009 見出だされた才能
講習室での座学を終えると、グレンは参加者たちをギルドの裏手にある訓練場へと連れて行った。
そこは魔法の光沢を帯びた訓練用の結界が張られ、石畳が敷き詰められた広々とした空間だった。
「さて、座学で頭に詰め込んだだけでは意味がねぇ。ここからは実技だ。実際に魔力を感じ取り、魔法を発動してみろ」
グレンはそう言うと、参加者たちの間を回り始めた。
個々の冒険者の魔力を感じ取り、その特性を見抜いていく。
「お前は火と風の相性がいいな。もっと熱をイメージしろ!」
「そこのお前は水か。流れに身を任せるように魔力を解放してみろ」
参加者たちは、言われた通りに魔法の発動を試みる。
指先から炎が迸ったり、掌に水の玉が生まれたり、土塊が浮かび上がったりと、拙いながらもそれぞれの魔法を繰り出していく。
やがて、グレンはミナトの前に立つと、他の参加者とは異なる指示を出した。
「おい、ミナト。お前は魔力纏いの鍛錬をしろ」
その言葉に、周囲の冒険者たちがちらりとミナトに視線を向けた。
彼らが魔法の発動に苦心する中で、ミナトだけが異質な訓練を命じられたことに、好奇と訝しげな視線が混じる。
「魔力纏いは、体内の魔力を筋肉や皮膚に集中させるイメージだ。まず、拳に意識を集中し、そこへ魔力を流し込む感覚を掴んでみろ。無理に大きく纏おうとするな。まずは微量でいい」
グレンは身振り手振りでコツを教える。
ミナトは言われた通りに右拳に意識を集中した。体内で感じとれる魔力を、拳へと流し込んでいく。
その瞬間、彼の拳が微かに光を帯びたように感じられた。
それは、まるで皮膚の下で何かが蠢くような、不思議な感覚だった。
「ほう……魔力コントロールに長けた者でも、指先に視認できるほどに魔力を集中させるには一月はかかるというのに、こうも簡単と……」
グレンの目が見開かれた。
ミナトはまだ不慣れな手つきで拳を開いたり閉じたりしてみる。
確かに、拳を握る感覚がわずかに強固になり、皮膚の表面が膜で覆われたかのように感じられた。
「魔力纏いは、ただ防御力を高めるだけではない。魔法を素手で弾いたり、剣に纏わせて威力を増すことも可能になる。魔法が使えないお前にとって、これこそが唯一無二の戦い方だ」
グレンの言葉に、ミナトの胸が高鳴った。
武術で培った身体操作の技術と、この魔力纏い。
それはまさに、彼が求めていた『強くなる』道そのものだった。
ミナトはひたすらに魔力纏いの練習を続けた。
指先から腕へ、そして全身へと、微量の魔力を纏わせる感覚を掴もうとする。
彼の感覚の鋭さ、あるいは武道家としての長年の経験が、他の者では考えられない速さで魔力纏いのコツを掴ませていく。
グレンは、その様子をじっと見つめ、驚きと、強い興味を隠そうとしなかった。
講習が終わり、他の冒険者たちが疲労感を滲ませながら帰り支度をする中、ミナトの体は、慣れない魔力意識の鍛錬でどっと重くなっていた。
しかし、その疲労感は、充実感に満ちたものだった。
ギルドを出ようとしたその時、背後からグレンの重厚な声が響いた。
「おい、ミナト」
ミナトが振り返ると、グレンが腕組みをしたまま立っていた。
「明日の朝、時間はあるか?」
グレンの問いに、ミナトは頷く。
「はい」
「よし。なら明日は8時にこい。講習が始まるまでの時間、お前に稽古をつけてやる」
グレンの言葉は、ミナトにとって何よりの報せだった。
王城で別々の道を歩むことになった親友に、追いつくための道筋。
武術と魔力という異質な力を探求する、新たな師弟関係の始まりだ。
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