069 ミナトの熱意
ギルドを出た二人は、城に向かう途中、どこかで朝食を取ろうと歩を進めた。
煉瓦造りの店が並ぶ中、一際大きな煙突が目立つ店に入る。
店内に入ると、焼きたてのパンのいい匂いが漂ってきた。香ばしく、どこか甘い小麦の香り。
(この店は間違いなく当たりだ!)
ミナトは期待に胸を膨らませた。
店員の案内と共にテーブル席につくなり、すぐにメニューを閲覧した。
「あった!塩パン!クロワッサン!これは頼むしかないな!」
珍しく興奮するミナトを横目に、シスカは少し驚いた顔をした。
「ミナトはパンが好物なの?」
「ああ、好物のうちのひとつだ」
「そうだったのね。意外だわ。でもなんでそんな質素なパンばかり頼むの?チーズがかかっていたり、肉がのっていたり、他にも美味しそうなのたくさんあるじゃない?」
ミナトは小さく肩をすくめ、説明を始めた。
「もちろんそういった惣菜パンや菓子パンも美味しいさ。でも、それではパン本来のうまさを感じることができない。せっかくいい小麦を使っているんなら、それを味わいたいんだ」
「パン本来のね……。それでなんでその二つなのよ?」
ミナトは努めて冷静に、パンに対する熱い思いを語る。
「まず塩パンだ。これは余計な味付けをせず、パンの生地に塩を微量まぶし焼き上げている。この塩が小麦のもつ香りと、バターの芳醇さを際立たせるんだ。つまり、生地の味と香りをダイレクトに感じれる。そしてクロワッサン、噛んだときのサクサクの表面と、層をなした生地のもちもちとした食感。これは生地にあえて空気を含ませる技術によって生まれる。だが、ただたくさん空気を入れればいいという訳じゃない。生地の水分量、窯の精密な温度調整、それを考慮し適度に含ませる必要がある。これにはパン屋の技術が詰め込まれている」
ミナトの熱意のこもった長々しい説明に、シスカは思わず息を飲んだ。
「つまり……?」
「この二つを食べればパン屋のレベルが分かる。それを知った上で、違うパンにも手を出すというのが、俺なりのパンへの向き合いかただ」
ミナトは誇らしそうな顔で語った。
「なんかミナトの意外な一面がみれたわ。鍛錬バカだと思ってたけど、他にも好きなことあったのね」
シスカの言葉に、ミナトは即座に反論する。
「シスカにだけは言われたくないな」
「まあそれはお互い様よ」
意外にもシスカはミナトの言葉を認め、笑った。
そんな話をしていると、注文していた朝食が届く。
ミナトは先ほどのパンとコーヒーを、シスカはサンドイッチとスープを。
朝の時間は、どこかせわしなく、ゆったりとも流れる。
二人は予定にはなかった朝食を楽しむという、休日のひとときを満喫することができた。
食事を済ませ店を出る二人は、充実感に満ちていた。
「ここのパンは旨かったな。今度みんなも連れてこよう」
「ええ、それもいいわね。他にも食べてみたいものがあったし」
二人にとって、この店は好評だったようだ。
満足した二人は店を後にし、城へと向かい歩き出す。
「そういえば城の中ってのは、一般人は入れないものなのか?」
ミナトはシスカが城の中に入れる機会がそうないと言っていたのを思い出し尋ねる。
「城内に入るには相応の身分、もしくは関係者しか入れないわ。貴族かSランク冒険者ともなれば相応の身分となるわ。今回は、勇者関係者としてミナトがいれば問題なく入れるはずよ」
「なるほどな。でも、俺が勇者関係者だっていうのはどうやって証明するんだ……?」
ミナトは公式な勇者でない上に、コウキとの関係を示すものがなにもない。
アルフレッドや国王本人に会えればそれが証明になるだろうが、守衛や受付に名前を言って通じるだろうかと不安になる。
「そうね……。まあ、ギルドカードをだして、名前を伝えるしかないわね。とりあえず行ってみましょう」
シスカの言葉に頷き、しばらく歩きつづけると、数分もしないうちに目的地が見えてきた。
以前見た時はあまり気にする余裕もなかったが、よく見ると城を中心に回りは塀で囲まれ、入口はそこしかないようだ。
王城なだけあり警備が厳重なのだろう。
そこには馬車も通れるような大きな木製の扉と、脇に応接室のような空間があり、門衛が二人ほど入口を警備している。
二人は大きく息を吸い込み、巨大な門を守る二人の門衛へと歩み寄った。
門の向こうに広がるはずの王城の威厳が、静かに二人を待ち構えているのであった。
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