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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第一章 冒険者講習

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016 『飛速』の習得

 9時になり講習が始まった。

 グレンは教卓に立ち、冒険者として活動する上での心得を語り始めた。


「さて、今日はクエストについてだ。討伐クエストは一人で受けられるものも多いが、中には最低参加人数が設けられている場合もある。その時は、その人数以上のパーティーを組まなければ受注できない」


 グレンはそう説明し、パーティーを組むことの重要性を説いた。


「パーティーは即席でも構わないが、命を預け合うことになる。だからこそ、信頼できるやつと組むことを強く勧める。背中を預けられる仲間がいるかどうかで、生死が分かれることもあるからな」


 その言葉は、ミナトの胸に深く響いた。

 コウキとの絆を思い出す。

 いつか、彼と肩を並べて戦うためにも、この世界で信頼できる仲間を見つける必要があるだろう。


「クエストを受ける上での心得だが、まずは己の力量を過信するな。そして、情報収集を怠るな。魔物の生態、地形、天候……あらゆる要素が、お前たちの命を左右する」


 グレンは、冒険者としての厳しさを淡々と語った。


「それと、冒険者であれば、他国へ渡ることもあるだろう。もし他国へ行ってもギルドカードは世界共通だ。お前らの身分、ランクを証明してくれる。決して無くすことの無いようにな」


 ミナトは、いずれコウキと再会するために、この世界の地理や文化を学ぶ必要があると感じた。


「今日の講習はここまでだ。次回の講習が最後となる。しっかり復習しておくように」


 座学を終え、再び午後の実技の時間になると、訓練場へと移動した。

 各々が講習で得た知識を意識し、魔力纏いや複合魔法を試している。

 時折グレンが的確なアドバイスをしてまわる。


 参加者の中には、複合魔法の発動に成功する者も現れ始めた。

 しかし、魔力纏いに関しては、まだ誰もミナトのように自在に操ることはできていない。

 それどころか発動すらも出来ない人ばかりだ。

 やはりそれだけ習得が難しいのだと、ミナトは改めて感じた。


 そんな中、ミナトは刻付の状態でひたすらに素振りをする。

 シスカとの手合わせで見た、一瞬で間合いを詰める彼女のスピードを再現しようと試みるが、まだその境地にはほど遠い。


 すると、グレンがミナトの元へとやってきた。


「その動き、シスカの真似事か?」


「はい。あの動きは剣術に限らず、あらゆる場面で役に立つと思いまして。ただあのスピードには到底及ばず……」


 ミナトが正直に答えると、グレンはニヤリと笑った。


「お前のその刻付は、単純な身体強化だけじゃねぇ。瞬間的な爆発力も生み出せるはずだ。刻付を維持しながら、さらに足へ魔力を集中させ、地面を蹴ると同時に一気に放出してみろ」


 グレンのアドバイスに、ミナトは目を見開いた。

 言われた通りにやってみる。

 足裏に魔力を集中させ、地面を蹴り出す。

 その瞬間、体内の魔力がジェットエンジンのように噴出し、ミナトの体がとてつもないスピードで前へと押し出された。


 ドンッ!


 思いっきり壁にぶつかる。

 ミナトも想像していなかったスピードだったため、コントロールをする暇もなかった。

 だがその速度は、シスカの雷魔法による加速にも匹敵する、あるいはそれを凌駕するほどのものだった。


「またすぐにできちまったのか……」


 グレンは呆れたような、それでいて満足げな表情で呟いた。


「その技は、『飛速ひそく』って技だ。今みたいな爆発的なスピードを産み出したり、使い方によっては空を蹴ることも可能だ。ただ魔力の消費量が激しいからあまり多用するとすぐにガス欠になる。注意しろ」


 グレンはそう忠告したが、ミナトは自身の魔力量が自分でもわからないほど膨大であるため、魔力が減るという感覚を知らなかった。

 なぜなら、彼の膨大な魔力の総量から見れば、『飛速』の激しい消費ですら、まるでコップに一滴の水を垂らした程度の変化しか感じられないからである。


 その後も時間の限り、『飛速』を繰り返し行う。

 体は徐々にその動きになれてきて、距離やスピードの加減などをコントロールできるようになってきた。

 もう少し練習したいところだったが、時間となり、グレンの掛け声と共に実技の時間が終了した。


 講習を終えミナトは依頼を受けようかと思ったが、いくつか試したいことがあり、近くで昼食を済ませ王都にある、魔道具店へと足を運ぶ。


 そこには魔力ポーションをはじめとし、魔法関連の道具がたくさんおいてある。

 そのなかでミナトが手に取ったのは、マジック・スクロールと呼ばれる、魔法を保管した巻物だ。


 ミナトは、マジック・スクロールを使用することで自己強化魔法が使えるのではと考え、自己強化と風の属性エンチャントのスクロールを購入することにした。


「すいません、この2つ下さい。あと使い方とかきいてもいいですか?」


 ミナトは店主の老婆に話しかける。


「まいど。これはここの紐をほどいて、スクロールを開けば発動するよ。魔力を使わないから、いざってときに便利さね。ただ一度しかつかえないから注意しなね」


 店主は丁寧に説明してくれ、使い方を理解できた。

 ミナトは礼を言い店を後にした。

 そのまま王都近郊の森の中へと入り、人気のないところまで進んでいく。


(よし、この辺りなら……)


 ミナトは気持ちの高ぶりを抑えつつ、考えを実行へと移す。


 刻付を発動させながら、自己強化のマジック・スクロールを取り出し、言われた通りに発動させる。

 途端に魔方陣のようなものが発動し、ミナトの体を包んだ。


 ……かに思えたが、次の瞬間魔方陣が歪みはじめ、光が消えていく。


「なっ……!?」

 マジック・スクロールは完全に効力を失い、魔方陣は消失した。


 ミナトは膝から崩れ落ちた。薄々感じていた『可能性』が、冷たい『確信』へと変わった瞬間だった。

 強化魔法は、彼の体内の魔力に拒絶されたのだ。


「そうだ、武器エンチャントもためそう」


 体ではなく武器になら、ミナトの魔力は流れていないので、武器エンチャントなら使えるかも、と希望を見いだす。

 風属性エンチャントのマジック・スクロールを取り出す。


(たのむ……!)


 発動させると、同じく魔方陣なようなものが発動し、剣を光が包み込む。

 剣の全てが緑色の淡い光を纏った。これは風属性エンチャント特有の色だ。


(成功した……のか……?)


 だがそれは一時的であった。

 ミナトが握っている、柄の部分から徐々に光が失われ、やがては普通の剣に戻った。


 どうやら一時的にエンチャントは出来たみたいだが、ミナトの触れている部分から魔力の反発が起こり、均衡が崩れ、術式が崩壊したのだろう。

 またもミナトは膝から崩れ落ちた。


 やはりこの世界において、ミナトは魔法の道を完全に断たれた。

 しかし、その瞬間、彼の胸に燃え上がったのは絶望ではない。

 魔法が使えないのなら、魔力纏いの全てを極め、この世界の理を覆してやると、ミナトは心に固く誓った。

作品を読んでいただきありがとうございます。


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