな~……。もう5月だ、ちょうど仲間関係が作り終わった頃だろうに。前の高校でも散々な雰囲気だったしさぁ……」
あぁいやメールアドレス? ごめん……、俺5月から転校なんだよね――って初顔合わせで言う苦しみ、最高に苦しい経験。
じゃあなんで居んだよって顔。手続きが大変なんだよ、アニメみたいに1人暮らししたいけさ……、そんなの無理に決まってるじゃんっ!
大体さぁ……、叔母さんの家に入る予定だったのがダメになったのがケチのつきはじめで。気を取り直して行ったレストランで腹壊して、それでも相手の店が認めないから大モメで。喧嘩になってこんな町住めるかァって叫んだのが、大変良い立地の………。
まぁ―――、そしてまた、新しい高校への道を1人行きながら独り言ちるのだ。
縁故はあるはず、でも今の所声をかけられた事はないし、思い出の場所を巡ってみてもなんの兆候もない、むしろ……。急げ、急げっ、急げっ!
ん? なんだこの声は……?
まぁでももしかしたら、曲がり角を曲がったら可愛いパンくわえた女子が、そんな馬鹿な事が……。
「きゃああ、どいてぇええっ!?」
ききぃぃイ、どたっ……ばたん! 2人して転んでしまうのだ「おぉぉ!? なんてこったぁっ――」その時に見えたのは、パンツっ、そして上空に影!
空からもう一人が落ちて来て手の中へ……っ!
どすゥ!「アァ……あぁっ…腕いったァぁ!? だっ……だけど大丈夫ですかっ、アナタどうして上からっ、アンタ、誰っ…!?」
なんかどうして……何も無いのに落ちて来たけど、木も建物も無い。どうやってきた。
可愛い子だと思うけど、かなり危な……―。いや? いやいやっ――? 背中に落下用のクッションしてんな。ただ前からライド・オンぬッしてたけどなぁ!?
「あ……―、ごめんなさい、なんでもないの……―――、なんでも」
あぁでも見られましたね、どうしましょう……。
雰囲気バリバリある感じで、ふぅっとため息一つですっと立ちあがり、歩いて行ったのだ。レオタード姿で安全クッションをびっしりと背負いながら。
直後に目の前で仁王立ちが……、顔をドアップにさせて、もう一人のパンの少女は落ちてしまったその食品の透明の包みを取って、危ないじゃないの!フンって叫んで走って行った。
古のにほいが……。ド田舎の田んぼ道で汗をダラダラ流しながらも、そして学校。
クラスに向かい入れられる彼だ。教諭からの言葉が続き、そして前に出て……。
「あぁ……――えと、僕の名前は……」僕はですね……。
フゥ……――フゥ……――ときた……、戸北ぁぁ……――。
「一応ですね、あの………うん。はい――、僕は戸北で……」
ハァ……ハァ……、そうだよ……壮太くぅぅん……フゥ……フゥ……早くそうた、早くぅぅぅ……。
彼を迎えたのは平凡なクラスで、何もおかしい事は……ガタタタ――っ!「アッ……!? うそぉっ――もしかして君は、壮太君!? 戸北 壮太君だよねぇっ!?」
「えっ!?ハイっ! う、うんっ、ハイそうだよ……っ、もうずっと詠唱されてるよねぇ……」「エッ!? どうして俺の名前をって……え!? 私だよ、なんで……っ、約束したよねっ。どうしてかな、あの約束ナンデ覚えてないのぉ!?」
そのダユンっと揺れる我がままオッパイに、意味不明な部分すらも一気に飲み込まれそうだった。
ただその時、一瞬確かに思い出す物が……。
「うぅ……、やく……そく?」
頭がクラクラする――。オマエ、このクラスじゃないだろう、いや、そこは良いでしょ先生ッ。それでパンは……パン、なんかすっごい目で睨みながら時間を確認し、ひたすら舌打ちしてる朝にぶつかった少女、それらを横目に頭を抑える。
あぁ……苦しい、ズキズキと迫る。ちなみにあの空から落ちて来た子は別クラスか……、外で待機だわぁ。
「あぁえと……、でも三枝ぁ? オマエ戸北君と知り合いか? それなら良いけ」「いいえ違いますっ。違うけど約束ありますから先生――っ!」
等というカオスな問答をして、そして放り出され、授業開始。
「じゃあね……、私の目的を言うね――」
そして休み時間、唐突に始まる自分語り――。
何かヤバい感じなので、ひとまずトイレに一旦引きこもろうとした矢先。それは白のシャツを着て緑の細いリボン、結構お洒落な黒と紫のチェック柄のスカート。まぁ……全員と同じという事だ、大きなリングのピアスは外してる、学外だけだわ。
「私は天界からやってきた。でも見られてしまった……、私の正体を見られたのは初めて――。それでお願いがあるの、天界では必要でとても重要な人材が不足している、だから……バスケットしよ?」
ン………? はぃ……? あぁぁ~~ハイハイ――――――。
「バスケットですか……バスケットなんですね? これ全部きっと、そう言う系ないんですね? もう良いんですね、俺の方はもう気づいてますよっ、ねぇ!?」
「うん、そう。それで良いの――。とりあえずドリブルー、て言いながら手で掴んで、走ってっ、ものごっついゴリラが邪魔してもダンクして!とりあえずダンクッ! ダンクできないなら私がサポートするからぁァっ!」
あっあっ、ヤメて……っ、ホントちょい前に映画化したから、権利意識あるからやめてぇっ!
「おぃおぃ待ったぁあっ! コッチは地味めのオカルトだけどなぁっ、それでも本物いるからさぁ!?」
ダンっと物音、時間が来てしまった、立ち上がる少年たちは俺を囲い、黒の手袋を掲げて「なぁ覚えてくれよっ……、最恐なのに零能力者って言われてて、貧乏でも生徒は絶対に守ってくれるっ!そして……左の腕には市教委公認の、最強で危ない鬼の紋様がぁあアっ……――」
ヤメロっつってるよねぇぇ!? 小学生エロばっかでなかなかハードル高いけどっ、主題歌はかけるなよ、絶対駄目だぞ、ダメに決まってんだろう!?
とある力が、僕を今動かしそうで、なんか怖くなって壮太は逃げてしまうのだっ!
増えてく……、でも増えてくぞ。ただこのまま行くとすんごい琴線に触れる気がしてならないし、あとマズイ、装備が充実してるんだよっ! あんなにうねるバットはムーミンでも見ないっ!
安全配慮の鬼ィイイ!「頼む~~っ! 私達きっと運命だよ~~っ♥ 幼馴染だからきっとォっ……、だからね……フゥ……フゥ……約束のアップリケで全国目指そゥーーッ!?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド
「おぃ! 俺らの番だぞ、少し長すぎるんだよっ! 今から転生すんだよ、その準備があるんだよっ」もう轢き殺す準備もしてんだッッ――。
「ちょっとぉ、押さないでよっ、今から仕上げるんですからぁ! 2部制だって言ったよねぇっ、ツンデレの良さを知るのは2周目からなのォォっ!」
あぁ、あぁなんだっ……この場所はぁあっ!? 全くもって出会い放題、定めのない運命の場所……、開かれた密室ッ。こんな目的意識ハッキリしすぎてて怖い空間はーっ!?
もう部活とか部活とか、あと部活しかない。
だが転校したばっかりで意味が分からない、右往左往。そして追いつめられてしまい、ついには屋上で――。
「はァ……はァ……、でも、ごめんね……ごめん、実はここまでが作戦なの」「そうそ、本当はね、会いたがってる人がいて、ソレの為に一芝居うっちゃったの……」ココが約束の場所って言うから――。もぉ~~~。
屋上に100人というボリューミーさが。退いていく、皆が退いていくんだ。そしてその人の波が開けて音がして。
がちゃり……―きぃぃ――――。
そして現れる真打。
君は知っているだろうか、逃げられない屋上に筋骨隆々のツワモノが次々入って来る恐怖を――。
全員権力持った生徒会だし~♥って……。
「さぁぁ来いよっ、戸北 壮太ぁぁっ! コッチはぁぁ……ハァ……ハァ……少人数でまっったく女っ気はないがぁ……っ、だがっ――。だがしかし……」ふぬゥぅぅ、うぅぅウ。
上腕二頭筋サイコーでーーすッ! 100人によるコール、うねる、ウネるウネる筋肉。「何故が粒選りの女が1人だけいるぅぅっ」
大胸筋おっけーでーっすッ!「そうだぞッ、それは結構あまりに素っ気ないが、だがっっしかし! 部活の事は本気で思ってるし、何よりヤツは馬鹿耐性が異様に高い!」
「そうだ、男だけで馬鹿な事だけして過ごせるぞぉぉッ――!」ハフぅぅぅ――♥
後ろは奈落、そして目の前には筋骨隆々の海パン野郎ども、涙出たんよ――。
近づいて来るぞ、生徒会権限でタイム2倍でーーすっ♥
「さぁ来いよ壮太ぁ……っ。良いぞウチは、そして何よりなァっ、最終兵器あるぜ……、うちの姉ちゃんは可愛くてもヤル気ないがぁっ、思った以上に性に寛容だぁぁぁっ!」
『さぁ、水泳やろうぜぇええっ!』
まぁ………――、うん。子供が少ないという事だ。海パン寒そ。
あっ、でもホントだっ!姉ちゃん綺麗だわぁぁッ――ッ!携帯に見入っちゃうじゃん、どうしよ――。サービス回として出てくるには最強かよ。
「じゃあ分かったかよなぁ? 絶対に絶対に無駄だからぁ……ハァ……ハァ……、全学年の才能が固まってるからねぇ、オッパイも固まってるってェぇッ……!」
「親も親戚もっ……、保険のエッチな先生もロリ教師だってついてんだよぉおっ! 絶対に部活させるんだよぉオオっ!!?」
あぁもう無理だ、そこも抑えられてるんだ。激突する全校生徒たち。
「全員の力を合わせんだ……。どんな可愛い子見つけても……、もうそいつは穴場じゃねえぇよォっ」「そうだぞっ、部活以外からは逃げれるけど、でも部活は人生なんだっ、認めろヨぉお!?」
すんごい頭悪そうな事言ってる……。
あぁ……んぅ、そうか……。なんか物理は良いよ、もう体育会系は良い、でも文化部の文化ってなんだっけ――?
踊って蹴散らすC言語VSいとあはれ(物理)が激突するのを見て、ふとそんな事をもよおしながらも、迫って来る奴らに首を振る。どえらい学校だと。
俺は今色んな不安に突き刺されているんだ、この言い知れぬ焦燥感と恐怖。
だがすると突然だった、携帯電話が唐突に鳴り出すのだ! それは全員のもので――!
耳をつんざく。
けたたましい音の中、それはなんとなく見覚えある名前、そして出た次の瞬間には……。――別の部屋だった、出会ってしまったのだ――。