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004 分かたれる道

国王からの説明が終わり、ミナトとコウキは再び衛兵に促されて大広間を後にした。来た時と同じように、無言で廊下を進み、先ほどの待機していた部屋へと戻される。扉が閉まると、広間での張り詰めた空気が嘘のように、沈黙が部屋を満たした。


先に口を開いたのはコウキだった。その顔には、隠しきれない困惑と、ほんの少しの諦めが浮かんでいた。


「勇者……か。まさか、そんな大役を背負わされることになるとはな……」


ミナトは静かに頷く。コウキの体から放たれる輝きのような魔力の波動は、確かに彼が「勇者」と呼ばれるに相応しい存在であることを示していた。


「それにしても、ミナトは……」


コウキがミナトを見る。


「俺は勇者として、お前は冒険者としてって……そんなの、おかしいだろ?」


コウキは、不満を隠そうともしない。元々、互いを高め合う親友として、常に隣で切磋琢磨してきた二人だ。突然、異世界に召喚された挙句、別々の道を歩むことを強制される状況に、コウキが納得できないのは当然だった。


ミナトは、湧き上がる体内の異質な力を感じながらも、努めて平静を保った。今の彼は、国王の言葉で、自分の抱える問題が「魔力」に起因していること、そしてそれがこの世界の「魔力」とは異なるものであることを理解していた。


「仕方ないさ、コウキ」


ミナトの声は、どこまでも落ち着いていた。


「俺の魔力は異質らしい。国王たちの目から見れば、勇者としての役目は果たせないと判断されてもおかしくない。だが、お前は違う。俺でも感じとれるほどに、眩しい光のような魔力があふれでている。まさに『勇者』と呼ばれるにふさわしい光だ。」


ミナトはコウキの肩に手を置いた。


「役目を果たせ、コウキ。俺も、俺の道で、お前の助けになれるよう尽力するさ。どこにいようと、俺たちは親友だ。いつか必ず、お前と肩を並べて戦える日が来る」


ミナトの言葉に、コウキは何か言い返そうと口を開きかけたが、結局、言葉にはならなかった。ミナトの揺るぎない眼差しと、その言葉に込められた覚悟が、コウキの胸に強く響いたのだ。


その時、再び扉が開き、先ほどの大広間にいた魔術師の一人と、数人の侍女が入ってきた。魔術師は柔和な笑みを浮かべている。


「長らくお待たせいたしました。私は国王補佐を務めるアルフレッドと申します。これから、お二人がこの世界で活動するために必要なものをお渡しいたします」


アルフレッドはそう言うと、侍女たちに指示を出した。侍女たちは、次々と衣類や小さな袋、そして巻物や地図のようなものを机の上に並べていく。その中には、煌びやかな刺繍の施された勇者らしい上質な服と、質実剛健な冒険者向けの丈夫な服がそれぞれ含まれていた。


「まずは、身につけるものだ。コウキ様には勇者としての装束を、ミナト様には冒険者として最適な服を用意いたしました。そして、こちらが旅の費用となる金貨と、当面の食料、それに基本的なこの世界の地理や常識を記した書物です」


アルフレッドは丁寧に説明する。コウキは自分の勇者装束に目を奪われ、ミナトは無骨な冒険者服を手に取った。


「そして、最も重要なものがこれです」


アルフレッドが、手のひらに乗るほどの小さな指輪を二人それぞれの前に差し出した。それは、シンプルな銀色のリングだったが、中央には淡く光る宝石が埋め込まれている。


「これは『魔力抑制の指輪』です。召喚されたばかりのお二人は、体内の魔力が不安定で、それが故に周囲への影響や、ミナト様のように不調を感じることがあるかと存じます。この指輪を身につければ、体内の魔力放出が安定し、不快な症状も収まるはずです。いずれ魔力のコントロールを身につければ、外して生活することも出来るでしょう」


ミナトは半信半疑で指輪を受け取り、左手の人差し指にはめた。すると、どうだろう。先ほどまで胃の奥で渦巻いていた不快感が、嘘のようにスーッと引いていくではないか。頭を締め付けていためまいも消え、体が軽くなったような感覚に襲われる。コウキも同様に指輪をはめる。コウキからあふれでていた光のようなものがほとんどみえなくなった。


「助かる。これは……本当にありがたい」


ミナトは素直に感謝を述べた。これで、少なくとも日常生活を送る上での支障は大幅に減るだろう。


「さて、準備が整いましたら、改めて今後の具体的な活動についてお話しさせていただきたい。コウキ様には勇者としての旅路を、ミナト様には冒険者としての道筋を、それぞれの責任者が詳しく説明いたします」


アルフレッドの言葉に、二人は静かに頷いた。別々の道が、今、明確に示された。魔王討伐という共通の目標を持ちながら、ミナトとコウキはそれぞれの場所で、新たな異世界での戦いを始めることになる。それは、高校生だった彼らには想像もできなかった、過酷で壮大な旅の始まりだった。

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