096 Bランク試験 ミナト2
ミナトは咄嗟に素手で身構える。
無防備な体勢で剣を収めていたとはいえ、そのわずかな時間で呼吸を整え、武の構えを完成させた。
それはハイリザードマンからすれば、最大の誤算であっただろう。
剣を持ち戦っていた者が、素手であっても同列、あるいはそれ以上の、重い威圧感を放っている。
だが、ハイリザードマンには槍を放つ以外の選択肢はない。
飛び出した勢いをそのままに、ミナトの頭に向かって、鋭い突きを放つ。
だが、ミナトはそれを正確に見極め、上半身を沈めるようにしゃがんで交わすと、反撃を加えようと、低空のまま一歩前に出ようとする。
だが、リザードマンは槍が空ぶったところで、驚くべき機転をきかせた。
空中で胴体を無理やりひねり、その遠心力で尻尾による、下段への凪払いを行う。
低空で構えるミナトに対して、とても有効な攻撃手段だ。
さすがはBランクの魔物というだけあり、それなりの経験のようなものからくる、攻撃の機転をもっているのだろう。
ミナトは、反撃を加えるべく、動き出した瞬間だったため、回避も間に合わずに、両腕を交差させ、ガードするしかなかった。
ドンッ!
肺の空気が押し出されるような鈍い衝撃が、ミナトの体内に響き渡る。
だが、咄嗟の凪払い、及び刻付により強化された肉体には、実質的なわダメージは無かったようだ。
「まさか、一撃もらうことになるとはな……。俺もまだまだ精進が足りないか」
ミナトはそう言うと、ハイリザードマンを見据えながら剣を抜き放ち、構えをとる。
「さっきのお返しと行こうか」
ミナトは剣を時計回りに大きく回すと、剣先を下段に構え、自身よりも後ろに向ける。
この構えはワイバーン戦でみせた残月の構えだ。
「残月の構え、穿孔!」
ミナトはそう叫ぶと、音速を越えるスピードでハイリザードマンの鎧の隙間を縫うような、正確かつ強烈な突きを放つ。
それは斬撃というより、衝撃のほうが正しい表現なのかもしれない。
剣は確かに突き刺さった。だが、その衝撃のあまり、ハイリザードマンは後方に大きく吹き飛ぶ。
傷口はえぐれるように穴を空け、もはや立ち上がることも出来ず、絶命寸前である。
「一撃で決めるつもりだったが……まだ、息があるみたいだな。すまない、苦しめるつもりはなかったんだ」
ミナトはそう言うと、苦しむハイリザードマンに止めをさした。
「ふぅ……」
ミナトは呼吸を整えると、ハイリザードマンの魔石をしっかりと回収し、湿地帯を後にした。
帰路の途中、先程の戦闘を振り返り、反省をする。
「相手が人間でない以上、予期せぬ攻撃パターンもあるよな……。例えば今回の尻尾による凪払い。あれは尻尾がある魔物なら、可能性を考慮するべきだったか……」
ミナトは腕を組み、考えながら歩く。
彼の心の中では、戦闘が何百回も再現され、改善点が導き出されていく。
「初手の槍による攻撃を、しゃがまずに、寸前で体幹を引き込み、そのままカウンター気味に反撃をした方が、仕留めきるスピードは早かったな……」
ミナトは常に反省を繰り返し、高みを目指すことに一切の妥協を許さない。
ただの帰り道ですら、ミナトにとっては思考による修行の場となる。
思考による修行を行いながらも、ミナトは三日の時を経て王都に到着した。
(クレイグは順調にいってれば、先に帰ってきてるはずだが、どうだろうか)
ミナトは先に試験を終えているであろう、クレイグの心配をする。
だが、その心配は無用だったようだ。
ギルドの扉を開けるなり、そこにはクレイグとシスカがテーブルに腰を掛け、話し合っている姿があった。
「クレイグ!シスカ!」
ミナトは二人に声をかける。
すると二人もこちらに気づいたようで言葉を返す。
「ミナトさん、お疲れ様です!試験は……聞くまでもないですね」
クレイグは笑顔でミナトの帰還を喜ぶ。その表情から、クレイグ自身も試験に無事合格したことが伺える。
「待ちくたびれたわよ」
シスカは皮肉を言いながらも、ミナトへ向ける視線には、隠しきれない労いの意を感じられる。
「これでも急いで片付けてきたんだぞ。リビアさんへの報告がまだだから、先に済ませてくるよ」
ミナトの言葉に二人は頷き、了承した。
そのままミナトは、カウンターにいるリビアの元へと足を運ぶ。
「こんにちはリビアさん!ハイリザードマン、無事討伐完了です」
ミナトはそう言うと、ハイリザードマンの魔石を差し出す。
「お疲れ様ですミナトさん!討伐おめでとうございます!これで遂にBランクですね!異例の速さでびっくりですよ!」
「リビアさんが効率のいい依頼を、紹介してくれたお陰もありますよ」
ミナトは少し照れくさそうに笑いながら答える。
「いえいえ、全てミナトさんの実力ですよ!では、ランクアップをしますので、ギルドカードとプレートをお願いします」
ミナトはリビアに言われた通り、ギルドカードと首から下げているプレートを手渡す。
リビアはそれらを受けとると、手際よく更新の手続きを始める。
「……はい、更新が完了しました!これで正式にBランクとなります。改めて、おめでとうございます!」
ミナトはリビアから更新されたギルドカードと、プレートを受け取り礼を言う。
「ありがとうリビアさん!またすぐに依頼を受けに来ますね」
「はい、お待ちしております。依頼といえば、セイラさんと、メリアさんも、ミナトさんがいない間にランクアップの資格を得たので、先日試験に出発されましたよ」
リビアの突然の報告にミナトは目を見開いた。
「そうだったんですね。彼女たちはAランクに……。追い付いたと思えばすぐに先を行ってしまいますね」
「でもミナトさんもこの調子ならすぐにAランクになれますよ!頑張って下さい!」
リビアの応援にミナトは笑顔で返し、礼をいう。
笑顔で手を振るリビアを背に、ミナトは、クレイグとシスカの元へと足を運ぶのであった。
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