015 剣術と新たな出会い
翌朝、ミナトはいつもより少し早く目を覚ました。
宿の食堂で朝食を済ませると、昨日購入したこの世界の常識が記された書物の中から、剣術に関する記述を探し始めた。
この世界では、剣術といえど、単に剣を振るだけではない。
書物によれば、剣士たちは剣に属性をエンチャントする魔法を併用し、剣撃の威力を高めたり、衝撃波による中距離攻撃にも対応する立ち位置の武器として剣を扱っていた。
また、自己強化魔法を併用することで、素早い動きや強力な一撃を放つこともできるという。
(なるほど……属性エンチャントや自己強化魔法は使えないが、魔力纏い・刻付を使えば、似たような動きはできそうだな)
ミナトは書物を読みながら、自身の能力との応用を考える。
魔法が使えなくとも、彼の魔力と武術の経験があれば、この世界の剣士たちとは異なる、独自の剣術を確立できるはずだ。
時間になり、ミナトはギルドの訓練場へと向かった。
グレンは既に待っており、いつものように腕組みをしている。
「グレンさん、おはようございます。今日は刻付の稽古に加え、剣術も指南していただきたいのですが」
ミナトがそう切り出すと、グレンは顎の髭を撫で、少し困ったような顔をした。
「剣術か……悪いな、俺はそっちは専門外でな。だが、ちょうどいいやつがいる」
グレンはそう言うと、訓練場の隅で黙々と素振りをしていた一人の少女を呼び寄せた。
ミナトと年齢は同じくらいだろうか。
長い銀髪をポニーテールにまとめ、すらりとした体躯に、鋭い眼光を宿している。
腰には、ミナトが昨日購入したものとは比べ物にならないほど上質な剣を携えていた。
「シスカ。こいつに剣術を教えてやってくれ」
グレンの言葉に、少女は無言で頷いた。
「ミナトと申します。剣術の指導、よろしくお願いします」
ミナトが頭を下げると、シスカは一礼を返した。
「シスカです。よろしくお願いします。グレンさんから話は聞いています。あなたは魔法が使えないのに、魔力纏い・刻付を会得したと」
シスカの言葉に、ミナトは少し驚いた。
グレンが彼女に自分のことを話していたらしい。
「私はBランクの冒険者です。魔力纏いはまだ未熟ですが、雷魔法と剣術を合わせた技術には自信があります」
Bランク。ミナトより遥かに上のランクだ。
しかも、魔力纏いは未熟と言いつつも、雷魔法と剣術を融合させているという。
ミナトは、彼女の強さを肌で感じ取った。
「まずは、あなたの技量を見せてもらいます。手合わせをしましょう」
シスカの提案に、ミナトは迷わず頷いた。
実戦でこそ、自分の力が試される。
二人は訓練場の中央で向かい合う。
ミナトは全身に魔力纏い・刻付を発動させ、相手の出方を伺うように構えた。
対するシスカは、剣を抜き放つと同時に、体内の魔力を解放した。
彼女の全身と剣に、青白い雷光がバチバチと音を立てて纏い始める。
それは、まるで雷神が降臨したかのような、圧倒的な威圧感を放っていた。
その瞬間、シスカは雷光を纏った剣を構え、ミナトを凌駕するような驚異的なスピードで間合いに踏み込んできた。
ズバンッ!
閃光のような一撃がミナトの顔面を掠める。
間一髪のところで、ミナトは攻撃をかわした。
しかし、シスカの攻撃は止まらない。
間髪入れずに次の斬撃が容赦なく襲いかかる。
ミナトは刻付による身体強化で辛うじて対応するも、ギリギリのところで攻撃をいなすのが精一杯だった。
(速い……! 魔法による強化がここまでとは!)
ミナトは剣の重みと、雷の魔力を含んだ斬撃の圧力を肌で感じていた。
だが、ミナトは一瞬の隙を見逃さなかった。シスカの攻撃がわずかに途切れたその瞬間、ミナトはカウンターを放つべく、踏み込んだ。
渾身の突きがシスカへと迫る。
しかし、シスカはミナトの動きを予測していたかのように、瞬時に後ろへと下がり、ミナトの攻撃をかわした。
その時だった。
「そこまでだ、お前ら!」
グレンの雷鳴のような声が響き渡る。
「やりすぎだ!」
グレンは軽く怒ったような顔で二人を睨んだ。
ミナトは荒い息を整えながら、シスカを見る。
彼女もまた、額に汗を浮かべながらも、その瞳には好戦的な光が宿っていた。
ミナトは改めて、魔法による身体強化の凄まじさを思い知った。
シスカのスピードは、刻付を発動した自分を凌駕していた。
しかし、同時に、この強大な力を、自分の武術と魔力纏いでどこまで攻略できるのか、という武者としての挑戦意欲が、ミナトの胸に強く燃え上がっていた。
「まさか、あの一撃目を防がれるとは思いませんでした。少し、むきになってしまいました。申し訳ありません」
シスカは剣を鞘に収め、微かに息を弾ませながら、ミナトに頭を下げた。
その表情には、先ほどの好戦的な光は薄れ、素直な謝罪の念が浮かんでいる。
「それより、刻付による体捌き、見事でした。魔法強化なしに、あの速さで動けるとは……。それとその剣捌き、素人ではないですよね?」
シスカは鋭かった。
あの一戦でミナトが剣術経験者であることを見通していた。
「はい、以前剣による特訓はしていましたが、魔法を使った相手と手合わせするのは初めてです。それと自身も魔力纏いの状態で剣を握るのも初めてです。とはいえ、シスカさんの魔法による剣捌き見事でした!魔法による強化があそこまでとは思いませんでした。とても速くて見てから動くんじゃ間に合わなかったです。ですが、動きが直線的で、少し予測することでなんとか防げました」
最初は誉め言葉に少し笑みを浮かべていたが、ミナトの直線的という言葉に、シスカの表情が固まった。
彼女は欠点を正確に言い当てられたことに、少しだけへこんだような様子を見せる。
「まあ、二人とも発展途上だからな。気にすることはない」
グレンがそう言って、豪快に笑いながら二人の間に入ってきた。
その言葉に、シスカも少しだけ表情を和らげる。
「なあ、ミナト。もし、シスカが魔力纏い・刻付を極めたらどうなると思う?」
グレンが、ミナトに問いかけた。
ミナトはシスカと自分、そして刻付の特性を頭の中で巡らせる。
(シスカさんの雷魔法による強化と、魔力纏い・刻付による身体強化……その二つが合わさったら、とんでもないことになるのでは……?)
ミナトの脳裏に、想像を絶するような、圧倒的な速さと破壊力を持つ剣士の姿が浮かび上がった。
「とんでもないことになると思います。今のシスカさんのスピードに、刻付による、さらなる身体強化が加われば……」
ミナトの言葉に、グレンは満足そうに頷いた。
「だろうな。俺もこいつの将来には期待している。だが、まだ当分先の話だ。お前の魔力纏いの習得スピードが異常なだけで、そんな簡単に極められるもんじゃない」
グレンはそう言って、ミナトの頭を軽く叩いた。
その言葉は、ミナトの才能を認めつつも、決して驕ることのないよう諭しているかのようだった。
「さて、講習の時間だ。シスカ、お前は残って今日の反省点を踏まえて修行しておけ。ミナト、行くぞ」
グレンはそう言い、講習室へと歩き出した。
シスカは「はい!」と力強く返事をし、再び剣を構える。
ミナトもグレンの後を追い、講習室へと向かった。
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