055 自信の芽生え
シスカが訓練場へ向かうと、遠くから激しい戦闘音が聞こえてきた。何事かと思い、音のする方へ向かうと、そこにはミナトとクレイグの姿があった。
「ミナトさん、まだまだこんなもんじゃありませんよ!」
クレイグが叫ぶと、地面に手をつけ、土魔法のアース・スパイクを連発している。ミナトの足元から、無数の杭が突き出すように地面をえぐっていく。
だが、ミナトは以前より練度の上がった刻付による身体強化で、それを軽々と避けていった。
それをみたクレイグは、土魔法の連発を絶やすことなく、左手を正面に構え、火魔法のファイアボールを連発する。同時にふたつの魔法を放つ、高等技術だ。
ミナトはそれらを避けたり、拳で受けたりしながら、クレイグに徐々に近づいていく。
ミナトが一直線に突っ込んできたそのとき、クレイグは発動している魔法を一度中断し、両手を地面にたたきつけた。
「ボルカニック・ウォール!」
火と土の複合魔法だ。クレイグの正面に、180度ほどに広がる溶岩の壁が出現する。クレイグが考えた、防御と攻撃を兼ね備えた魔法だ。触れれば火傷では済まないであろう高温の壁。
彼はミナトが壁を迂回し、背後に回ってくるだろうと予測し、次の攻撃に備えた。
だが、ミナトの行動は、クレイグの予想通りにはいかなかった。
ドォンッ!
ミナトは容赦なく、溶岩の壁を正面から拳で打ち砕いた。ミナトの刻付は、強力な攻撃だけでなく、魔力の膜による強力な防御にもなっている。さすがのクレイグもそこまで見通せず、逆に不意を突かれ、ミナトの拳が顔面に迫り、寸止めされる。
「ま、参りました……」
クレイグは手を上げ降参した。ミナトは安堵の息を漏らし、荒い呼吸を整える。
「ふぅ……。ダンジョンでの鍛錬は伊達じゃなかったようだな。見違えるほど強くなってるよ」
ミナトはクレイグを称える。
「それを言うならミナトさんもですよ。まさかあの溶岩の壁を打ち破るなんて!火傷とかしてないですか?」
ミナトは「大丈夫」と伝えた。
セイラは二人の手合わせを眺めていたが、その高レベルな戦闘に終始驚愕していた。
「クレイグさん、右手と左手で異なる魔法を使ってましたけど、あれどうやったんですか!?それにミナトさんもなんであの溶岩に触れても無傷なんですか!?」
セイラの言葉に続けて、シスカがそれとなく会話に入ってくる。
「ほんとよ。二人とも、見違えたわね」
突然のシスカの言葉に、三人は驚く。
「シスカ、帰ってたのか!」
「ええ、今さっきだけどね。リビアに言われて来てみれば……まったく、やりすぎよ。あとでグレンに怒られても知らないわよ」
シスカはくすっと笑いながら、訓練場を見回す。溶岩の壁が砕け、地面に溶岩が飛び散った跡は、確かにやりすぎだった。
「確かにやりすぎたな……」
「あとで謝りに行きましょうか……」
ミナトとクレイグは反省する。
「それはそうと、シスカ、試験はどうだったんだ!?まあ、その感じだと……」
「ええ、もちろん合格よ!これでついにAランクだわ!」
シスカはそう言いながら、首から下げているプレートの刻印を見せつけた。それをみるなり、ミナト、セイラ、クレイグの三人は、それぞれ祝福の言葉を述べ、シスカのランクアップを祝った。
「クレイグも試験受けてくれば良いじゃない。あれだけ魔法を連発できるなら、Cランク試験くらい大丈夫でしょ」
シスカがそう言うと、クレイグが答える。
「実は今、試験を見据えて、ミナトさんと手合わせしていたんです。自分の実力がどの程度なのかの確認を兼ねて、試験に挑んでも大丈夫かどうかを知りたくて……」
「そうだったのね。なら、もう大丈夫ね」
「はい!少し休んだら、試験を受けてこようと思います!」
クレイグは試験を受ける決意を固めたようだ。
「それにしてもあなたたち、私がいない間に強くなりすぎじゃない?どれだけ鍛錬してたのよ」
シスカがそう言うと、ミナトは答える。
「俺は試験が終わってからは毎日朝から晩までここにいるぞ。クレイグは昨日くらいからだけど、セイラは俺の次の日くらいからずっといるかな」
するとクレイグが口を開き、自分の鍛錬について語り始めた。
「私はしばらくダンジョンでソロの鍛錬をしていました。ダンジョンの魔物と対峙して思ったのが、魔法一つ一つの火力より、手数が多い方がソロでの戦闘には向いているのかなと思い、その結果、二重詠唱や、連続発動魔法などを会得するに至りました」
セイラも驚きを隠せない。
「確かに、大魔法はパーティーがいないと隙が大きいですもんね。私も細かい魔法の発動はできますけど、二重詠唱なんてできないですよ!」
クレイグは、謙遜しながら答える。
「二重詠唱といっても、比較的簡単な魔法しかできませんので……。セイラさんなら、コツをつかめばすぐできると思います!」
セイラは微笑みながら言う。
「今度そのコツってやつ、教えてくださいね!」
クレイグは「私で役に立てるのなら」と、快く頷いた。
するとシスカが、荷物の中から小さな包みを取り出した。
「そういえばクレイグ、これお土産よ」
差し出されたのは、グリフォンの魔石と共に回収した、鋭く光るグリフォンの爪だった。クレイグは目を輝かせた。
「これ、グリフォンの爪ですよね!?欠けもなく、状態がすごい良いじゃないですか!こんないいもの、もらっていいんですか!?」
「私が持っててもしょうがないしね。好きに使ってもらって構わないわ」
シスカはそう言って、にこやかに笑った。クレイグは感謝の言葉を述べ、大事に受け取った。
グリフォンの爪に見とれて、試験のことをすっかり忘れているだろうと思い、ミナトは声をかける。
「そろそろ出発しないと帰りが遅くなるんじゃないか?」
「そうでした!では、行ってきます!」
クレイグはそう言って、リビアの元へと向かった。
クレイグの姿を、三人は見送る。彼の背中からは、以前にはなかった、確固たる自信と決意が感じられた。




