072 災厄の魔王メギド
ミナトが書庫の静寂の中で手に取ったのは、背表紙に古めかしい文字で『災厄の魔王メギドと終焉の戦』と記された、厚い羊皮紙の書物だった。
表面の塵を払い、重々しい表紙を開くと、そこには700年前に世界を襲った未曽有の災厄の記録が、詳細かつ生々しく綴られていた。
その内容を読むにつれて、ミナトの胸中に、ただの伝説ではない、圧倒的な絶望感が迫ってきた。
『700年前の終焉』
まず書物に記されていたのは、魔王メギドがアルストリアにもたらした破壊の規模である。
メギドの出現は、この世界における最も暗い歴史として刻まれていた。
彼は出現するや否や、瞬く間に世界を戦火に巻き込み、その軍勢はアルストリアの文明を文字通り壊滅寸前まで追い詰めた。
わずか数年で、古き王国は次々と灰燼に帰し、かつて栄華を誇った都市は廃墟と化した。
最も衝撃的な事実は、世界の人口の約半分が、魔族の侵攻によって殺戮されたという記述だった。
それは、現在のアルストリアの種族の壁を越えた同盟の基礎となった、おぞましい犠牲の記録である。
魔王メギドは単なる悪の親玉ではなく、この世界の生存そのものを脅かす、『終焉』の象徴として描かれていた。
書物には、魔族の残虐な行為や、抵抗する人々の絶望的な叫びが、挿絵とともに克明に残されていた。
『魔王軍団の構造と特性』
メギドが率いた魔王軍は、その圧倒的な数の暴力だけでなく、極めて組織的な構造を持っていた。
書物には、魔王直属の部隊として、第一軍団から第七軍団まで、合計七つの軍団が存在したことが記されている。
各軍団は、それぞれに軍団長と副団長という強力な指揮官を戴き、特有の戦術と能力を持っていた。
第一軍団: 高速移動と一撃必殺の近接攻撃に特化した精鋭部隊。
第二軍団: 幻影や精神操作魔法、高い潜伏能力を持ち、敵陣営の混乱と内部分裂を誘う、諜報・撹乱戦術部隊。
第三軍団: 規格外の防御力と再生能力を誇る重装部隊。
第四軍団: 遠距離からの広範囲属性魔法を主力とする部隊。
第五軍団: 毒や病気の散布、そして生物兵器の使役を得意とする部隊。
第六軍団: 召喚魔法と使役魔物による波状攻撃が特徴の部隊。
第七軍団: 特定種族に対する絶対的な殲滅力を持つ特殊部隊。
この詳細な軍団構造は、メギドが単なる破壊者ではなく、知略に長けた戦略家でもあったことを示していた。
魔王軍が敗れたのは、彼らの戦力が尽きたからではなく、対抗する同盟軍が、絶望的な状況下で最後の希望を絞り出したからに他ならない。
『同盟軍の形成と勝利』
メギドに対抗したのは、当時の主要種族である人族、エルフ、ドワーフによる種族同盟軍だった。
互いに歴史的な因縁や対立を抱えていた彼らが、存亡の危機を前に手を取り合ったのだ。
同盟軍の構成は、まさにこの世界で可能な限りの総力戦であった。
勇者パーティ: 同盟軍の要であり、神殿より召喚された勇者が率いる精鋭部隊だ。魔族に特化した聖属性魔法により形勢を大きく傾けた。
冒険者達: 冒険者は二つの部隊に分かれていた。Sランクを超える実戦豊富な部隊は魔族と直接戦闘を担い、Aランクまでの部隊は情報収集や資材搬入などの後方支援を行った。
王宮魔導師: 各国の最高峰の魔法使い集団であり、主に軍事魔法を発動し、数で圧倒する魔族を一網打尽にした。
英雄: 英雄とは、ある日神託により力を授かる者たち。勇者に匹敵する一騎当千の強者であり、単独で軍団長級の魔族を打ち破る力を持っていた。
書物には、この同盟軍が魔王軍と繰り広げた壮絶な戦いの記録が残されていた。
多くの英雄が命を落とし、王宮魔導師のほとんどが魔力枯渇で倒れた。
しかし、彼らは一歩も引かず、最後は勇者パーティと残された英雄たちの協力により、ついに魔王メギドを封印することに成功する。
それは、多くの犠牲の上に成り立った、血塗られた勝利であった。
『勇者の消息』
そして、最後のページに記されたのは、ミナトにとって最も気になる情報だった。
「戦いを終え、魔王を封印した後、世界を救った勇者は、そのまま忽然と消息を絶った。彼の足取りを追う者はなく、生存も死亡も確認されていない。勇者の不在は、魔王の再封印を困難にする最大の要因となった……」
ミナトは書物を閉じ、王城の書庫に満ちる静寂の中で、深く息を吐いた。
(勇者は消息不明……そして俺は、本来の勇者であるコウキと一緒に召喚された)
彼の手に残されたのは、魔王メギドという強大な敵の情報と、彼自身の特異な魔力、そして親友コウキの運命。
ミナトは、この圧倒的な知識を最初の武器として、来るべき魔王復活の時に備えることを、心に固く誓うのであった。
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