027 三人旅の始まり
リビアが差し出した依頼書を、ミナト、シスカ、セイラの三人は覗き込んだ。
どれもEランクやDランクの依頼とは異なり、より大規模で危険を伴う内容が並んでいる。
「この中から、どれか選んでくれるかしら?」
シスカがミナトとセイラに問いかける。セイラは少し戸惑った様子で依頼書を眺めていた。
「えっと……私、討伐依頼は初めてなので、どれがいいか、ちょっと……」
セイラの正直な言葉に、シスカは優しく頷いた。
「そうよね。なら、これなんてどうかしら?」
シスカが指差したのは、アイアンゴーレムの討伐依頼だった。
「山岳地帯の町『グリムロック』の町長からの依頼ね」
リビアが依頼書の内容を補足する。
「グリムロックはここ王都から、馬車で街道を4日ほど走った位置になります。このグリムロックは、険しい山々が連なり、鉱石の採掘が豊富で、それを加工する職人も多くいることで知られています。ドワーフも住んでいて、武器や防具の製造も盛んな町ですよ」
ミナトはグリムロックという町に興味を引かれた。武具の製造が盛んなら、もしかしたら自分の剣に合う何かが見つかるかもしれない。
「この依頼は、鉱石を採掘中に、アイアンゴーレムに遭遇してしまった、という内容です。怪我人こそ出なかったものの、採掘場が止まってしまっているため、取り急ぎ討伐を求める、とのことです」
リビアの説明に、シスカが腕を組んだ。
「アイアンゴーレムね。動きは鈍重だけど、体が頑丈だから厄介なのよね。剣による攻撃はきかないわ。オーガに続き、ミナトには少し不遇な魔物かもしれないわね」
シスカの言葉にセイラは少し疑問を抱く。
「みんなで魔法を放てばいいんじゃないですか?」
セイラの疑問はもっともだ。物理的な攻撃が通らないのなら、魔法による攻撃にシフトすればよいのでは、という当たり前のことだ。
「すみません、俺魔法がつかえません」
ミナトの言葉にセイラは驚きながらも、魔法が使えないということに、少し心配そうな顔をする。
それに対して、シスカが補足するように説明する。
「ミナトは魔法が使えない代わりに、魔力纏いや体術による近接戦闘スタイルなの。魔力纏いに関してはグレンさんの折り紙付きよ。実力は私が保証するから安心してね」
その言葉にセイラはすこし安心した様子だ。シスカは続けて言った。
「馬車だと4日ね...。早馬を借りれば2日ほどかしら?依頼も『取り急ぎ』とのことだし、早馬で行きましょうか?」
シスカの提案に、ミナトは頷いた。
「賛成だ。早く着けば、それだけ早く依頼をこなせる」
セイラも少し緊張した面持ちで頷いた。
「はい……私も、困っている人を早く助けられるなら、それがいいと思います。」
「よし、決まりね!」
シスカがリビアに依頼の受注を告げた。
リビアは手際よく手続きを済ませ、三人に依頼書とグリムロックまでの地図、そしてストーンゴーレムの生態に関する簡単な資料を手渡した。
「では、お三方とも、くれぐれも気を付けて。グリムロックは、これまでの場所とは違う、険しい山岳地帯ですから」
リビアの言葉に、三人は力強く頷いた。
ミナト、シスカ、セイラの三人は、それぞれ装備を整え、ギルドで手配された早馬を借りた。
王都の門をくぐり、三人は一路グリムロックを目指した。
ギルドで手配された早馬は、通常の馬車よりもはるかに速く、蹄の音が石畳に軽快に響く。
ただ、馬車とは違い、馬に跨がり、振り落とされないように、気を張っていないといけない、というデメリットもある。
だがそれ以上に時間の短縮というメリットがあるため、このぐらいの距離なら、早馬が使われることは多いらしい。
街道を休憩を交えながら、しばらく進むと、景色は次第に変化していった。
なだらかな丘陵地帯は、やがて岩肌がむき出しになった険しい山々へと姿を変える。
道こそあるものの、細く、曲がりくねり、時折、すぐ横に深い谷が口を開けている。
この地の厳しさが、肌で感じられた。
「このあたりは、あまり魔物の目撃情報はないけど、油断は禁物よ」
シスカが手綱を握りながら、ミナトとセイラに声をかける。
彼女の言葉通り、道中、大きな魔物と遭遇することはなかった。
時折、小型のロックバードやマッドワームといった低級魔物が現れるが、三人の前では、あっけなく散っていった。
ミナトは剣で一閃、シスカは雷魔法で瞬時に仕留め、セイラは後方から牽制の魔法を放つ。
それぞれの役割が明確になり、無駄のない動きで魔物を処理していく。
その後も、時折魔物に遭遇しながら、目的地に向かい進んでいると、やがて日が落ちてきた。
「今日はここまでにしておきましょう。夜の移動は危険がともなうわ。あそこにテントを張りましょう」
シスカはそう言い、近くの小さな泉を指差した。馬を木に繋ぎ、手慣れた作業でテントを張る。
その後、鳴子のようなものをあたりに張りめぐらせる。魔物が襲来したときにいち早く知るためだろう。ミナトは初めての野宿だったため、シスカの慣れた手付きに、感心する。
「Bランクなだけあって、シスカは野宿に慣れてるね」
「遠征するとなると、野宿は日常茶飯事よ。出来れば宿に泊まりたいところだけどね」
その後、簡単な夕食を済ませ、見張りを交代で行い、明日に備えて体を休める。
セイラは、初めての本格的な旅に少し緊張しているようだったが、ミナトとシスカの頼もしさに、少しずつ安心感を覚えているようだった。
翌朝、朝食を済ませると、三人は再び早馬に乗り込み、グリムロックを目指した。
山道は昨日にも増して険しくなり、空気もひんやりとしてくる。
「グリムロックは、本当に山深いところにあるのね……」
セイラが周囲の景色を見回しながら呟いた。
「ええ。だからこそ、良質な鉱石が採れるのよ。ドワーフも多いから、町全体が鍛冶場の匂いで満ちているって話よ」
シスカが答える。ミナトは、自身の剣を握る手に意識を集中させた。
もしかしたら、この町で、自分の剣に新たな可能性を見出せるかもしれない。
道中、三人は互いのことについて、より深く話し合った。
「セイラは、魔法使いとして本当に優秀ね。冒険者になって間もないのに、複合魔法をあんなに安定して使えるなんて、すごいわ。これからにも期待ね」
シスカがセイラを称賛する。セイラは少し照れたように俯いた。
「そんな……シスカさんの剣術と雷魔法の連携の方が、よほどすごいです。それに、ミナトさんの『飛速』なんて、信じられない速さです」
セイラはミナトに視線を向けた。
「ミナトさんは、本当に魔法が使えないんですか? あんなに強い魔力纏いができるのに……」
セイラの問いに、ミナトは苦笑した。
「ああ。何度か試してみたけど、やっぱりダメだった。俺の魔力は、この世界の魔法とは相性が悪いらしい」
ミナトの言葉に、セイラは少し悲しそうな表情を浮かべた。
しかし、すぐにその表情は真剣なものに変わる。
「でも、その魔力纏いがあるからこそ、ミナトさんはあんなに強いんですよね。私も、もっと魔力纏いを練習して、ミナトさんみたいに強くなりたいです」
セイラの言葉に、ミナトは少し驚いた。彼女の臆病な性格からは想像できない、強い意志を感じたのだ。
「セイラも鍛練を積めば、魔力纏いもすぐに使いこなせるようになるさ。シスカも、魔力纏いはどうだ?」
ミナトがシスカに尋ねると、彼女は頷いた。
「ええ。ミナトとグレンさんに教えてもらったコツで、少しずつだけど、纏える時間が長くなってきたわ。まだ実戦で使えるほどじゃないけど、この調子でいけば、近いうちに魔力纏いと強化魔法を、同時に発動できるかもしれないわ」
シスカの言葉に、ミナトは嬉しくなった。互いに高め合い、成長していく。
これこそが、パーティーを組む醍醐味だ。
「それにしても、ミナトの剣術、あの体捌きといい……私とは全く違う流派だけど、学ぶところが多いわ。私はどちらかというと攻一辺倒って感じだけど、ミナトは攻守のバランスがとれていて、隙がない感じよね」
シスカがミナトの剣に視線を送った。
ミナトはまだ完全ではないが、剣閃の感覚をつかみつつある。この旅の間に、もっと磨きをかけたい。
「まあ、シスカはスピード重視って感じだしね。実際あのスピードで剣を振られたら、大抵の人は反撃する暇も無いと思うよ」
シスカとミナトはこれまでの依頼の日々で、互いの戦闘スタイルに、理解が深まっているようだ。
会話を交わしながら、三人は険しい山道を乗り越えていく。そして、二日目の午後、ついに目的の町が見えてきた。
山々の間に、頑丈な石造りの建物がひしめき合うように建ち並んでいる。
遠くからでも、鍛冶場から立ち上る煙と、金属を叩く音が聞こえてくるようだ。
「あれが、鉱山の町『グリムロック』よ」
シスカが指差した先に、堅牢な門と、その奥に広がる町が見えた。
王都とは異なる、質実剛健な雰囲気が漂っている。
「ついに着いたな……」
町の中へと入っていくと、その雰囲気はさらに色濃くなった。
至る所から金属を叩く音が響き、熱気が立ち込めている。
道行く人々の中には、屈強なドワーフの姿も見える。
三人は、町長からの依頼を受けているため、まずは町長の屋敷へと向かうことにした。
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