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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第二章 Sランクへの道のり 前編

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034 グリムロックの伝承

 地下4層は、ダークスライムの群れが消滅した後も、湿気と不気味な静寂に包まれていた。

 通路の所々に、半透明の粘液の跡が残っている。セイラの魔力探知は、引き続き複数の魔物の気配を捉えていた。


 しばらく進むと、彼らの前に現れたのは、通常のゼリー状の体を持つ『マジックスライム』だった。

 彼らは体を震わせ、小さな火球や水弾といった下級魔法を放ってくる。


「ミナト、前衛をお願い! セイラ、魔法で!」


 シスカの指示が飛ぶ。

 ミナトは飛速でマジックスライムの魔法を回避しながら、懐に飛び込み、次々と核を砕いていく。

 セイラは、核を狙うように水や風の魔法を放ち、遠距離から支援する。

 クレイグは土属性の防御魔法で、万が一の魔法攻撃からセイラを守る。


 マジックスライムを掃討し、さらに奥へと進むと、今度は通路の壁や天井に張り付くように、鈍く光る銀色の塊が見えた。

 それは、鉱物を取り込み、体を固くすることで斬撃を含む物理攻撃がほとんど効かないという、厄介な魔物『メタルスライム』だった。


 シスカは剣を構え、雷光を纏わせた剣で斬りつけるが、甲高い金属音と共に剣は弾き返された。

 ミナトも刻付を纏った拳で試すが、とにかく固い。


(何て固さだ……!)


 物理攻撃が効かないと判断したシスカは、瞬時に切り替え、指示をとばす。


「セイラ、クレイグ! 魔法をお願い!」


 シスカ自身も、雷魔法を放ち、メタルスライムへと雷撃を放つ。


「ライトニング・ボルト!」


 雷撃により損傷した箇所に剣を突き刺す。核を捉えられてはいないが構わない。


「アイシクル・スパイク!」


 シスカの氷魔法だ。メタルスライムの内部から無数の氷のトゲが漏れ出す。

 そのうちのひとつが核を捉え、メタルスライムは消滅した。


 セイラも迷わず杖を構え、水と風の魔力を集中させる。

 水と風でもいつもとイメージを変える。

 核を正確に突き刺すような水を、風属性の力を使い高出力で打ち出すイメージだ。


「アクア・ショット!」


 セイラが魔法を放つと、杖の先から高密度の水が凄いスピードでメタルスライムへと飛んでいく。

 直撃と同時に、核もろともぽっかりと穴が空いて、メタルスライムは消滅する。


 クレイグもまた、核を狙った火属性の魔法を放つ。


「フレイム・ランス!」


 高温の炎がメタルスライムのボディを溶かし、核を露出させる。

 ミナトはその隙を逃さずに、核に剣を突き立てる。


「よし!」


 その後もスライムたちは行く手を阻むかのように通路をふさぐ。

 どうやら地下4層は、様々なスライム系の魔物が混在しているみたいで、特性ごとの対処を求められる。


 だがミナト達はそれぞれが機転をきかし、辺りのスライムを一掃し、五層へと降りる階段を見つける。


 五層から七層にかけては、似たような状況が続き、ダンジョンはスライム系の魔物で満ちていた。


 階層が深まるにつれて、魔物の数も増え、通路はより複雑な迷宮となっていった。


 特に厄介だったのは、メタルスライムとダークスライムが一緒に出てくる場面だった。

 物理攻撃がほとんど効かないメタルスライムと、魔法が逆効果になるダークスライム。

 しかし、四人はそれぞれの役割を分担し、しっかりと対処していく。


 ミナトは飛速を駆使し、ダークスライムの核を拳で正確に打ち砕いていく。

 シスカもまた剣で、ダークスライムの核を正確に貫き、スプリングスライムの素早い動きにも対応した。


 セイラは索敵魔法で魔物の位置を正確に把握し、メタルスライムに対し、アクア・ショットを放ち、殲滅していく。

 クレイグは、土属性の防御魔法でパーティーを守りつつ、必要に応じて火属性の攻撃魔法で支援に回った。


 これまでのダンジョン探索で、彼らの連携は飛躍的に向上した。

 それぞれの得意分野を最大限に活かし、互いの弱点を補い合うことで、どんなに厄介なスライムの群れも、もはや彼らの敵ではなかった。

 そして、ついに彼らは地下8層へと続く階段を見つけた。


『地下8層』


 地下8層は、これまでのスライム系の魔物が中心の階層とは、明らかに雰囲気が異なっていた。

 空気は乾燥し、通路の壁には、朽ちた木材や、錆びた金属の残骸が散らばっている。魔物の気配も、これまでとは違う、より不気味なものが感じられた。


 しばらく進むと、巨大な扉が姿を表す。


「この扉……どうやらボス戦かもしれないわね。一度ここで休息をとり、万全の体制でいどみましょう」


 シスカの提案に皆が頷き、バルドの奥さんから渡された弁当をいただくことにする。

 食事をしながら、今までの階層と、魔物の情報を整理する。


「ここは普通のダンジョンとはだいぶ雰囲気が違うわ。仕掛けといい、扉といい、人の手で作られたのは間違いないけど」


 考え込むシスカにクレイグがグリムロックに伝わる伝承の話をする。

 噂程度の信憑性が無いものだったため、あまり気にもとめていなかったが、階を進むごとにそれが確信へと変わり始めていることに気づいた。


「グリムロックに伝わる伝承のようなものがあります。それは『ただの鉱山にあらず、守護者に守られし山のなか、古の匠が築きし、知恵と力の試練の場。知識をもつもののみが、その扉を開く。されど、知識だけでは足りぬ。扉を越え、その奥へと進まんとするならば、あらゆる手段を解き放て。己が身に宿る魔力、鍛えし肉体、そして研ぎ澄まされし技。全てを尽くし、道を阻む守護者を打ち破るべし。さもなくば、朽ちゆく定めなり。力なき者は、闇に飲まれ、二度と戻ることは叶わぬ。そして、その試練の果て、強大な影が行く手を阻む。見事討ち果たしたあかつきには、まばゆき光に満ちた空間が広がる。そこには、この山が秘めし真の恵み、尽きることなき鉱脈があらわる』と」


「そんな伝承があったんですね。たしかに内容が私たちの状況に酷似していますね」


 セイラは伝承をきき、出来事を振り返る。

 鉱山を何年も堀続けた結果現れた空間。

 守護者のゴーレム達。なぞかけの階層。あらゆる特性の魔物がでてくる階層。

 そして今。つまりこの先には強大な影が潜んでいて、そこを越えると鉱脈があるということだ。

 クレイグ自身も半信半疑ではあるが、ドワーフ血を継ぐものとして、鉱脈という言葉に気持ちが高ぶる。


「正直この状況に陥るまで、存在しないただのおとぎ話程度にしか思ってませんでした。もしこれが真実を記した伝承なのならば、この街の……グリムロックの発展に繋がります!」


 クレイグは拳を握りしめる。

 グリムロックは、近年鉱石の採掘量が徐々に低下していて、そう遠くない未来に資源が枯渇するのではと噂が出回っている。

 それを覆すチャンスがやって来たのだ。


 だがシスカは冷静に状況を整理する。


「ともあれこの階層を突破しなくてはならないわ。強大な影についてはなにか情報はないの?」


「すいません、伝承は今話した内容が全てです。強大な影については...」


「ならあらゆる事態を想定しないとね。焦りは禁物よ。もし、敵わない判断したなら、逃げるという選択肢も視野にいれましょう」


 皆シスカの言葉に頷き、安全を優先することにした。


「さあ、そろそろ行きましょうか」


 四人は万全の準備を整え、扉を開いた。

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