029 鎮座する巨体
翌朝、宿で軽い食事を済ませた三人は、言われた通り町長の家へと向かった。
家に着くと、奥さんが出迎えてくれた。
「あら、昨日の冒険者さんじゃないか。 亭主はまた工房にこもっててね。少し家に上がって待ってておくれ」
案内された客間でしばらく待っていると、奥からバルド町長が作業服姿で現れた。
その隣には、彼と同じくがっしりとした体格だが、顔立ちには人間の面影も残る若い男が立っている。
「すまないな、待たせた。私が鉱山まで案内してやりたいところだが、今ちっと手が離せないんだ」
バルド町長は申し訳なさそうに言った。
「かわりに息子を連れてきた。わからないことがあれば、こいつに聞いてくれ」
町長に促され、隣の男が一歩前に出た。
「クレイグと申します。父の代わりに、アイアンゴーレムのいる採掘場まで道案内をさせていただきます。戦闘面でも少しお役に立てるかと思います」
どうやら彼はドワーフと人間のハーフのようだ。
歳は二十歳を越えたあたりだろうか。
ミナト、シスカ、セイラの三人は、クレイグに挨拶を交わした。
「よろしくお願いします、クレイグさん」
四人は、町の裏手にある鉱山の方へと足を運ぶことにした。
鉱山までの道はきれいに整備されており、所々に魔物避けの宝具が設置されているのが見て取れる。
これは、採掘した鉱石を迅速かつ安全に運び出すための工夫だろう。
道中、魔物に遭遇することもなく、一行は無事に鉱山の入り口に到着した。
坑道の入り口に差し掛かると、クレイグは注意を促した。
「坑道の中は迷路のようになっておりますので、はぐれないように注意してください。坑道内は灯りがともされており、基本的には魔物もいません。なので、採掘中にゴーレムに出くわすなんて、思いもしなかったです」
クレイグはそう言いながら、坑道の奥へと進んでいく。
ミナトたちはその後を追う。坑道内は確かに明るく、魔物の気配は感じられない。
クレイグは慣れた様子で迷路のような坑道を案内していく。
しばらく進んでいくと、クレイグが立ち止まった。
「もうそろそろ、ゴーレムのいる所へ着きます」
その言葉に、ミナトたちの表情が引き締まった。
クレイグの言葉通り、数分もせず、彼らの視界に巨体が捉えられた。
坑道の奥深くとは思えないほどの大きな空間。
その中央に、沈黙したまま動かない石造りの巨人が三体。
そして、その奥には、一際大きく、鈍い鉄の光を放つ一体のゴーレムが鎮座していた。
『アイアンゴーレム』だ。
四人は、ゴーレムたちから距離を取り、身を隠しながら作戦会議を始めた。
「アイアンゴーレムに、ストーンゴーレムが三体か……報告通りね」
シスカが冷静に状況を分析する。
「ゴーレム系は、胸のところに核が埋め込まれていて、それを破壊しない限り、何度でも再生するの。ただ、核ばかりに気を取られていると、討伐は難しいわ」
シスカはそう説明し、続けた。
「脚を壊して体勢を崩したり、動きを封じたりして、再生される前に核を破壊する、といった工夫が必要になる。特にアイアンゴーレムは体が鉄でできているから、部位を破壊するのも一筋縄ではいかないわ」
ミナトは頷いた。オーガの頑丈な皮膚を思い出す。
それよりも硬い鉄の体を持つアイアンゴーレムは、確かに厄介な相手だろう。
「一方、ストーンゴーレムは比較的脆い。先に片付けてしまった方が楽でしょうね」
シスカの言葉に、クレイグが一歩前に出た。
「ならば、アイアンゴーレムの注意は私が引きます。その間に、ストーンゴーレムを倒していただけないでしょうか?」
クレイグの提案に、ミナトは驚いた。
「クレイグさん一人で、アイアンゴーレムと対峙して大丈夫なのか?」
「ええ。足止めくらいなら、どうにかなります。採掘場の作業員たちが無事だったのも、私がゴーレムの注意を逸らしていたからです」
クレイグの言葉には、確かな自信が感じられた。
「なるほど……。なら、そうしましょう」
シスカがクレイグの提案を受け入れた。
「それぞれ一体ずつストーンゴーレムを担当し、倒し次第、クレイグさんの援護に回りましょう」
シスカの言葉に、セイラの顔に不安の色が浮かんだ。
彼女はまだ討伐依頼そのものが初めてだ。
「あの……私に、できるでしょうか……」
セイラが震える声で呟くと、シスカは優しくセイラの肩を叩いた。
「大丈夫よ、セイラ。あなたの魔法なら問題ないわ。遠距離からの攻撃で、ストーンゴーレムを確実に仕留められる。それに、いざとなったら私とミナトが近くでサポートするから、安心して」
シスカの力強い言葉に、セイラは不安を押し殺し、小さく頷いた。
「よし、作戦開始よ!」
シスカの合図と共に、ゴーレム討伐作戦が始まった。
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