005 別れ、そして旅立ち
アルフレッドはコウキを促し、部屋の隅に控えていた二人の女性の方へ案内する。
その中の一人、髪は肩ほどの長さで、特徴的な緋色をしている。眼鏡を掛け、若くも聡明そうな顔立ちの女性がコウキに笑顔を向けた。
「コウキ様、改めまして。私が勇者様の旅路をサポートさせていただく責任者のマリア=ノウェルと申します」
マリアはそう言って深々と頭を下げた。
「コウキ様には、まずこのアイリス王国から旅立ち、各地に存在する『英雄』と呼ばれる方々と合流していただきます。彼らは一騎当千の力を持つ、魔王討伐の重要な戦力となりうる存在です。各地の英雄たちと協力し、共に腕を磨きながら、最終的には一度アイリス王国に戻り、最終準備をし、ここから北に位置する魔族領を目指していただきます」
マリアの説明に、コウキの顔に緊張と期待が入り混じった表情が浮かぶ。
「そして、コウキ様の最初の旅には、私と、アイリス王国が誇る若き英雄であるエリス様が同行いたします」
マリアが紹介したのは、コウキより少し年上……二十代前半程に見える女性だ。
黒髪とは対照的に白を基調としたローブを身に纏い、背中には大きな杖を拵えていた。
彼女は落ち着いた様子で一歩前に進み出る。
「エリス=フローラと申します。主に回復や支援などのサポートを得意とします。コウキ様の旅路、微力ながらお手伝いさせていただきます」
エリスは静かに頭を下げた。コウキは少し戸惑いつつも、彼女に視線を合わせる。
「よ、よろしく……マリアさん、エリスさん」
マリアとエリスは微笑みながら言った。
「これから一緒に旅をするのですから、気軽にマリアとエリスでよろしいですよ。これからよろしくお願いします」
――一方、ミナトはアルフレッドと二人きりになっていた。
アルフレッドは、ミナトの持つ冒険者服と、地図や金貨が入った袋に目を向けながら説明を続ける。
「ミナト様には、まず王都の冒険者ギルドに登録し、依頼をこなして実力を磨いていただきたい。我々にはあなたの力が計りかねるため、冒険者ランクを純粋な実力と見なします。将来的には、Sランク以上を目指していただければ、魔王討伐に十分な実力があると判断させてもらいます。その上で優秀な仲間を見つけ、冒険者パーティーを組んで、きたる魔王復活に備えていただきたい」
アルフレッドの言葉に、ミナトは頷いた。
冒険者ギルド、仲間探し、そして魔王討伐。やるべきことは明確だった。
「了解した。ちなみに、魔王復活までの三年という間に、Sランク到達というのは現実的に可能なことなのか?」
ミナトは先のこともあり、遠回しに体のいい追放をされているのでは? と試すかのようにこの質問をした。
するとアルフレッドは表情こそ変えないが、少し驚きの混じったような声で反応する。
「先程、国王様の顔をたてて謝罪を受け入れて下さったのは感謝しております。しかしまだ私共を完全に信用する……というのは確かに難しいですよね。ですが、Sランクというのは実力が伴っていれば十分に可能です。コウキ様もミナト様も召喚されたばかりで、魔力量以外の情報は皆無ですが、お二人とも魔力量だけならすでに王宮魔導師をはるかに凌ぐ力を秘めております。つまりはその力さえコントロール出来るようになれば……というところですね」
アルフレッドは続けて話す。
「この先ミナト様がどのように成長していくかは、ミナト様次第です。信用しろとは言いませんが、私どもはミナト様も勇者であると理解し、全力でサポートさせていただきます。もしご不明な点があれば、ギルドで尋ねるか、いつでも王城を訪ねてください。ミナト様のお力に期待しております」
アルフレッドはそう言って、ミナトに一礼した。
彼の発言はおそらく一言一句嘘などない真実なのだろう。初対面でも瞳を見れば分かる。
老骨でありながらも光を宿した真っ直ぐな眼差しで嘘を語るなど、とんだ道化師でなければできないだろう。
国王はともかく、彼は信用に値する。
ミナトは言葉には出さないがそう判断した。
そしてそれぞれの道が明確になった。
コウキは勇者として、各地の英雄と合流すべく、マリアとエリスと共に旅立つ。
ミナトは冒険者として、ギルドを目指し、冒険者登録をする。
そして冒険者として生活していく中で、この世界についての知識や見聞を深めていく。
すべての説明が終わり、いよいよ出発の時が訪れた。
場所は王城の巨大な正門前。
目の前には、跳ね橋の先に広がる王都の街並みと、その先に続く果てしない世界が広がっている。
コウキの傍らには、マリアとエリスが旅装を整えて待機していた。
ミナトとコウキは、少し離れた場所で互いに向き合う。
コウキはなにか言いたげに口を開こうとするが、上手い言葉が見つからないようだ。
不安、期待、そして寂しさ。様々な感情が入り混じっているのだろう。
「コウキ」
ミナトは短く名を呼び、真っ直ぐに親友を見つめる。
その視線には『勇者としての役割を果たせ』という、無言の激励が込められていた。
コウキはハッとしたように顔を上げ、そして力強く頷いた。
言葉はさほどいらなかった。
いずれまた会える。その確信が二人の中にはあったのだ。
次に会うときは、お互いが今より遥かに強く進化しているはずだと。
二人は示し合わせたように拳を前に突き出した。
ゴツ、と乾いた音が響く。
そして二人は、互いにニカっと不敵に笑い合った。
「ミナト……行ってくる!」
「ああ、行ってこい!」
拳を離し、コウキが背を向けて歩き出す。
マリアとエリスが会釈し、それに続いた。
遠ざかる勇者の背中を見送りながら、ミナトもまた、反対方向――冒険者ギルドのある街の雑踏へと、その一歩を踏み出した。
二人の親友は、魔王討伐という共通の目的のため、今、それぞれの道へと歩み出した。
それは、高校生だった彼らには想像もできなかった、過酷で壮大な旅の始まりだった。
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