018 最後の講習
グレンから剣閃について聞いていると、講習の時間がくる。
「おっ、もうこんな時間か。今日は最後の講習だ。実技の時間は、俺と手合わせするから覚悟しておけよ」
グレンはにやっと笑いながら講習室へと向かっていった。
ミナトは手合わせという言葉に、胸が高ぶった。
まだ未熟だが、己の全力をぶつけられるグレンとの手合わせ。
どこまでやれるか、という気持ちが込み上げてきた。
そしてギルドの講習が始まった。
グレンは教卓に立ち、参加者たちを見渡した。
その表情は、どこか感慨深げに見える。
「さて、今日で冒険者講習は最後となる。これまで、魔法の基礎から魔力纏い、そしてクエストの心得まで、基本的なことは一通り教えてきた」
グレンはそう前置きし、真剣な眼差しで続けた。
「だが、お前たちがこれから直面する現実は、講習で学んだことよりも遥かに厳しい。ここからは、より実践的な、そして命に関わる話をしていく」
講習室の空気が張り詰める。
「まず、魔物の種類と危険度についてだ。お前たちがこれまで相手にしてきたであろうレッサーラットやスライム、ワーム、ゴブリンは、あくまで初級の魔物に過ぎない。この世界には、それらを遥かに凌駕する力を持つ魔物が無数に存在する。中には、特定の魔法しか効かないもの、物理攻撃がほとんど通用しないもの、あるいは特殊な状態異常を引き起こすものもいる。魔物と遭遇したら、まずはその特性を見極め、適切な対処法を考えることだ。無謀な突撃は、死を招く」
グレンの言葉は、彼らがこれから足を踏み入れる世界の厳しさを物語っていた。
「次に、パーティー編成と連携についてだ。一人でこなせる依頼は限られている。より高ランクの依頼、特にダンジョン探索や強力な魔物の討伐には、パーティーが不可欠となる。前衛、後衛、回復役、斥候……それぞれの役割を理解し、互いの長所を活かし、短所を補い合うこと。そして何より、意思疎通と信頼が重要だ。背中を預けられる仲間がいなければ、どんなに優秀な冒険者でも、いずれ限界が来る」
ミナトはコウキの顔を思い浮かべた。
いつか、彼と再び肩を並べて戦うために、自分もこの世界で信頼できる仲間を見つけなければならない。
「そして、ダンジョン探索の基本だ。ダンジョンには魔物だけでなく、様々な罠や仕掛け、環境的な危険が潜んでいる。不用意に踏み込めば、命を落とすことになる。常に周囲を警戒し、足元に気を配り、不審な場所には近づくな。無理だと感じたら、潔く撤退する勇気も必要だ」
グレンは、冒険者としての現実的な側面を強調する。
「冒険者の道は、常に危険と隣り合わせだ。だが、その分、大きな報酬と、何物にも代えがたい達成感がある。今日で講習は終わりだが、ここからがお前たち自身の本当の冒険の始まりだ。生き残れ。そして、強くなれ」
グレンの言葉は、彼らの心に深く刻み込まれた。
「さて、座学もこれでおしまいだ。この後は実技だ。訓練場に集まれ」
座学を終え、実技の時間になりグレンは講習生を集めた。
「よし! 今日は最後に俺と手合わせだ!なに、加減はしてやるさ」
グレンの言葉に、講習生たちの間にどよめきが走った。
ギルドマスター直々の手合わせ、それは滅多にない機会だ。
グレンは、一人ひとりと向き合い、その技量に応じた指導をしながら手合わせをしていく。
彼の動きは無駄がなく、的確で、時には厳しい一撃が、冒険者たちの甘さを打ち砕いていく。
何人かの冒険者がグレンと手合わせを終え、その圧倒的な実力に打ちのめされていく中、一人の女性がグレンの前に立った。
彼女は講習中も目立たなかったが、その佇まいにはどこか芯の強さを感じさせる。
「お願いします、ギルドマスター」
女性はそう言って、手に持った杖を構えた。
すると、彼女の杖の先に魔力が集中し、瞬く間に水と風の魔力が混ざり合い、小さな竜巻のようなものが形成されていく。
それは、他の講習生達が発動できなかった、中級魔法だ。その魔法は、かなり洗練され、安定していた。
「アクア・サイクロン!」
女性が呪文を唱えると、杖の先から放たれた水と風の竜巻が、訓練場の地面をえぐりながらグレンへと迫る。
グレンはそれを軽く身をかわしたが、その表情には微かな驚きが浮かんでいた。
「ほう……。なかなかやるな、お嬢ちゃん。中級魔法でここまで完成度の高いものを見せるとはな。お前、名は?」
グレンの問いに、女性は一礼して答えた。
「セイラと申します」
「セイラか。覚えておこう。お前は伸びるぞ。特に、その複合魔法はパーティの後衛として大いに役立つだろう」
グレンはセイラを高く評価した。
セイラは静かに頷き、他の講習生たちの中に混ざっていった。
彼女の魔法は、ミナトの目にも非常に印象的だった。
そして、ついにミナトの番が来た。
「ミナト、お前には魔法を使わずに手合わせしてやる」
グレンはそう言うと、自身の全身に魔力纏い・刻付を発動させた。
ミナトもまた、全身に刻付を纏い、武術の構えを取る。
(グレンさんも刻付を……! どこまで通用するか)
ミナトは、自分の武術の技術をあえて隠し、グレンがどこまで対応できるか試そうとしていた。
グレンは、ミナトの膨大な魔力と刻付しか知らない。
「来い!」
グレンの言葉と同時に、ミナトは一歩踏み込んだ。
相手の力を利用し、無駄なく流す、武術の基本だ。
グレンが構えを解き、ミナトの動きに対応しようとしたその瞬間、飛速を使い、ミナトはグレンの懐に潜り込み、その重心を捉えた。
ズンッ!
ミナトの体捌きと、グレンの体重を利用した技が決まる。
グレンの巨体が、まるで紙切れのように宙を舞った。
「なっ!?」
グレンは驚愕に目を見開いた。
まさか、初手で自分が宙に投げ飛ばされるとは、微塵も予想していなかったのだろう。
しかし、彼はただでは転ばない。
宙を舞う体勢から、グレンは信じられないことに、何もない空気を蹴った。
これは以前グレンの言っていた、飛速の応用だ。
空気を足場にするかのように体勢を立て直し、そのままミナトの頭上へと拳を振り下ろす。
グォン!
グレンの拳がミナトの腕に容赦なく叩き込まれた。
ミナトは咄嗟に両腕で受け止めるが、衝撃が全身を貫き、体が地面に叩きつけられる。
訓練場の石畳には、ミナトの体の形にヒビが入った。
「まだまだ甘いな、ミナト」
グレンはそう言い、豪快に笑った。
ミナトは痛む体を起こしながら、グレンを見上げた。
(これが、ギルドマスター……!)
ミナトは、グレンの圧倒的な実力と、その経験に裏打ちされた応用力に舌を巻いた。
魔法を使わずとも、自身の魔力と肉体を極限まで鍛え上げることで、この境地に達することができるのか。
ミナトは、この手合わせで、自身の武術と魔力の可能性を確信した。
Sランク、そしてグレンの領域は、決して到達不可能な目標ではない。
「よし!講習はこれで終わりだ!」
グレンの掛け声と共に、最後の講習が終了した。
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