058 エルフの少女
翌朝、ミナトは一人、ギルドの依頼掲示板を眺めていた。どうやらまだ他のメンバーは来ていないようだ。
「みんなが来る前に、めぼしい依頼の候補でもつけておこうか……」
零閃の狼煙は昨日付けでBランクへと上がった。Bランクともなれば、報酬もギルドポイントも高くつくが、長期の遠征依頼や護衛ばかりで、なかなか近場でこなせる依頼は少ない。
リビアから「ランク上げなら近場の依頼を複数受けるのが効率がいい」と言われたことを思い出し、どうしたものかと悩んでいた。
その時、ミナトの背後から、控えめな声が聞こえてきた。
「あのー……すいません、もしかして、Bランクの依頼受けようとしてますか?」
ミナトは知らない顔に戸惑いながらも頷いた。
そこに立っていたのは、翠色の髪と瞳を持つ一人の女性だ。その髪の隙間から見える耳は、エルフのように尖っている。肌は透き通るように白く、背丈はミナトより少し低いくらいだ。華奢な背中には、弓を携えている。
「い、いきなり声をかけてしまって、すいません。実は私、最近ランクアップしたばかりで……Cランクまでは一人でこつこつこなせる依頼を受けてたんですが、Bランクになった途端、難易度が急に上がったというか……一人での限界を感じてしまって……」
彼女は顔を上げ、真剣な顔をした。
「た、単刀直入にいいますと、私とパーティをくんれくりゃっ」
なんとなく聞き取れはしたが、盛大に噛んでいた。彼女は顔を真っ赤にして下を向いてしまう。みかねたミナトは、聞き取れた言葉をもとに確認する。
「えっとー……つまり、俺とパーティを組んで、一緒にBランクの依頼を受けたいってことでいいのかな?」
「は、はい! すいません。実は今までパーティ組んだことがなくて……あまり人と話すのも得意ではないんです。でも、その、あなたからは、他の人と違うマナを感じたというか……なぜだか話しかけやすいといいますか……なんか説明が下手ですいません」
再び彼女はうつむいてしまう。
「気にしないでいいよ。ところで、そのマナってのは、魔力とは違うのか?」
ミナトは疑問に思ったマナについて聞く。
「ま、マナっていうのは、魔力とは違くて、魔力がもたらす周囲への影響? みたいなものです。エルフにしかわからない感覚みたいなものなんですけど、たとえば、マナの悪い人が動物を育てると、凶暴になりやすく、逆にマナの良い人が育てると、おとなしく懐きやすくなる……みたいな?」
所々、自らの説明に疑問符を打つ彼女の説明は正確な理解が難しいが、ミナトはなんとなくわかったような気がした。
「つまり、俺からは、話しかけやすいマナが流れてるってことかな?」
「ち、違います違います! 話しかけやすいのは雰囲気の話で、マナは他の人と違って、感じたことがないのに安心できるような……。とにかく、いい人なんだなってのが、話しかける前から滲み出ていました!」
「なるほど...。じゃあこのいい人と一緒にパーティを組んでほしいってことかな?」
「もー!!」
少しミナトがからかうと、彼女は顔を真っ赤にして、自分の言ったことが恥ずかしくなってしまったようだ。
「ごめんごめん、つい」
ミナトは少し謝ると、続けて話す。
「パーティの申し出はすごく嬉しいんだけど、実はもうパーティを結成しているんだ。だから、仲間との相談も必要だし、君自身も、俺以外のパーティメンバー次第では、辞退したいとかあるだろ? だから、良かったら一度、メンバーと話してみないか?」
ミナトの提案に、彼女は頷いた。
「そ、そうだったんですね。そうとは知らずに、いきなりパーティを組んでほしいなんて言ってしまい、すいませんでした。もしよかったら、何かの縁ですし、一度話だけでも聞いてみたいです!」
「わかった。多分もうじきみんな集まると思うから、しばらくそっちで話して待ってようか」
ミナトはテーブルを指差し、そちらに移動する。
席に着くと、話の続きをする。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は零閃の狼煙のリーダー、ミナト=イチノセ、Cランク冒険者だ。君は?」
「私は、メリア=アルストアと申します。Bランクの冒険者です!」
互いの自己紹介を済ませ、ミナトは気になっていたことを質問する。
「メリアさんはエルフってことでいいのかな?」
「はい。王都ではあまり見ませんよね……。それもあって、なかなか他の方と馴染みづらいといいますか……」
「確かに、見るのははじめてかも。さっきのマナってのはエルフならみんな見えるものなのか?」
「はい!マナの感じかたは、エルフによって違いますけどね」
「なるほど……そのマナっての、興味深いね」
エルフしか感じとれない、印象のようなものなのだろうか。それとも直感のようなものなのだろうか。
(メリアの言っていることが正しいなら、俺の魔力は異質ではあるけれど、この子にはいい影響を与えられているのかな……)
そう思いながら腰の卵に手を当てる。自分の魔力が卵にどうゆう影響を及ぼしているか、不安ではあったが、メリアの言葉に少しばかり安堵することになる。




