089 教会と神父
訓練場をでた彼らは教会に向かっていた。
「グレンさんの言うとおり少しやりすぎたかもな」
ミナトは自身の行動に少し反省の意を示す。だが意外にもシスカはミナトの行動に肯定的なようだ。
「でも他にも不満を抱えてるやつはいるだろうし、あのくらいやっておけばもう絡まれなくて済むんじゃないかしら?」
「魔法が使えないからとミナトさんのこと舐めすぎですよ」
セイラもミナトを擁護すると、クレイグメリアも頷くのであった。
「でもまあ魔法が使えない上にミナトはFランクからCランクまで異例のスピードで駆け上がってる分、目立つってのはあるわよね」
シスカの言うとおりギルドから正当な評価をもらっていたとしても、他人から見たら魔法の使えない人がなぜ評価されているのだ、と不満に思う人もいるというのも事実だ。
だが今回の一件でミナトの実力は証明されたことであろう。
「あいつらもこれで懲りてくれればいいけどな」
ミナトはにこっと笑う。
その後も歩き続け、一行は墓地近くの教会に到着する。
「試験のとき墓地には来たけど、こんなところがあったんだな」
そこは王城にも劣らないほどの威厳を放ち、敷地から教会に向かう床は純白の大理石で磨かれ、天に向かってすらりと伸びる巨大な尖塔は、銀色の十字架を煌めかせ、まるで天界への道標のように眩しく輝いていた。
「圧巻だな……敷地から教会に至るまで、手の込んだ職人の結晶のようだ……」
ミナトは思わず息を飲んだ。
そして、この教会の最も目を引くのは、その巨大なステンドグラスだった。
正面と側面の壁面に、まるで聖なる宝石が嵌め込まれたかのように輝いている。
聖属性の象徴でもある金色と白色を基調としたガラス全体には、複雑な幾何学模様と、光の勇者や聖獣の姿が鮮やかに描き出されている。
細やかな彫刻が施された窓枠は、その強烈な色彩の主張をさらに引き立て、人々が抱く強い信仰心を、この建物の隅々まで具現化しているかのようだった。
「私も以前は試験に頭が一杯でこんなところがあるなんてわかりませんでした」
ミナトもクレイグもわからなかったというが無理もない。
ちょうど試験となる墓地のダンジョンとは対局に位置し、教会から墓地のダンジョンは見えない位置にある。
「ここの教会は王都に住んでるなら、しっていて当たり前なくらいには有名よ。でもミナトとクレイグは、他所から来ているからしらなくても無理はないわね」
シスカの言葉にメリアもセイラも頷くのを見る限り、それだけ威厳のある教会なのだろう。
初めて見るミナトとクレイグはその壮大さに見とれてしまいそうになるが、依頼のことを思いだしそそくさと教会の中へと立ち入る。
中にはいると先ほどの耽美さとは異なり、外の騒音が遮断され、中を照らす日の光はステンドグラスに反射し、どこか神聖さを感じさせる雰囲気を放つ空間が広がる。
その中央には女神のような巨大な像が祈りを捧げている姿をしていて、それはまるで世界の平和を願っているかのようだ。
中の装飾や女神の像に見とれていると、一人の聖職者の格好をした老人に声をかけられる。
「おや初めての方達ですね。私はここの神父のクレイトンと申します。本日はどうなされましたか?」
クレイトンと名乗る老人の言葉にミナトははっと我に返り、用件を伝える。
「すみません、中の装飾にみとれていてしまって……。ギルドからカースドナイトの討伐を受けました零閃の狼煙、リーダーのミナトと申します。今回は依頼の詳細について伺いに来ました」
するとクレイトンはにっこりと笑い、話し始める。
「冒険者の方々でしたか。依頼の引き受けありがとうございます。私共は教会にて『女神イリスフィア』より神託を司り、彷徨える死者の魂の救済を行っております。今回依頼にさせていただいているカースドナイトも、かつてはこの国のために戦にて命をおとし、弔われることもなく時がすぎ、魔物へと変貌を遂げてしまったようです。そのような事案は神託により教会ですべて把握し、私たちで対応できないものを依頼として張り出させてもらっております」
クレイトンはこの教会についてのことと、今回の討伐依頼のカースドナイトについての説明をした。
(カースドナイト……。魔物とは言えかつては人間であり、弔われないことにより、アンデッドとして蘇ってしまったのか。死んだあと誰の目にもとまらず、ただただ時がすぎるのを待つしかなかったなんて悲しいな……)
ミナトはアンデッドがどのようにして生まれたかを初めて知ることになった。
その表情を察したクレイトンは、静かに頷き補足をした。
「あなた、ミナトさんと言いましたか。とても優しい心の持ち主なのですね。すべてのアンデッドが元は人間というわけではありませんよ。正式に弔ったとしても、その遺体に魔の魂が取り憑き、屍を動かしているというのが大半です。なので私たちは人の魂が魔に蝕まれてしまったアンデッドを対象に救済を行っております」
心を読まれたかのような言葉に半分苦笑いしながら、少し照れるしかなかった。
そのやり取りを見てセイラがくすっと笑い出す。
「ミナトさん普段は冷静沈着なイメージですけど、なにかと顔にでるのでわかりやすいですよね」
「そんなにわかりやすいか?」
「初対面の神父さんでも読めるくらいにはわかりやすいですよ!」
思わぬ自身の弱点をセイラに気付かされるのであった。
「よきお仲間をお持ちのようだ。これならば安心して依頼を任せられますね。少し話が逸れてしまいましたが、今回の依頼のカースドナイトについて詳しくお話ししましょう」
「カースドナイトは呪いという特殊な呪術で、接近するだけで耳鳴りや吐き気などの不快感に襲われます。さらに、呪いに触れている時間が長引けば、幻覚や四肢の痺れといった具体的な症状が現れ、最終的には死に至る大変危険な特性がありますのでご注意下さい。また呪いは聖属性の魔力で相殺することも可能です。呪いによる後遺症が残った場合も聖属性による治癒、もしくは教会でのお祓いにより治すことが出来ますので、万が一のときにはお知らせください」
クレイトンの説明によりカースドナイトという魔物の特性や呪いについて詳しく知ることが出来た。
一行はその一言一句をしっかりと頭にいれ、作戦を練ることにする。
「詳しい情報ありがとうございます。カースドナイトは零閃の狼煙にお任せください!また依頼終了時に立ち寄らせてもらいますね!では失礼します」
ミナト達はクレイトンに一礼し、静まり返る教会を後にする。
時刻は夕刻前、思わぬアクシデントに見舞われたこともあり、出発するには遅い時間になってしまった。
一行は出発は明朝にすることにし、各自道具の準備や武器の手入れなどを行い明日に備え、宿へと戻るのであった。
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