111 磁力への対抗
――ミナトは未だ突破口が見出だせずに防戦一方であった。
だが相手の魔力切れを待ち、ずっとベルグリフの攻撃を凌ぐというのも無理な話だろう。
そこでこの跳ね返される事象を突破するべく思考を巡らせる。
(この違和感の正体はなんだ……?風圧は違う。重力操作……なら地面に縫い付けることも可能なはずだ。……磁力?あり得るな。近付けば近付くほど跳ね返りが強くなる。少し試してみるか)
ミナトは磁力の影響を受けない物、先ほどのベルグリフの斬撃で砕け散った木偶の破片を、攻撃をいなしながら悟られぬように左手に忍ばせる。
そしてミナトは今一度攻撃を仕掛ける。
ベルグリフの剣圧を避けるかのようにジグザクと不規則に体を揺らしながら機を伺い、もっとも隙が大きく生まれる剣を振り切った直後に、飛速により一気に距離を詰める。
タイミングは完璧であった。
おそらくミナトの攻撃を見てから魔法を発動するという時間は無かっただろう。
それだけに今ミナトが接近できていないというのは、謎の防御魔法は常に展開されていることを指している。
(タイミングは関係なかったか。だが、これはどうだ!)
ミナトは左手に忍ばせていた木片をベルグリフに向かい、思いっきり投げる。
ただ投げたのではなく魔力を込めた渾身の投げで弾丸をも思わせる速度の木片がベルグリフに迫る。
そう、跳ね返されるのではなくしっかりとベルグリフに向かって飛んでいるのだ。
ガキン!
ベルグリフは迫り来る木片に一瞬顔を歪めながらも剣で弾く。
「やはりか。あんたのそれ、磁力だろ?」
ミナトは確信をもって言葉を口にした。
「ふむ……。俺の薙ぎ払いを難なく避ける戦闘センスと、状況判断の早さ。がははは!こりゃ一本とられたな!」
ベルグリフは自身の魔法の種がばれたというのに、大口を開けて笑う。
その顔には未だ強者としての余裕のようなものを感じられる。
「そうさ、俺は魔法で磁力を発生させている。つまり、解決策は武器と防具を捨てることだ。そうしなければ俺には近づけないぞ?」
種を明かし突破口を提示すると、ミナトに対しニヤリと不敵に笑いかける。まるで挑発しているかのようだ。
だがミナトは冷静に言葉を返す。
「大抵の人なら武器と防具を捨てて、あんたに挑むなんて無謀なことはしないだろうが……生憎俺にはそんなの枷にもならないぞ!」
ミナトはそう言うと剣と防具を脱ぎ捨て、インナーと革装備だけになった。
常人であればこのような状態でしか挑むことが出来ないとなれば、尻尾を巻いて逃げるしかないだろう。
だがミナトは武人だ。武器も防具も己の肉体に依存することができる。
むしろ体は軽くなり、対人戦であればこちらの方がかなり動きやすい。
ミナトは今一度精神を集中させ、武器が変わったことへの思考の切り替えをスムーズに済ます。
拳を強く握り、全身に纏う魔力をさらに増幅させる。
(これで磁力の影響は受けないはずだ。つまり接近できる!)
ミナトの構えを見るなり、ベルグリフの顔からは余裕の表情は消えた。
「なるほどな……。確かに武器を持っていないというのに、俺の直感は先程よりも脅威を示しているようだ」
ベルグリフはミナトを警戒し、攻撃の手を止め相手の出方を伺うかのように、大剣を正面へと構えた。
ミナトはすかさず飛速を使い、急接近する。
そしてその勢いのままに拳に魔力を込め、ベルグリフに向かい打ち放つ。
だが、ベルグリフはその攻撃を完璧に見極め大剣で弾き返す。
ガキイィィーン!
まるで鉄と鉄がぶつかったかのような甲高い音が鳴り響く。それ程までにミナトの拳に込められた魔力が硬度を発揮している。
だが、力負けしたミナトの拳は大きく後ろに跳ね返され、体勢を崩したところにベルグリフの次の一撃が迫る。
その一撃は、ミナトがわざと作り出した隙によるものとは知らずにミナトの真上から振り下ろされる。
崩れた体勢からのカウンター。常人なら不可能だろう。
ベルグリフもそれを承知の上で攻撃を放っている。だがミナトは違った。
あろうことかミナトは、弾かれた拳の勢いを殺さず、そのまま独楽のように空中で回転した。
遠心力を乗せた右足の踵が、振り下ろされる刃の側面を正確に打ち抜く。
甲高い音が鳴り響いた後に、地響きのような振動が辺りに鳴り響く。
「なに!?」
ミナトの得意とする、振り下ろされる武器の重心をずらすことにより相手の隙を作り出す技だ。
重心をずらされたベルグリフの大剣は地面に突き刺さり完全な隙が生まれた。
(今だ!)
ミナトは右足を軸に、先程剣の重心をずらす時に発生した回転力をそのまま利用し、隙だらけとなったベルグリフの顔面目掛け、回し蹴りを放つ。
バキッ!
鈍い音が鳴り響く。ベルグリフは咄嗟に剣を捨て、腕でガードをしたものの、顔を歪めそのまま仰け反りながら後退する。
ミナトは絶好の勝機と確信し、追い討ちをしかけるべくベルグリフに接近する。
全身に打撃を打ち込むが、どこも鋼のように硬い。流石の鍛え上げられた筋肉だ。これ程の連撃をくらいながらもまだ立っている。
それは団長としてのプライドか、単にダメージとして蓄積していないのか。
だが、勝敗は突然訪れる。
ミナトが右拳に魔力を溜め込み、極壊もどきを放とうとした瞬間……!
目の前のベルグリフが、ふっ、と口角を上げたのが見えた。
(……え?)
直後、背筋が凍るような殺気――いや、風切り音が、ミナトの背後から迫っていた。
ゴオォッ!!
「がっ……!?」
鈍く重い衝撃が、ミナトの後頭部を強打した。
視界が明滅し、意識が瞬く間に闇へと引きずり込まれていく。
最後に見たのは、何もしていないはずのベルグリフが、悠然と見下ろしている姿だけだった。
(な……なにが……)
ミナトの意識はそこで途切れた。




