074 コウキの旅路1
王都を出てから約二ヶ月、勇者コウキ、マリア、エリスの一行はアストロム王国へと到着していた。
「あーやっとついたあぁ!二ヶ月も馬車だなんて……新幹線とか飛行機はないのかよお……」
コウキは慣れない長旅に疲れているようだ。
元いた世界では魔法こそ無いものの、科学の発展は魔法と対をなすほどに素晴らしいものだと感じていた。
「なんですかそれは?無いものはないんだから仕方ないですよ」
マリアはクスッと笑いながらコウキをなだめる。
「短距離であれば風魔法で飛んでいけますが、長距離をその方法で移動するのは無謀ですよ。魔力も気力もすぐにそこをついてしまいます」
エリスはコウキの話しに対し冷静に答える。
「ともあれ、ここが『アストロム王国、王都アルカナム』です」
門をくぐった先は、アイリス王国のような石造りの街並みとは一線を画していた。
まず、空気が違う。
通常の街の喧騒ではなく、常に微かな魔力の振動と、高周波のような駆動音が満ちていた。
両側の建物は、石と金属、そして青白く発光する魔導結晶が組み合わさって構築されており、壁面には幾何学模様のルーン文字が薄く光を放っている。
街灯は、火や油ではなく、天空の星を閉じ込めたかのような均一で明るい光を放ち、夜でも昼間のように明るい。
行き交う人々もまた、アイリス王国のそれとは趣が異なっていた。
豪華な装飾を身につけた貴族よりも、複雑な魔道具や測定器を抱えた研究者や、オイルと火薬の匂いを纏ったドワーフなどが目立つ。
彼らの顔には、知識と技術への飽くなき探求心が浮かんでおり、この街が『技術の都』であることを雄弁に物語っていた。
この街全体が、一つの巨大で複雑な魔道具であるかのような、圧倒的な威厳と活気が勇者たちを包み込んだ。
「遠くから見えたときも少し違和感を感じていたが、これは壮観だな。町全体が魔道具だらけだ」
「アストロム王国は魔道具の開発にとても力をいれている国ですからね。でも私も初めてきましたが、ここまでとは思いもしなかったです」
コウキとマリアは共にこの景色に見とれていた。
「さあ、町が明るいから勘違いしているかもしれないけれど、もう夜ですよ。宿を探しましょう」
エリスは若き英雄というだけあり、冷静沈着なタイプなのだろう。街の喧騒には目もくれず、やるべきことを明確にする。
「そうでしたね。えーっと……この先を少し進んだ先に宿があります。まずはそこに向かいましょう」
マリアは街の地図を見ながら中央の道を指差す。マリアは勇者の案内役として同行しているので、地図から読み取る土地勘や、ここまでの旅のペース配分などをこと細かく管理している。
「マリアがいると初めてのところでも道に迷う心配が無くて助かるよ」
「まあそれが私の仕事ですからね。案内役が迷ってたら英雄と合流なんてできませんよ」
コウキの言葉にマリアは笑顔で答えた。
マリアの案内のもとしばらく歩くと宿に到着する。
「では今夜はここに泊まって明朝、王城に向かいましょう」
マリアの言葉に二人は頷き、借りた部屋で一夜を過ごす。
(明日やっと2人目の英雄に会えるのか……。どんなやつか楽しみだな)
コウキは新たな仲間となる英雄に期待を抱き深い眠りについた。
翌朝一行は王城の来賓室に到着していた。
「ここで待っててくれって言われたけど、国王様がくるのか?それとも英雄がくるのか?」
「おそらくここにくるのは国王補佐の人か、それに準ずる人だと思いますよ」
コウキは新たに仲間になるであろう英雄に会えることに少し落ち着かないようだ。
マリアはいたって冷静に努めている。
「ちなみにアストロム王国の英雄はどのような方なのですか?」
エリスもまた、冷静な表情を崩さぬまま、自身以外の英雄の戦力が気になっているようだった。
「こちらに在住する英雄は空間魔法という特殊な魔法を使います。その魔法により持ち運びが困難な大型の魔道具などを使うことで一騎当千の力を保持するとされています。その他の情報ですと、性別は男性で、戦闘中は人格が変わる……ときかされてます」
「人格が変わる……?」
マリアは顔を寄せ、エリスもまた首を傾げた。
「私も直接あったことがあるわけではないので詳しくは……」
すると使いのものが来たようだ。扉が開き、身なりの整った男性が現れた。
「お待たせしました、勇者御一行様。国王様との謁見の準備が整いましたので、こちらへお越し下さい」
男性はそういうと、国王のまつ広間まで案内を始める。
しばらく歩くと扉の前で立ち止まり一礼する。
「こちらにて国王様と英雄様がお待ちです。どうぞおはいり下さい」
分厚い扉の向こうに、この国の権威と空間魔法を操るという異質な二番目の英雄が待ち受けている。
コウキは深呼吸し、その新たな運命を踏み出すように、扉を押した。
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