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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第二章 Sランクへの道のり 前編

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020 ワイルドボア討伐依頼1

 ワイルドボア討伐依頼を受注したミナト達は、予定を確認し準備へととりかかる。


「今から向かえば、夕刻には着くでしょうね。討伐まで考えると、ざっと三日はかかると思うけど、予定は大丈夫?」


「大丈夫だ。準備をして向かおう」


 ミナトはもともと、講習終わりに軽く肩慣らしになる、討伐依頼を受けようと思っていただけなので、泊まりがけでの依頼に出る予定はなかった。

 だがグレンとの稽古や講習も終わったタイミングなので、別に問題なかった。


 ミナトとシスカはそれぞれ装備を整えた。

 ミナトは昨日購入した剣を腰に携え、シスカは愛用の剣を調整する。

 食料やポーションなど、準備を済ませると、二人は王都の門で合流した。


「隣町は、ここからどのくらいなんだ?」


 ミナトが尋ねると、シスカはにやりと笑った。


「道中休憩なども考えると、普通に行けば半日かかるわ。でも森の中を突っ切れば三時間ってところかしら。魔法による走力強化も加味した時間だけど、ミナトは着いてこれるかしら?」


 シスカの少し挑発した問いに、即答する。


「問題ない。シスカの方こそ根をあげるなよ」


 ミナトも軽く言い返す。


「頼もしいわね。じゃあ鍛錬も兼ねて森を突っ切るショートカットで行きましょう。高ランクの魔物は滅多に出ないし、移動の練習にもなるわ」


 ミナトもその提案に乗った。

 刻付を纏った状態での長距離移動は、刻付の維持と効率を鍛える絶好の機会だ。


 王都の門をくぐり、二人は隣町へと続く道を歩き出した。

 最初は普通のペースで進んでいたが、森の入り口に差し掛かると、二人の足取りは一変する。


「ここからが本番よ、ミナト」


 シスカが言うと、彼女は全身に自己強化魔法を発動させた。

 青白い雷光が体を包み込み、その速度は跳ね上がる。

 ミナトも負けじと全身に魔力纏い・刻付を発動させ、シスカの隣を並走した。

 そのスピードは常人離れしており、並の馬よりも速い。

 森の中の道を、鍛錬と称して駆け抜けていく。


 道中、時折レッサーラットやゴブリンといった低ランクの魔物が出現したが、いずれも二人の圧倒的な速度についていけず、出会い頭の一撃で仕留められ、目もくれずに走り抜けた。

 王都周辺や隣町くらいまでは、高ランクの魔物は滅多に出ないらしい。


 二時間ほど走り続け、二人は森の少し開けた、泉の近くで休憩を取ることにした。

 木陰に腰を下ろし、携帯食料を口にする。


「それにしても、ミナトの体力はすごいわね。魔法強化なしに、魔力纏いだけであのスピードで走り続けられるなんて」


 シスカが感心したように言った。

 ミナトは息を整えながら答える。


「シスカもだろ。魔法で身体強化しているとはいえ、速すぎるよ」


「ふふ、お互い様ね。でも、ミナトって本当に不思議。魔法が使えないのに、あんなに強い魔力纏いができるなんて。グレンとどんな稽古をしてたのよ」


 シスカの言葉に、ミナトは少しだけ苦笑した。


「ただひたすらに魔力纏いをした状態で、走り込んだり、跳躍とかして、魔力を体に馴染ませろって言われたかな。そしたら次第にこつをつかんできて、刻付まで使えるようになった感じかな」


「なるほど……。よければそのこつ少し教えてくれないかしら?」


 シスカが興味津々といった様子で尋ねる。

 ミナトは自分の魔力纏いをしてるときの感覚や意識を詳しく説明した。


「魔力纏いは、体内の魔力を筋肉や皮膚に集中させるイメージだ。魔力を体の表面に薄い膜のように張る感覚。呼吸に合わせて、魔力を体中に巡らせてみてくれ」


 ミナトは身振り手振りで説明する。

 シスカは言われた通りに目を閉じ、体内の魔力に意識を集中した。

 彼女は魔法使いとして魔力を操ることに慣れているが、それを『纏う』という感覚は、また別物だった。


「……うーん、なんだか、フワフワするような……でも、ピリピリするような……?」


 シスカは困惑した表情を浮かべた。


「そう、その感覚だ。そのフワフワした魔力を、ピリピリと体に密着させるイメージで、ぎゅっと圧縮するんだ。まるで、皮膚の下に薄い鎧を纏うように」


 ミナトはさらに具体的なイメージを伝える。シスカは再び集中し、言われた通りに試みた。

 すると、彼女の身体から、ごく微かに淡い光が発せられた。

 それは一瞬で消えてしまったが、確かに魔力が体に纏われた感覚だった。


「今! 見えたわ! これが魔力纏い……!」


 シスカの顔に、驚きと喜びの表情が浮かんだ。


「そう、その感覚を忘れないように、何度も繰り返すんだ。慣れてくれば、もっと安定して纏えるようになる」


 ミナトは優しく促した。シスカは興奮した様子で、再び魔力纏いの練習を始めた。


「グレンさんにも言われたけど、最初は少量でもいいから、纏い続けることを意識しろって言われたから、自分が扱いやすい魔力量で纏い続けてみるといいと思うよ」


 シスカは頷きながら纏い続けることを意識するが、すぐに光が弾けてしまう。

 少し落ち込むシスカに声をかける。

 

「とにかく反復練習あるのみ!いずれ纏い続けれるようになるさ」


「そうよね。努力なしに扱える力なんてたかがしれてるわ。修練の先に得た力こそ、己を強くするものね」


 その言葉に、彼女は努力家であり、剣技や雷魔法も鍛練の賜物なのだろうとミナトは思った。


「お互い頑張ろうな」


 短い休憩だったが、互いの背景や考えを知ることで、二人の間には確かな絆が芽生え始めていた。


 休憩を終え、再び走り続ける。

 一時間ほどたった頃だろうか。森を抜け街道に出た。


「ここまで来ればもうすぐそこよ。あれが今回の依頼があった町『リンウッド』よ」


 シスカが指を指す先に小さな町が見えた。

 小さいながらも塀に囲まれ、魔物の襲来には備えがあるようで、門兵も常駐しているようだ。


 軽く会釈をし、町の中へと入っていく。

 町は王都とは違い華やかさこそないものの、清潔で生活感のある感じに包まれていた。


「たしか依頼主は、酒場の店主だったはず。食事も兼ねて、依頼主のところへ行きましょう」


 シスカの言葉に、ミナトは頷く。

 二人は町の中心にある酒場へと向かった。

 酒場は夕食時とあって賑わっており、香ばしい料理の匂いが漂っている。


 店に入ると、恰幅のいい店主が陽気な声で迎えてくれた。

 依頼書を見せると、店主は顔色を変え、詳しい状況を話し始めた。


「おお、冒険者さんかい! 助かるよ、本当に。ワイルドボアの群れが最近、町の近くの山岳地帯に居着いちまってね。夜な夜な畑を荒らしたり、旅人を襲ったり……。数が多すぎて、町の自警団じゃどうにもならなくて困ってたんだ」


 店主は身振り手振りで、ワイルドボアの群れの規模や、最近の被害状況、そして目撃情報が多い場所などを詳しく教えてくれた。


 食事を取りながら、ミナトとシスカは店主から聞いた情報を元に、明日の作戦を練った。

 群れの規模が予想より大きい可能性も考慮し、慎重に事を進めることを確認し合う。

 その日は、酒場に併設された宿で部屋を取り、明日の討伐に備えて休むことにした。


 翌朝、二人は宿で朝食を済ませた。

 簡単なパンとスープだったが、旅の疲れを癒すには十分だった。

 準備を整え、店主から聞いた情報をもとに、町から離れた山岳地帯へと向かう。


 山道を進むにつれて、人の気配は薄れ、鬱蒼とした木々が視界を覆う。

 しばらく歩くと、地面に蹄の跡や、木に擦り付けられたような痕跡を見つけた。

 ワイルドボアの群れの痕跡だ。


「ここから辿っていきましょう」


 シスカの言葉に、ミナトは頷き、痕跡を慎重に追っていく。

 やがて、彼らは山の中腹にひっそりと口を開けた洞穴にたどり着いた。

 痕跡は明らかに洞穴の中へと続いており、獣じみた匂いが漂ってくる。


 ミナトは全身に刻付を発動させ、警戒しながら洞穴の奥へと進んだ。

 内部は薄暗く、ひんやりとした空気が肌を刺す。

 さらに奥へと進むと、突然、視界が開けた。


 そこは、想像以上に広い空間だった。

 そして、その空間を埋め尽くすように、無数のワイルドボアがひしめき合っている。

 依頼にあった推定10匹どころではない。ざっと見ただけでも、その倍近い、20匹以上のワイルドボアが、それぞれ岩陰で休んだり、地面を掘り返したりしていた。


(これほどの数が……!)


 ミナトは思わず息を呑んだ。

 Fランクのゴブリンとはわけが違う。Dランクに格上げされた理由が、嫌というほど理解できた。


「予想より多いわね。ざっと数えて20とちょっとってところかしら、群のリーダーらしきやつもいるわね」


 シスカは冷静に分析する。


「これだけの数、二人でやれるのか?」


 ミナトは問いかけるが、シスカの瞳には迷いがなかった。


「問題ないわ。それにこれだけいれば、報酬も跳ね上がるでしょう。掃討しましょう」


 シスカの言葉に、ミナトの迷いは消え去った。


「はい、いきましょう!」


 ミナトは力強く頷いた。

 ワイルドボアとの初対峙、緊張こそあるものの、シスカという高ランク冒険者が一緒にいるという心強さもあり、ミナトの血をたぎらせた。

作品を読んでいただきありがとうございます。


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