017 未完の『剣閃』
宿へ戻ったミナトは、夕食を済ませると、すぐにベッドに腰を下ろした。
疲労困憊の体ではあったが、休む前にどうしても確認しておきたいことがあった。
昨日購入した書物の中から、魔力纏いの応用に関する記述を読み漁る。
(刻付を極める……。そして、他の魔力纏いの技も……)
書物には、魔力纏いのさらなる可能性が示唆されていた。
しかし、そのどれもが、ミナトが今会得している刻付よりも遥かに高度な技術を要すると書かれている。
魔法が使えないという現実に打ちひしがれそうになるが、同時に、魔力纏いのみでどこまでやれるのかという、探求心が彼を突き動かした。
ミナトは、明日のグレンとの稽古に備え、静かに眠りについた。
翌朝ミナトは宿で朝食を済ませ、訓練場へむかうと、グレンはいつものように腕組みをして待っている。
「おはようございます、グレンさん」
「うむ、始めるぞ!」
グレンの掛け声ととも、に刻付の状態でのトレーニングが始まった。
グレンとの稽古を始めて5日になるが、やればやるだけ、体に魔力が馴染む感覚が伝わる。
グレンによる的確なアドバイスは、ミナトの成長を促すたしかな要因のひとつだ。
「そういえば、グレンさん」
休憩中に、ミナトは昨日試したことを話してみることにした。
「昨日、魔道具店でマジック・スクロールを買って試してみたんです。自己強化と、武器エンチャントの」
ミナトがそう言うと、グレンは一瞬きょとんとした顔をした後、すぐに豪快に笑い出した。
「ガハハハ! お前、そんなことを考えてたのか! 馬鹿なやつだ!」
グレンの笑い声が訓練場に響き渡る。
他の冒険者たちも、何事かとこちらに視線を向けた。
ミナトは少し恥ずかしくなったが、グレンはすぐに笑いを収め、真剣な表情に戻った。
「シスカと立場を変えて自分でためそうとしたのか!それで、結果はどうだった?」
「自己強化は全く反応せず、武器エンチャントは一瞬だけ光ったんですが、すぐに消えてしまいました。どうやら、自分に対する強化魔法の類いは、使えないみたいです」
ミナトが正直に報告すると、グレンは顎に手を当てて考え込んだ。
「ふむ……。なるほどな。お前の魔力は、外部からの魔法を受け付けない、というより、弾き返してしまうのかもしれんな。だが、お前自身の魔力で、単純に武器を強化する術なら、できるかもしれんぞ」
グレンはそう言うと、ミナトの腰の剣に目を向けた。
「刻付の魔力を、握っている武器にまで延長してかけるイメージだ。属性はつかないが、純粋な魔力で刃を強化する。特に剣に対して行う魔力纏いを、俺たちは『剣閃』と呼んでいる」
ミナトは目を見開いた。グレンは、その技の存在を知っていたのか。
「その技の、より詳しいコツを教えていただけますか?」
ミナトが前のめりで尋ねると、グレンは困ったような顔をした。
「悪いな、俺は武器の扱いは専門外でな。剣術はシスカに聞くのが一番だ。だが、シスカも魔力纏いに関しちゃ、まだまだ未熟だ」
グレンはしばらく考え込み、ちらりとミナトの剣に目をやった。
「まあ、武器を体の一部として認識することが重要なんじゃないか。まるで、自分の腕が伸びたかのように、魔力を剣の先端まで流し込むイメージだ。いっといてなんだが、俺は武器を使うのがどうも苦手でな。だからこんなアドバイスしかできねえ」
グレンは苦笑いしながらも、自身の経験や知識から、できる範囲でミナトに剣閃のアドバイスをする。
その言葉に、ミナトの脳裏に電流が走った。
武術家として、彼は常に己の肉体を極限まで意識してきた。その感覚を、剣にまで広げる。
ミナトは剣を抜き放ち、グレンの言葉を意識しながら、全身の魔力纏い・刻付を剣へと流し込んだ。
しかし、剣は微かに光るものの、すぐにその輝きは揺らぎ、魔力が刃の先端まで届かない。
途中で霧散してしまうような感覚だ。
「くっ……!」
ミナトは何度か試みるが、剣全体に安定して魔力を纏わせることができない。
魔力は剣の根元、柄に近い部分で滞留し、それ以上奥へと進もうとしないのだ。
「ほう。そう簡単にはいかないか。体と武器とでは、やはり感覚が違うだろうからな」
グレンはミナトの苦戦する様子を見て、顎に手を当てた。
「だが、お前ならできるはずだ。その剣を、お前の『もう一つの腕』だと錯覚するくらいに意識を集中してみろ。そして、体内の魔力を、その腕の延長線上に流し込むんだ」
グレンの具体的なアドバイスに、ミナトは再び集中する。
剣を握る手に意識を集中させ、まるで自分の腕が剣の先まで伸びたかのようにイメージする。
しかし、それでも剣全体に魔力を安定させることは難しい。
一瞬光を放つものの、すぐに魔力は剣から弾かれてしまう。
「くそっ……!」
ミナトは歯を食いしばる。
体全体に魔力を纏う刻付とは、まるで感覚が違った。
剣はあくまで「物」であり、彼の肉体とは異なる。
その境界を乗り越えることが、これほど難しいとは。
「まあ、そんなものだろうな」
グレンはミナトの苦戦する様子を見て、腕を組んだ。
「剣閃は、刻付を極めた者でも、さらに鍛錬が必要な高等技術だ。お前はまだ、刻付を完全に体になじませたわけじゃない。焦る必要はない。何度も繰り返すんだ。そうすれば、いずれお前の剣も、お前の体の一部となるだろう」
グレンの言葉は、ミナトの心に響いた。
そうだ、武術も一朝一夕で極まるものではない。
繰り返し、体に覚え込ませる。
「はい!」
ミナトは力強く返事をした。
いずれは使いこなす。心に誓ったのであった。
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