025 Dランク到達と新たな課題
回収を終え、ミナトは地下10層の奥へと視線を向けた。
そこには、さらに下へと続く階段が口を開けている。
リビアから「地下10層を越えると、魔物の強さが格段に上がる。けして、地下11層へは進まないでください」と強く忠告されていたことを思い出す。
しかし、武術家としての探求心、そして未知への好奇心が、ミナトの心を強く揺さぶった。
彼は一歩、階段へと近づき、その先を覗き込む。
すると、そこは薄暗いダンジョンの雰囲気とは全く異なっていた。
階段の先からは、まばゆい光が差し込み、まるで別世界のような空間が広がっているのが見て取れる。
木々が生い茂り、清々しい空気が漂ってくる。
(これは……一体……?)
一歩足を踏み入れようかと思ったその時、リビアの忠告が脳裏をよぎった。
「けして、地下11層へは進まないでください」
ミナトは好奇心を抑え込み、その場に踏みとどまった。
同時に、講習でグレンが言っていた言葉を思い出す。
「ダンジョン内の魔物は自ら階を跨ぐことはなく、死んでもある程度の時間がたつとダンジョンにより再生成される上に、死体もダンジョンに吸収される」
あまりのんびりしていると、今まで通ってきた階層の魔物が再生成してしまい、面倒なことになりかねない。
ミナトは急いで引き上げることにした。
全身に刻付を発動させ、飛速を多用しながら、来た道を駆け上がっていく。
道中、再生成され始めたばかりのレッサーラットやゴブリンといった魔物が出現したが、ミナトはそれらと闘わず、飛速による圧倒的なスピードで間をすり抜け、早々に遺跡を立ち去ることに成功した。
遺跡を出ると、空は茜色に染まり、日が沈みかける頃だった。
ミナトはそのまま王都へと急ぎ、冒険者ギルドの扉を押し開けた。
カウンターには、いつものようにリビアが座っていた。
「リビアさん、ただいま戻りました。Dランク昇格試験の報告です」
ミナトはそう言って、オーガの魔石をカウンターに置いた。
「ミナトさん! お帰りなさいませ! そして、これは……オーガの魔石!」
リビアは興奮した面持ちで魔石を確認し、ミナトのギルドカードを手に取った。
「間違いありません! お見事です、ミナトさん! Dランク昇格試験、見事合格です!」
リビアは満面の笑みでミナトのギルドカードを更新し、新しいランクが記されたプレートを手渡した。
Eランクの文字が消え、そこにDの文字が刻まれているのを見て、ミナトの胸に確かな達成感が込み上げた。
「Dランク、おめでとうございます! こんなに早くDランクになるなんて凄いですよ!」
リビアは心から祝福してくれた。
ミナトは礼を言い、ふと周囲を見回した。シスカの姿が見当たらない。
「あの、リビアさん。シスカはもう帰りましたか?」
ミナトが尋ねると、リビアは笑顔で答えた。
「シスカさんなら、まだ訓練場にいらっしゃるんじゃないでしょうか? グレンさんに稽古をつけてもらってると思いますよ」
ミナトは頷いた。
やはりシスカは、掴みかけている魔力纏いの仕上げでも、グレンにみてもらっているのだろうか。
あの人のアドバイスはいつも的確だ。シスカもまた強くなるのだろう。
「ありがとうございます。少し顔を出してきます」
ミナトはリビアにそう告げると、訓練場へと向かった。
訓練場に着くと、リビアの予想通り、シスカがグレンの指導のもと、魔力纏いをしたまま組手を行っていた。
彼女の身体からは、以前よりも安定した淡い光が発せられている。
「ほう、随分と安定してきたな、シスカ。その調子で維持する感覚を掴め」
グレンの重厚な声が響く。
シスカの動きは、以前よりも格段に滑らかになっていた。
魔力纏いの発動が安定したことで、彼女の剣技にも一層の磨きがかかっているようだ。
「グレンさん、シスカ!」
ミナトが声をかけると、二人は動きを止め、こちらを向いた。
「おお、ミナトか。どうした」
グレンが言うと、シスカがミナトのギルドカードに目を留めた。
「もしかして……」
ミナトは笑顔で、Dランクの文字が刻まれたプレートを見せた。
「見ての通りだ。Dランクに昇格できた」
「無事ランクアップできたのね。おめでとう」
シスカは驚いた様子もなく、冷静に祝福してくれた。
グレンもまた、感心したように頷く。
「ガハハハ! やはりお前は筋がいいな、ミナト。もうDランクか。この短期間で、FからDまで駆け上がるとは、ギルドの歴史でも前代未聞だぞ」
グレンは豪快に笑い、ミナトの肩を叩いた。
「ミナトもすごいけど、私も負けてないわよ! 見て、ミナト! 私、魔力纏いを発動しながら動き回れるようになったの!」
シスカはそう言って、嬉しそうに魔力纏いを纏ったまま、訓練場を軽やかに動き回ってみせた。
その動きはまだ完璧ではないが、確かに魔力が体に密着し、彼女の身体能力を底上げしているのが見て取れる。
「すごいな、シスカ。着実に強くなってる」
ミナトが素直に称賛すると、シスカは少し照れたように笑った。
「でも、まだ魔力纏い・刻付には至らないのよね。それに、魔力纏いの状態で雷魔法による自己強化をうまく扱えなくて……。まだまだ鍛錬は必要だわ」
シスカはそう言って、少し残念そうな顔をした。
その言葉をきき、ミナトは、自身の戦闘における欠点を思い出した。
範囲攻撃や遠距離攻撃の不足だ。オーガ戦でも、その必要性を痛感した。
「グレンさん、少し相談したいことがあるのですが」
ミナトが切り出すと、グレンは興味深そうにミナトを見た。
「なんだ?」
「俺には、範囲攻撃や遠距離攻撃の手段がありません。魔法が使えない以上、どうしても敵の懐に飛び込まなければならない。雑魚敵相手には効率が悪く感じますし、今後、より強力な魔物と戦うことを考えると、その弱点を克服したいのですが、何か俺に使える方法はありませんか?」
ミナトが尋ねると、グレンは顎に手を当てて考え込んだ。
「ふむ……。お前、剣閃はまだ使いこなしてないんだよな?」
グレンの問いに、ミナトは頷く。鍛練はしているものの、物質に魔力を流し込むというのは想像以上に難しい。
それが難しいので、皆、魔法によるエンチャントという、便利な魔法をつかっているのだろう。
「はい。剣全体に安定して魔力を流すのがまだ難しくて……」
「そうか。なら、今お前が使えるところでいくと、『衝波』なんかは刻付が安定しているなら使えると思うぞ」
グレンの言葉に、ミナトは目を見開いた。
衝波、以前、グレンが魔力纏いの応用技として説明してくれた、魔力の塊を飛ばす技だ。
「魔力を圧縮し、その塊を飛ばす技だ。見てろ」
グレンはそう言うと、右拳に魔力を込める。
彼の拳から、目に見えるほどの魔力の塊が凝縮されていく。
そして、その拳で空を殴るように突き出すと、魔力の塊が一直線に飛び出し、その直線上にある訓練用の木偶に命中した。
ドォンッ!
木偶は、魔力の塊による衝撃を受け、粉々に砕け散った。
「これが、衝波……!」
ミナトは驚愕に声を上げた。まさに、彼が求めていた遠距離攻撃だ。
「やり方を教えてください、グレンさん!」
ミナトが前のめりで頼み込むと、グレンは豪快に笑った。
「ガハハハ! 簡単なことさ。普段お前が体に纏うことを意識してる魔力を、拳を振った勢いに乗せて、体から切り離すだけだ」
グレンの言葉に、ミナトはすぐに試してみた。
拳に魔力を集中させる。
そして、拳を振るう勢いに乗せて、魔力を体から切り離そうと試みる。
しかし、魔力は拳の周りでフワフワと揺らぐだけで、体から切り離す感覚がうまく掴めない。
魔力は空中で霧散し、衝波は発動しなかった。
「くっ……!」
ミナトは歯を食いしばる。
「ガハハハ! そう簡単にはいかないか。これは簡単そうに見えても、纏う意識を切り離す意識に変えないといけないからな。一発で成功なんてできるもんじゃない」
グレンは笑いながらも、優しくミナトに告げた。
「やはり最初は少ない魔力で感覚を掴み、徐々に出力を上げるのが鉄則だ。焦る必要はない。お前ならできる」
ミナトは頷いた。衝波、これは、彼の新たな課題であり、今後の鍛錬に組み込むべき重要な技術だ。
そんな話をしながら、気づけば夜になっていた。
訓練場の松明が、あたりをぼんやりと照らしている。
「おっと、もうこんな時間か」
グレンが空を見上げ、呟いた。
「どうだ? 飯でも一緒に食うか? いつものところだが」
グレンの誘いに、ミナトとシスカは顔を見合わせた。
「はい、ぜひ!」
ミナトが答えると、シスカも笑顔で頷いた。三人はグレンの行きつけの定食屋へと向かった。
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