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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第一章 冒険者講習

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006 新たな一歩

 王城を出ると、目の前に広がるのは、中世ヨーロッパを思わせる石造りの街並みだった。

 活気ある声が飛び交い、見慣れない露店が軒を連ねる。


 人々はミナトの存在を気に留める様子もなく、それぞれの日常を送っている。

 自分が本当に異世界に来てしまったのだと、改めて実感させられた。


 地図を頼りに、しばらく歩くと、やがて質素だが頑丈そうな建物が見えてきた。

 入り口の上には、杖と剣が交差する紋章が掲げられている。


「ここが、冒険者ギルドか……」


 ミナトは扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。

 内部は広々としており、複数の冒険者らしき人々が、依頼掲示板を眺めたり、カウンターで手続きをしたりしている。

 酒場のようなくつろいだ雰囲気と、緊張感が入り混じった独特の空気が漂っていた。


 カウンターには、気の良さそうな若い女性職員が座っていた。

 ミナトが近づくと、彼女はにこやかに話しかけてきた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。どのような御用でしょうか?」


「冒険者登録をしたいんですが、ここであってますか?」


 ミナトが答えると、職員は慣れた手つきで羊皮紙を取り出した。


「はい!こちらで登録できますよ。では、まずはこちらに必要事項を記入してください。冒険者登録には、いくつか確認事項がございます。当ギルドでは、冒険者の皆様の魔力を測定し、その量と質に応じて初期ランクを決定します。その後実績に応じてランクアップしていく仕組みです。ただ、Sランク以降はさらに条件が加わります。それについてはAランクになってからご説明しますね」


 職員はそう説明し、奥から奇妙な形をした水晶球を取り出した。


「では、まずはこちらに手を置いて、魔力を測定させていただきます」


 ミナトは言われるがままに手を置いた。

 水晶球は淡い光を放つだけで、何の反応も見せない。ミナトは僅かに戸惑いを覚えた。


「あれ……? もう一度お願いしますね」


 職員は首を傾げ、ミナトに再度促した。

 だが結果は同じだった。


「えっと……?少々お待ちください!」


 女性職員は、奥の席にいたいかにもここの長であるかのような風格の男性を呼びに行った。

 その二人が水晶球を覗き込み、顔を見合わせる。


「これは一体……? 何度やっても、魔力測定が反応しません」


「まさか……魔力無し……異能体か……?」


 ギルドマスターの言葉に、ミナトは思わず息を呑んだ。『魔力無し』と『異能体』。それが何を示すのか。


「異能体ってなんですか?」


 ミナトは聞きなれない言葉に困惑した。


「異能体とは、魔力を持たない者たちの総称だ。この世界では極めて珍しい存在だが、魔力ではない別の力を持つ者もいる。それはプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともある。おまえも何か別の力があるのか?」


 ギルドマスターの問いかけにミナトは答える。


「自分がそれに当てはまるかは分かりませんが、以前魔導師の方に異端な魔力を持っていると言われました。それがどうやらこの世界の魔力とは性質が違うみたいです。ただ、まだそれがどういった影響を及ぼしているのか分かりません」


 ミナトは国王から召喚された勇者であることは伏せつつ、それとなく内容を話した。


「なるほどな。魔力がないってわけではないのか。だが、この測定機で計れない以上、すまないが一番下のFランクからの登録になってしまう。あとはこいつと登録の手続きの続きをしてくれ」


 そう言い、先ほどの女性職員と代わり奥の席へと戻っていった。


「申し訳ありません。魔力が測定できないため、ギルド規定に基づき、Fランクからの登録となります。そちらでよろしければ、手続きの方、進めますが、いかがなさいますか?」


 女性職員の言葉に、ミナトは頷いた。

 どうやらこの世界の基準では『魔力なし』と判断され、冒険者としての最底辺、Fランクからのスタートとなったようだ。

 目標のSランクへの道のりは、想像以上に険しそうだ。

 さすがのミナトも、少し落ち込みはしたが、記入事項を全て書き終え女性職員に渡した。


「ミナト=イチノセ様ですね。ご記入ありがとうございます。ただいま登録してきますので、少々お待ちください」


 職員はそう言うと奥の部屋へと入っていった。

 一人残されたミナトの背中に、周囲の冒険者たちの視線が突き刺さった。


「おい、聞いたか? 水晶が光らなかったぞ」


「魔力なしかよ。よくそれで冒険者になろうなんて思ったな」


「どうせすぐに死ぬか、田舎に帰るのがオチだろ」


 ヒソヒソと交わされる嘲笑混じりの囁き。

 悪意があるわけではない。ただ純粋に、魔法差別のある世界で魔力を持たない『弱者』に対する値踏みと憐れみだ。

 だが、それが今のミナトには何よりも堪えた。


(……言わせておけばいい)


 ミナトは拳を握りしめ、雑音を遮断するように前を見据えた。

 その目は決して自身の無力感を嘆いているものではなかった。


「お待たせしました。ミナト様」


 戻ってきた職員が、申し訳なさそうに一枚のプレートを差し出した。

 それは、他の冒険者がぶら下げている銀や金色のものとは違う、薄汚れたような鈍色の鉄板だった。


「こちらがFランクを示す『鉄のプレート』になります。……今はまだ一番下ですが、実績を積めば必ずランクは上がりますから!」


 職員は周囲の空気を察したのか、励ますように明るい声で言った。

 その気遣いが、今は少しだけ痛く、そして温かかった。


「ありがとう。……頑張ります」


 ミナトは鈍色のプレートを強く握りしめた。

 最底辺からのスタート。それはミナトを絶望に落とすものではなく、ミナトの今の価値を客観的に示したものであった。


「いいえ、どういたしまして。では、改めてギルドのご説明をさせていただきますね。それと自己紹介が遅れました。私は受付をしています、リビアと申します。困ったことがあればいつでも聞いてくださいね」


 リビアと名乗った女性職員はミナトをギルド内の掲示板や施設へと案内してくれた。


「こちらの掲示板には、ギルドに寄せられた依頼が張り出されています。依頼にはランクがあり、ご自身のランク以下のものを受けることができます。またパーティーを組んでいただければ、パーティーメンバーの平均ランク以下の依頼を受けることができます。依頼を達成すると、報酬金と合わせてギルドポイントが支給されまして、このポイントを一定数貯めることで、ランクアップ試験を受けることができます」


 彼女はそう言って、依頼がびっしりと張り付いた巨大な掲示板を指差した。

 Fランクの依頼はどれも小規模なものばかりで、薬草採集や簡単な護衛、荷物運びといった内容が並んでいる。


「また、冒険者として活動する上で、基本的な知識や技術を学ぶための冒険者講習もございます。特に新米の方には受講をおすすめしておりますが、いかがなさいますか?」


 リビアの言葉に、ミナトは少し考える。


(確かに、この世界での常識や、冒険者としての立ち回り方を学ぶには良い機会だろう)


「ぜひ、申し込みたい」


「かしこまりました。ちょうど明日から受講可能ですので、明日の9時にギルドへお越しください」


「はい!」


 ――登録と説明を終え、ミナトはギルドを後にした。

 まずは初日、新しい情報でいっぱいの頭を整理したかったし、何より、この異世界の『王都』と呼ばれる場所を自分の目で見てみたかった。


 不揃いな石畳に足を取られそうになりながら、ミナトは地図を片手に大通りを歩く。

 鼻をくすぐるのは、得体の知れない獣肉を焼く匂いだ。

 露店から漂うその香ばしさと、独特な香辛料の香りが、ここが日本ではないことを強烈に主張してくる。


「……本当に、ファンタジーなんだな」


 ふと横を見れば、武具屋の軒先に、抜き身の鋼鉄の剣が当たり前のように陳列されている。

 日本では銃刀法違反で即通報だろうが、行き交う人々は誰も気に留めない。

 それどころか、昼間から酒場でジョッキを傾ける冒険者たちの腰には、物騒な斧やナイフがぶら下がっていた。


 平和ボケした日常とは違う、暴力と隣り合わせの活気。

 ミナトはその空気に少し気圧されながらも、今日泊まるための宿屋を探して足を速めた。


 夕暮れ時、ミナトは宿屋の一室を取り、今日一日の出来事を反芻する。

 異世界への召喚、コウキとの別れ、そして冒険者としてのFランクスタート。

 膨大な魔力を持ちながら、この世界の魔力として機能していないこと。

 そして、Sランク以上を目指すという途方もない目標。


(これから、一体どうなるか……)


 不安がないと言えば嘘になるが、それ以上に、魔法があるこの世界に、密かな期待と興味がミナトの胸に芽生えていた。

作品を読んでいただきありがとうございます。


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