007 冒険者講習
翌朝、ミナトは宿で簡単な朝食を済ませると、足取りも軽く冒険者ギルドへと向かった。昨日のFランク登録と周囲の視線は、確かに彼の心を少しだけ沈ませたが、それ以上にこの新たな世界と、自身の秘めたる力への興味が勝っていた。
ギルドの受付に着くと、受付のリビアさんが笑顔で迎えてくれた。
「ミナト様、おはようございます。冒険者講習にいらっしゃいましたか? 講習室は奥になります。どうぞこちらへ」
案内されたのは、ギルドの奥にある比較的広い部屋だった。中央には長机と椅子が並び、数人の冒険者らしき顔ぶれが座っている。そして、その部屋の入口で、がっしりとした体格の男が腕組みをして立っていた。
均整の取れた筋肉質の体に、貫禄ある髭面。まさに、昨日カウンターで彼の魔力測定結果に驚いていたギルドマスターだった。
「よう。新入り。俺はここのギルドの長をやっているグレンってもんだ。昨日は、自己紹介もできずにすまなかったな」
グレンはミナトを一瞥し、重厚な声で言った。昨日ミナトがFランク登録となった際の出来事を記憶しているみたいだ。
「はい、ミナトと申します。今日から冒険者講習を受けさせていただきます」
ミナトが挨拶すると、グレンは顎に手を当てて考え込むような素振りを見せた。その視線は、ミナトの左手、人差し指にはめられた魔力抑制の指輪に注がれている。
「ふむ……お前、異能体だったな。なぜその指輪をつけているんだ?」
グレンの問いに、ミナトはまた少し濁しながら答える。
「実は、他の人より魔力の量多すぎるらしく、うまく魔力の制御ができないんです。指輪にサポートしてもらわないと日常生活もまともに......。」
ミナトの言葉に、グレンの眉がぴくりと動いた。他の講習生たちも、ちらりとミナトの方に視線を向けた。
「ほう......。異質とは言え魔力量はじゅうぶんと......。」
グレンの視線が、鋭くミナトを射抜く。それは探るような、あるいは試すような、複雑な色を帯びていた。
「それと......。以前試してみたことはあるのですが、どうやら魔力が異質であるせいか、下級魔法のどれを試しても全く反応がありませんでした。」
ミナトは淡々と答えた。実は昨夜宿へ帰ったあと、書物を元にこの世界の下級魔法を、ためしていたのだ。ミナトは薄々勘づいていたが、やはりこの魔力ではこの世界の理の魔法に干渉できないらしい。
その言葉を聞いたグレンは、しばし沈黙し、ミナトをじっと見つめていた。彼の表情は読み取れない。しかし、ミナトはグレンの視線の奥に、どこか理解のような、あるいは興味のような光が宿っているのを感じ取った。この人物は、自分の「異質性」を、他の誰よりも早く、そして深く見抜いているのかもしれない。
「魔力がありながら魔法が使えないと......。ちなみにその異質な魔力ってのは自分で感じとれているのか?気のように体内をめぐっている力の源みたいなもんだ」
グレンは再び試すように問いかけた。
「はい。体内に気とは違う、なにかが流れている感覚はあります」
ミナトは武道家として、もとの世界でも気を意識した生活をしていたため、それとはことなる力の源のようなものはしっかりと感じとれていた。
「ほう...。なら魔法が使えなくても特訓次第でどうにかなるかもな。まあまずは講習をうけてけ。そこでいろいろ説明してやる。」
グレンはそう言い教卓の方へと歩いていった。
ミナトも後を追い近くの空いてる席へと座った。