115 二人の帰還
――騎士団での訓練見学から十日程。
ミナト、シスカ、クレイグの三人は、今日もギルドの喧騒の中にいた。
彼らはセイラとメリアが試験を受けている間も、足を止めることなく細かな依頼をこなし、着実に実績を積み上げていた。
掲示板の前で、ミナトが羊皮紙をめくりながら口を開く。
「そろそろセイラとメリアも帰ってくる頃だし、今日の依頼は近場の簡単なやつで済ませておこうか。入れ違いになっても悪いしな」
「ええ、そうね。問題なければきっと今日か明日には帰ってくるはずだわ」
シスカの言葉に、クレイグがハッとしたように顔を上げた。
「そういえば……お二人が試験に合格して戻ってきたら、私たちは『Aランクパーティー』になりますね!」
「そうか、そうすると今後はAランクの高難易度依頼も受けられるようになるのか」
「そうね! 雲の上だと思っていたSランクが、もう手の届くところまできたなんて……」
シスカは自身の胸元にある金色のプレートを服の上から握りしめ、喜びと緊張が入り混じった表情を見せる。
それはミナトとクレイグも同様だった。
Sランク。それは冒険者の頂点。
ミナトは、先を行く親友コウキと肩を並べるために。
クレイグは、故郷の伝承のダンジョンでクリスタルゴーレムを討伐する力を得るために。
シスカは、偉大なる兄・ルナを超えるための壁を乗り越えるために。
そして、パーティー共通の悲願である、魔王討伐のために。
その称号には、単なるランク以上の、彼らの人生を懸けた願いが宿っていた。
その後、三人は街の外で『オークの集落討伐』という手頃な依頼を迅速に片付け、夕刻にはギルドへと戻ってきた。
扉を開くと、冒険者たちの熱気と酒の匂いが流れ込んでくる。
受付にはいつも通り、忙しく働くリビアの姿。
そして――。
「あ! ミナトさーん!こっちです!」
ギルドの奥、木製のテーブル席から、聞き慣れた明るい声が飛んできた。
そこには、旅装を解き、果実水を片手に寛いでいるセイラとメリアの姿があった。
装備に多少の傷や汚れは見られるものの、その表情は晴れやかで、怪我をしている様子はない。
「セイラ、メリア!戻ってたのか!」
ミナトたちは安堵の息を吐き、駆け寄るように二人の元へ向かう。
互いの無事を確認し、労いの言葉を掛け合い、肩を叩く。激戦を終えた仲間との再会に、自然と頬が緩む。
「二人とも、試験はどうだった?」
ミナトの問いに、セイラとメリアは顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。
「ふふっ、バッチリです!二人とも合格ですよ」
セイラが誇らしげに胸元から取り出したのは、夕日に照らされて眩い輝きを放つプレート。
紛れもない、金色のAランクプレートだ。
「おめでとう!追い付いたと思ったらもうAランクか!」
「やりましたね!あ、ミナトさんとクレイグさんもBランク昇格おめでとうございます!」
セイラの言葉にミナトとクレイグはにっこりと微笑む。
数日前にミナトたちがランクアップしたこともあり、ギルドの規定により『零閃の狼煙』は、正式にAランクパーティーとして認定されることとなったのだ。
「それにしても、こんなにも早くAランクパーティーになれるとは思ってもなかったよ」
ミナトが感慨深げに呟くと、シスカが深く頷く。
「そうね。グレンさんの指名依頼という特例があったとはいえ、このスピードは異常よ。普通の冒険者では生涯到達することなく終わるような領域に、私たちは一年足らずで来たんだもの」
多くの冒険者は、日々の生活費を稼ぐために依頼をこなす。ランクアップはあくまで結果論だ。
だが彼らは違う。明確に強さと高みを求め、死線を越え続けてきた。その覚悟の差が、桁違いの成長速度を生んだのだ。
「さて、俺たちは今日の分の依頼報告をしてくるよ。二人とも、試験直後で疲れてるだろ?今日はもうゆっくり休んでくれ。また明日、新しい依頼でも決めようか」
「はい!ではまた明日!」
「お言葉に甘えさせてもらいます。流石に、Aランクの魔物相手は骨が折れましたから」
メリアが苦笑しながら伸びをする。その言葉に、試験の過酷さと、それを乗り越えた自信が滲んでいた。
二人の背を見送った後、ミナトたちはカウンターのリビアの元へと向かった。
リビアはこちらに気付くなり、業務用の顔ではなく、心からの祝福に満ちた笑顔で出迎えてくれた。
「お疲れ様です!パーティーのAランク昇格、おめでとうございます!こんなに早くAランクパーティーになるなんて流石ですね!」
「ありがとうございますリビアさん。これからも精一杯やらせてもらいます」
リビアに一礼すると、いつものように依頼達成の手続きを済ませ、ギルドを後にする。
外はすでに日が落ち、冷ややかな風が体を撫でる。
「細かな依頼が多かったけど、それなりに数はこなせたから、また大きい依頼をいくつか受ければランクアップ出来るかもな。Aランクになったことだし、次は『貢献度』を得られる依頼に焦点を絞ってみるか」
ミナトの提案に、クレイグが目を輝かせる。
「はい!明日の朝、じっくり吟味しましょう!」
「そうね。いくら貢献度が高い依頼でも、効率は度外視できないもの。私たちの戦力に合った、最適な依頼を選びましょう」
シスカの冷静な言葉に、ミナトは力強く頷いた。
「だな! じゃあ詳しくはまた明日、ギルドで作戦会議だ。俺たちも解散して、後はゆっくり休むか」
三人はその場で別れを告げ、それぞれの宿へと向かう。




