036 伝承の齟齬
シャドウ・ガーディアンの残骸から、一際大きく、不気味な輝きを放つ魔石を回収する。
辺りには朽ちた金属の残骸が散らばり、闇の魔力がまだ微かに漂っていた。
シャドウ・ガーディアンが消滅した空間は静寂に包まれていた。
辺りを捜索し先に繋がる通路や階段がないか捜すことにする。
するとクレイグが隠し通路のようなものを見つける。
「皆さん!こちらに来て下さい!」
クレイグのところへ集まると、岩に隠れ、見えづらかったが、下へと続く階段があった。
(伝承のとおりなら...)
四人は意を決して、隠された階段を下り始めた。階段を降りるにつれて、周囲の空気は次第に清らかになり、ひんやりとした湿気が薄れていく。
そして、下まで下りきると、彼らの目の前に広がっていたのは、これまでの薄暗いダンジョンとは全く異なる光景だった。
そこは、まるで別世界のような空間だった。天井からはまばゆい光が降り注ぎ、足元には澄んだ水が流れる小川がせせらいでいる。
壁には色とりどりの発光性の苔や、見たこともない植物が生い茂り、清々しい空気が満ちていた。
「これは……すごい……!」
セイラが思わず声を上げた。ミナトも、その神秘的な光景に息を呑む。
まさに、伝承で語られた『まばゆき光に満ちた空間』だ。
通路は一本道になっており、分かれ道などは見当たらない。
魔物の気配は感じられないが、四人は警戒を怠らず慎重に進む。
伝承通りなら、この先には大鉱脈があるはずだ。
しばらく歩くと、通路の先にさらに強い光が差しているように見えた。
その光を目指して進んでいくと、彼らはついに、その空間へとたどり着いた。
目の前に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。
そこは、天井も壁も床も、あらゆる種類の鉱石が埋め込まれた、巨大な空間だった。
青く輝くサファイア、赤く燃えるルビー、緑にきらめくエメラルド……。
そして、その中でも一際強く、鈍い銀色の輝きを放つ鉱石が、壁のあちこちに、まるで星のように埋め込まれているのが見えた。
「これは……!」
クレイグが声を上げた。その顔には、驚愕と興奮が入り混じっている。彼の目は、壁に埋め込まれた鉱石の輝きに釘付けだ。
「 こんなに大量に……!」
シスカもまた、目を輝かせた。セイラも、その美しさに息を呑んでいる。
バルドの言葉が、現実となったのだ。
クレイグは歓喜の声を上げ、壁に埋め込まれた鉱石に飛びつきそうになる。
しかし、その手をシスカが素早く掴み、制止させた。
「待って、クレイグさん!」
シスカの真剣な声に、クレイグはハッと我に返る。
シスカが指差す先に、ミナトたちの視線が送られた。
すると、それはいた。
空間の中央、そして壁の至る所に、キラキラと輝く鉱石でできた巨体が、まるで彫像のように微動だにせず立っている。
全身が透明なクリスタルで構成され、内部には複雑な魔力の光が脈動しているのが見える。
『クリスタルゴーレム』だ。それも一体どころではない。
ざっと見ただけでも、十体近いクリスタルゴーレムが、この大空間を守るように配置されていた。
「クリスタルゴーレム……!?」
セイラが驚愕に声を上げた。その声には、恐怖の色が混じっている。
「セイラ、知っているのか!?」
ミナトが尋ねると、セイラは震える声で答えた。
「はい……。文献で、その名を聞いたことがあります。クリスタルゴーレムは、魔法完全無効の魔術師の天敵。そして、物理攻撃においても、アイアンゴーレムをはるかに凌ぐ強固な防御力を持つ、モンスターランクA認定の上位魔物だと……」
セイラの言葉に、ミナトとシスカ、クレイグの顔から血の気が引いた。
Aランクの魔物。それも、魔法が効かず、物理攻撃も通りにくいという最悪の特性を持つ。
「あんなのが、何体も……!?」
シスカは驚愕に声を上げた。
確かに伝承の通り、大鉱脈はあった。
しかし、これでは迂闊に鉱石の採掘などできやしない。
幸いにも、クリスタルゴーレムたちは、まだミナトたちに気づいていないようだ。
彼らは、まるで空間の一部であるかのように、静かに佇んでいる。
(どうしたものか……)
四人は、目の前の絶望的な状況に、言葉を失った。
静寂が支配する空間で、重苦しい空気が流れる。
誰もが、目の前の光景が自分たちの手に負えないことを理解していた。
「……撤退しましょう」
沈黙を破ったのは、シスカだった。
その声には、悔しさが滲んでいる。
「これだけの数のAランク魔物を相手にするのは、今の私たちには無謀よ。魔法が効かない上に、物理攻撃もほとんど通じないなんて……」
シスカはそう言って、悔しそうに拳を握りしめた。
ミナトもまた、目の前にあるアダマンタイトの輝きに視線を送る。
手が届く場所にあるのに、採掘できない。
その事実に、がっかりする気持ちを隠せない。
「そうだな……。残念だが、これでは手が出せない」
ミナトも同意した。クレイグもまた、肩を落とした。
「まさか、こんな魔物が守っていたとは……。アダマンタイトも、これほどの量だというのに……」
クレイグはそう呟いたが、すぐに顔を上げた。
「ですが、大鉱脈があったというだけでも大収穫です! これでグリムロックの未来は明るい! この探索は決して無駄ではありませんでした!」
クレイグは自分に言い聞かせるように、そしてミナトたちにも語りかけるように言った。
いつかあのゴーレムたちをどうにかできれば、いずれは町の繁栄が見込める。
その希望が見えただけでも、大きな成果なのだ。
「そうね。今は、この情報を持ち帰ることが最優先だわ」
シスカが冷静に判断を下した。
四人は、クリスタルゴーレムたちに気づかれないよう、慎重に、そして静かに来た道を引き返すことにした。
ダンジョンからの帰路は、不思議なほどに静かだった。
魔物の再生成は行われておらず、戦闘することなく、彼らは無事に坑道を抜け、グリムロックの町へと帰還することができた。
バルドの屋敷を目指し歩きながら、四人は今日の出来事を皆で振り返った。
「セイラ、光魔法も素質があったのね。『ホープ・ライト』は本当に助かったわ!」
シスカがセイラに感謝を述べた。
「いえ……私自身、光魔法が発動出来たのは初めてなんです。でもここでやらなきゃと思ったら、いつの間にか詠唱していて……でも、お役に立ててよかったです」
セイラは少し照れながらも、その顔には自信が芽生えているようだった。
「クレイグさんの洞察力もすごかったな。あの影が本体だなんて、俺たちには分からなかった」
ミナトがクレイグを称賛する。
「いえ、皆さんの連携があったからこそ、私も気づけたことです。それこそ、セイラさんの光魔法が無ければ、影なんて見落としてましたからね。それに、ミナトさんの最後の一撃、凄まじかったですね」
クレイグの言葉に、ミナトは頷いた。
「まだ、不完全な技だけど必ずものにするさ。それとシスカ!いつの間に魔力纏いの併用が出来るようなったんだ?」
ミナトはシスカのあのスピードが脳裏に焼き付いていた。
「あの時、あの瞬間に……でも自分でも魔力纏いを意識して発動してた訳じゃないの。クレイグの声を聞いて、あの影を攻撃しなきゃって思ったら、無意識のうちに両方発動してたみたい。正直自分でも驚いたわ」
今回のダンジョン探索は、クリスタルゴーレムという予想外の強敵に阻まれたものの、彼らにとって大きな意味を持つものだった。
シスカは魔力纏いと自己強化魔法の併用を、セイラは光魔法の才能を、クレイグは自身の知識とサポート能力の重要性を、そしてミナトは極壊の片鱗と、その可能性を、それぞれが再認識し、確実に実力を高めたダンジョン探索だった。
バルドの屋敷に着くと、四人はことの顛末を報告した。
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