056 クレイグの戦い
クレイグはリビアの元へ向かい、Cランクの試験を受ける旨を伝えた。
「かしこまりました。では、以前説明させていただいた、デュラハンの討伐になります。郊外にある墓地の場所を記した地図をお渡ししますね。到着したら守衛の方に声をかけてもらえば、ダンジョンの入り口に案内してもらえると思います。気を付けていってきてください!」
リビアはそう説明すると、クレイグに地図を手渡した。
「ありがとうございます。では、いってきます!」
クレイグは地図に書かれたとおりに進むと、王都のはずれにある墓地にたどり着いた。
その墓地の入り口近くにある守衛小屋に声をかけると、一人の老人が出てきた。
「すいません、ギルドの試験で伺ったのですが……」
クレイグが用件を伝えると、老人はにこやかに頷いた。
「おお、また試験の人かい。ご苦労じゃな。この間も一人、若い子がやってきてね。一時間もしないで終わらせてっちゃったよ」
「多分、私の仲間の人だと思います」
おじいさんの話に、クレイグは苦笑いしながら続けた。
「あの人は別格の強さですから、さすがに私はもう少し時間かかると思います」
クレイグの言葉に、おじいさんは優しく声をかけてくれた。
「なに、ゆっくりでもいいさ。試験とはいえ、油断をすれば命に関わる。自分のペースを維持するのも大事じゃよ」
「ありがとうございます。入り口はどこにありますか?」
「一番高いところに、ひときわ大きな墓石があるじゃろ? そこの裏側が入口になっておる。アンデッド系の魔物が多いから、気を付けるんじゃぞ」
クレイグは礼を言い、言われた場所へと向かった。
(ミナトさんは一時間もかからなかったと……)
それは、この試験の目安となるのか。それとも、ミナトという男の強さの指標となるのか。おそらく後者であろう。そう思いながら、クレイグはダンジョンの入り口に到着した。
「ここが入口ですか」
以前抱いていた経験の浅さによる不安は、もうない。ソロでのダンジョン探索、そして訓練場での手合わせで、クレイグはすでに多くのことを学び、自信をつけていた。彼は迷いもなく、ダンジョンへと足を踏み入れた。
階段を下り、第一層に踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を刺す。クレイグは警戒をしながら進む。
しばらく歩くと、グールやスケルトンの姿があった。彼らは呻き声を上げながら、クレイグへと襲いかかってくる。
「ファイア・ボール!」
クレイグは火魔法を連発し、グールやスケルトンを燃やし尽くしていく。彼は二重詠唱や連続発動魔法を習得しており、一人でも複数の魔物を相手にすることが可能になっていた。
地下2層に降りると、レッサーヴァンパイアも姿を現した。クレイグは火魔法と土魔法を巧みに使い分け、レッサーヴァンパイアの素早い動きを土魔法で防ぎつつ、火魔法で燃やし尽くしていく。吸血による自己回復や身体強化魔法も、クレイグの魔法の前には無力だった。
そして、ついに地下3層へと続く階段を見つけた。ここを降りれば、Cランク昇格試験の討伐対象である、デュラハンが待っている。
(ミナトさんが一時間もかからずに終わらせてしまった試験……。わたしは、どれくらいの時間で終わらせられるだろうか)
クレイグは大きく息を吸い込み、決意を新たにする。この試験は、彼が故郷を離れ、強くなることを誓った、その覚悟を試す場なのだ。
彼は迷いなく、階段を下りていった。
地下3層に足を踏み入れると、ひんやりとした空気はさらに冷たさを増し、重苦しい静寂がクレイグを包み込んだ。
通路の先は広大な空間になっており、中央には不気味な気配を放つ人影が立っていた。それは、甲冑に身を包んだ、首のない騎士。生前の魂が宿ると言われる魔物、デュラハンだ。
デュラハンは剣を地面に突き立て、微動だにしない。その立ち姿は、不気味でありながらも、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。だが、その鎧の奥からは、禍々しい魔力が漏れ出しているのが見て取れた。
「……ここが、試験の場所か」
クレイグは両手に魔力を集中させ、火魔法と土魔法をいつでも放てるよう構えた。そして、ゆっくりとデュラハンへと近づいていく。
クレイグが一歩足を踏み出すと、デュラハンはそれに気づいたのか、突き立てていた剣を抜き放った。その瞬間、彼の体から殺気が溢れ出し、全身に魔力のようなものを纏わせる。それは、刻付には至っていない不完全な魔力纏いだったが、それでもその効果は絶大だ。デュラハンの身体能力は飛躍的に向上し、その存在感は、見る者すべてに威圧感を与える。
「グアァァァァ!」
デュラハンが叫び声を上げると、地面を蹴り、クレイグへと突進してきた。そのスピードは、先程までのスケルトンたちとは比べ物にならない。そして、横一閃に剣を振り抜く。
ザァァァン!
クレイグは咄嗟に土魔法で目の前に岩壁を作り出し、その攻撃を防ぐ。
「ストーン・ウォール!」
剣と岩壁が激しくぶつかり合い、岩壁には深い亀裂が入る。デュラハンの攻撃は、並大抵のものではない。
クレイグはすぐさま反撃に出た。
「メテオ・ショット!」
溶岩の塊を球体にし、それを打ち出す魔法だ。高温と質量による攻撃魔法がデュラハンの体を襲うが、デュラハンはそれを剣で弾き、火花を散らす。
「くそっ、効かないのか……!」
デュラハンはクレイグの魔法を容易に防いでしまった。デュラハンは再び剣を振りかざし、クレイグへと迫る。
クレイグは、デュラハンの猛攻を、土魔法の防御と回避でしのぎながら、弱点を探った。首がないため弱点がない。攻撃はすべて、分厚い鎧と、剣に阻まれてしまう。
(防御が固すぎる……!どうすれば……。)
クレイグは頭を巡らせ、デュラハンの防御の突破口を模索する。
(ミナトさんは鎧もろとも、剣により切り裂いたらしい...わたしにはそんな芸当は出来ない。ならわたしは鎧をも溶かす炎を生み出す!)
クレイグはイメージした。鍛治をしているとき、鉄を軽々溶かしてしまう炉のことを。
「ロックウォール!」
普段防御につかうための石の壁を、デュラハンを囲うように連発した。やがてデュラハンは大きな石の壁に囲われた。だがデュラハンも黙ってみているわけではない。剣による攻撃で石の壁を壊そうとしている。長くはもないだろう。だがクレイグは次の魔法を発動する。
「フレイムバースト!」
壁を作るときに一ヶ所だけ丸く穴を空けておいたところに、高火力の炎を流し込んだ。ただ炎を当てるだけではデュラハンには致命傷になり得ないだろう。だが密閉された空間に炎を送りつづければやがて内部は高温となり、簡易的な炉となる。
ぐおぉぉぉ!
クレイグの作戦はうまく行ったようだ。すぐに内部は炉と化し、悲鳴を上げながらデュラハンの鎧は溶けていく。やがて鎧は溶けきり、核を表す。すかさずクレイグは魔法を放つ。
「アーススパイク!」
地面から飛び出る杭が核を貫き、デュラハンは完全に消滅する。そして、その場に残されたのは、一つの魔石だけだった。
「たおせた……!」
クレイグは安堵の息を漏らし、その場にへたり込んだ。全身の魔力を使い果たし、疲労困憊だ。しかし、その顔には、達成感と、確かな自信が満ちていた。
彼は、ミナトが言っていた「Cランクはこんなものなのか?」という言葉の意味を、身をもって知った。この試験は、Cランクの冒険者にとって、決して簡単なものではなかったのだ。ミナトがどれだけ規格外の強さを持っているのか、改めて痛感した。
クレイグは、デュラハンの魔石を手にして立ち上がった。
この経験は、彼が故郷を離れ、強くなることを誓った、その覚悟をより強固なものにした。
「よし!ギルドへ戻ろう!」
彼はダンジョンを後にするのであった。




