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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第四章 Sランクへの道のり 後編

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114 メリアの戦い

 ――セイラが激闘を繰り広げている頃、メリアもまた、Aランク昇格試験の討伐対象『ミノタウロス』と対峙していた。

 牛の頭部に、丸太のような太さの手足。二足歩行でありながら体長は三メートルを超え、その全身は鋼のような筋肉の鎧で覆われている。


 単純な腕力と突進力においては、Aランク魔物の中でも最上位に位置する危険な魔物だ。

 だが、メリアにとってこの状況は、慣れ親しんだ狩場に過ぎない。

 彼女の得意とする風魔法による索敵は、相手に気づかれることなく、その位置を完全に特定していた。


「距離、風向き、障害物……すべて問題なし」


 メリアは木々の隙間から、徘徊する巨体を視界に捉えると、静かに息を吐き、愛用の長弓を構えた。

 指先に全神経を集中させ、矢に濃密な風の魔力を螺旋状に巻き付けていく。


「風弓バーストショット!」


 キィィーン!


 弦音が高らかに鳴ると同時、放たれた矢は弧を描くことの無い弾丸と化し、一直線にミノタウロスへと迫る。

 死角からの狙撃。


 だが、ミノタウロスの野生の勘は鋭かった。

 殺気を含んだ風切り音に反応し、とっさに腕を交差させ、頭部をガードする防御体勢をとったのだ。

 避ける余裕はない。ならば、その強靭な肉体で受け止める。


 矢一本程度、筋肉の鎧で弾き返せるという絶対的な自信。

 だが、それはメリアの計算通りだった。


 ドスッ!!


 矢はガードしたミノタウロスの左腕に深々と食い込んだ。

 その直後、矢尻に圧縮されていた暴風が解放される。


 ブオォォォーン!!


「グォォッ!?」


 破裂音と共に、肉が弾け飛ぶ。

 単なる刺突ではない。内部で風が爆発し、ミノタウロスの左腕をごっそりと抉り取ったのだ。

 致命傷ではないが、片腕の機能を奪うには十分すぎる一撃。


 ミノタウロスは激痛と怒りに咆哮を上げ、血走った目で矢の飛来した方向を睨みつけた。

 距離はある。だが、ミノタウロスには逃げるという選択肢は無かった。

 怒りのせいで衝動が抑えきれなかったのだ。


 ドンドンドンドンドン!!


 大地が揺れる。

 ミノタウロスが前傾姿勢をとると、まるで暴走する戦車のように猛烈な勢いで突進を開始した。

 巨体が通るたび、細い木々はへし折れ、地面が踏み砕かれていく。


「かなりの距離があったはずなのに、もうこんな近くに!?」


 メリアは冷静さを保ちつつも、その異常な加速力に舌を巻く。

 追撃の矢を放つが、警戒状態に入ったミノタウロスは首を振って急所を逸らし、あるいは強引な突進速度で矢の軌道を置き去りにしていく。


「当たらない……。けどこれなら……!」


 メリアは瞬時に思考を切り替え、魔法のイメージを構築し直す。

 貫通力と弾速のみを極限まで高めた一点集中の矢。


「風弓――ピアスショット!」


 音速を優に越える一撃。

 ミノタウロスが視認するよりも速く、それは着弾した。


 シュンッ!


 音もなく、ミノタウロスの肩や太腿に風穴が開く。

 貫通して後方の木に突き刺さるほどの威力。

 だが、ミノタウロスは止まらない。アドレナリンが痛覚を麻痺させているのか、血を流しながらも速度を緩めず、メリアの目と鼻の先まで迫りくる。


「っ……!」


 目前に迫る暴力の塊。

 普通の弓使いなら、ここで死を覚悟するだろう。

 だが、メリアは弓使いであると同時に、短剣使いでもある。


 メリアは弓を背に回すと同時に、腰の短剣を逆手で引き抜いた。

 遠距離で弱らせ、近距離で仕留める。

 それがメリアの必勝パターンであり、彼女がソロで生き抜いてきた理由だ。


「グオォォォッ!!」


 ミノタウロスの丸太のような拳が振り下ろされる。

 メリアは風のように身を翻し、紙一重でそれを回避する。

 風圧で髪が乱れるが、その瞳は冷徹に獲物の弱点を見据えていた。

 すれ違いざま、短剣で横腹を切り裂く。


「硬い……! これじゃまともに斬れない!」


 短剣の刃が通った感触は浅い。表皮が硬すぎて、致命傷には至らない。

 ミノタウロスは無尽蔵のスタミナで暴れまわり、メリアを圧殺しようと暴風のような連撃を繰り出す。


 だが、メリアに焦りはない。

 彼女の目は、先ほど自身が放った『ピアスショット』の痕跡――ミノタウロスの足に空いた、小さな穴に釘付けになっていた。


「外側が硬いなら……中から壊せばいい」


 メリアは呼吸を整え、突進のタイミングを計る。

 ミノタウロスが大地を踏みしめ、メリアに向かって踏み込んだ瞬間。

 メリアは退くのではなく、恐れずに懐へと飛び込んだ。


「ここです!」


 針の穴を通すような精密動作。

 メリアの短剣が、ミノタウロスの足の傷口、そのわずかな隙間にねじ込まれる。


 ズチュッ!


 生々しい音と共に、刃が傷口の奥深くまで侵入した。

 これだけではダメージは浅い。だが、仕込みは終わった。


「エアロバースト!!」


 メリアが短剣から手を離し、バックステップで距離を取ると同時。

 短剣に込められていた圧縮空気が、筋肉の内部で解放された。


 ドォォォォン!!


「ゴ……ア……ッ!?」


 体内で起きた爆発は、逃げ場を失い、ミノタウロスの足を内側から破裂させた。

 骨と肉が砕け散り、巨体を支える支柱が失われる。

 片手片足を失ったミノタウロスは、バランスを崩し、盛大に地面へと倒れ込んだ。


 もはや立ち上がることすら叶わない。

 勝負あった。


「とどめです」


 メリアは再び弓を手に取り、冷たい瞳で見下ろす。

 至近距離からのピアスショット。

 狙うは眉間、一点のみ。


 ズドンッ!


 放たれた矢は脳を貫通し、ミノタウロスの巨体は一度だけ大きく痙攣すると、完全に動かなくなった。


「ふぅ……。タフな相手でしたね」


 メリアは短く息を吐くと、乱れた髪を直し、手際よく魔石の回収を始めた。

 Aランク魔物であろうと、彼女の前では、ただの獲物に過ぎなかったのだ。

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