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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第四章 Sランクへの道のり 後編

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109 騎士団長ベルグリフ

 ミナトはクラウスに案内され、団長のもとへと向かうのであった。

 その足取りは軽いようで重く、未知の強者と手を合わせることに体の芯から熱いものが込み上げ、指先が微かに震えていた。


「団長!こちらミナトさんという、あの勇者召喚の時にコウキ様と共に召喚されたもう一人の勇者様です。是非手合わせお願いできないでしょうか?」


 クラウスの言葉に団長は稽古の手を止め、剣を鞘に収めるとミナトに向き直る。

 その佇まいを目の前にミナトは息を飲んだ。


(隙がまるで見当たらない……!それになんて威圧感だ……!)


 ミナトの全身の毛穴が収縮する。

 団長は剣を構えてすらいない。ただ立っているだけだ。

 だが、その視線やわずかな体重移動だけで、周囲の空気が鉛のように重く変質し、すでに彼の間合いに捕らわれているかのような錯覚に陥る。迂闊に指一本動かせない。


 だが、団長はそれを察したのかわざと気を緩めるかのように、目を細め無骨に笑うと一礼した。

 途端に、肌を刺していた殺気が霧散する。


「なに、そう気負わなくていいぞ。俺は王国騎士団長、ベルグリフだ。手合わせをしたいだなんて、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」


 ベルグリフと名乗る男はミナトが見上げるほどにでかかった。

 決してミナトは背が低いわけではないが、彼の身長はおそらく二メートルを優に超えているだろう。


 引き締まった筋肉というよりは、鍛えぬかれた鋼鉄の塊が服を着て歩いているようだ。

 いかにもパワー特化に見えるが、その立ち方は驚くほど自然体で、重心が完全に安定している。


 先程はほとんど動かずして隊員の攻撃を防ぐ……というより、隊員もろとも吹き飛ばしていた。

 見た目とは裏腹にとても素早いのか、もしくは繊細な魔法のコントロールを備えているのか。


 ミナトの視線は団長に釘付けになっていた。

 この猛者をどう攻略するか。使う魔法はわからないが剣術はもちろんレベルは高いだろう。


 体術はつかってくるのだろうか。果してかてるのか。

 ミナトの頭の中では想像のベルグリフとの戦闘が何度も行われていた。だが、どの想像もしっくりこない。

 それだけにこの男が想像の範疇に収まる男では無いということなのだろう。


(やはり実戦あるのみか……)


 ミナトは想像を捨て、腹を括った。


「はじめまして。自分は零閃の狼煙リーダー、ミナトといいます。副団長からベルグリフさんのことを伺い、とても興味が湧きました!」


 ベルグリフはその言葉にミナトを一瞥すると、腕を組み直し見定めるかのように口を開く。


「召喚時に暴れていた魔力は完璧に制御出来たようだな。それにこんな短期間で常に刻付を纏えるようにまでなるとは……。それもかなりの練度だな。独学では難しいだろう。良き師でもいるのか?」


 ミナトは迷わず頷いた。


「はい、ギルドマスターのグレンさんという方に、魔力の扱い方を叩き込まれました!」


「グレン!……そうか、あいつか!」


 グレンの名を聞いた瞬間、ベルグリフは目を丸くし、次いで懐かしむように頬を緩めた。

 厳格な騎士団長の顔から、悪友を想う少年のごとき笑顔が覗く。


「グレンは昔から魔力の扱いが得意だったな。それこそ魔力纏いに関していえば、王都ではやつの右に出る者は居ないのではないだろうか。その弟子ともなれば……ふふっ」


「やはりグレンさんは相当の使い手なんですね。強いのは理解してましたが、比べる指標が無かったので」


「そうだな。俺と彼が手合わせをしたとして、勝率は五分……といったところだろうか。それこそ時の運が傾いた方に女神は微笑む、程度の差しかないだろう」


 ミナトはこの男ですら勝率が五分程度であると聞き、目を見開き、驚愕する。

 グレンの本気を見たことはないが、彼が本気を出せば、この化け物じみたベルグリフに匹敵する。その事実は弟子として誇らしく、同時に嬉しかった。


 それほどの実力者に時の巡り合わせで出会うことができ、そして彼が自身を気にかけ、弟子として稽古をつけてもらえた幸運。

 すべては偶然ではあったが、それがあったからこそ今の強さを得ることができ、そしてさらに高みを目指せる。


 そして逆に言えば、グレンですら五分の相手に自身はどれ程戦えるのか。

 恐怖ではない。純粋な闘争心による武者震いが、体の奥底から沸き上がってくる。


「さて、話はそれほどにして……やるか?」


 ベルグリフの言葉と共に、世界から音が消えた。

 いや、ミナトが音を捨てたのだ。

 ミナトは肺の中の空気を全て吐き出すように深く、静かに呼吸する。

 心臓の鼓動がゆっくりと、しかし力強く脈打ち、血液の流れる音さえ聞こえるほどの静寂が訪れる。


 極限の集中。

 脳が勝手に不要な情報を遮断し、処理速度を極限まで引き上げる。

 周囲の団員の声も、風の音も、色彩さえも薄れていく。

 視界に残るのは、目の前のベルグリフという存在のみ。


 彼の筋肉のわずかな収縮、重心の微細な揺れ、まばたきのタイミングまでもが、鮮明な情報として脳に刻み込まれていく。

 一種の覚醒状態、『ゾーン』。


 クラウスのような魔法による強制発動ではない。ミナトが武術家として積み上げた、純粋な精神の研鑽による没入。

 ミナトは完全に澄み渡った思考の中で、静かに答えた。


「はい、やりましょう」


 小さく頷くと、音もなく剣を抜き、構える。

 それに答えるように、ベルグリフは背中に刺した身の丈ほどの大剣に手をかけた。


 ゴウッ……!


 片手で軽々と抜き放たれたはずの大剣が、その質量で空気を震わせ、重低音を響かせる。

 ベルグリフがどっしりと構えると、それだけで巨大な城壁が立ちはだかったような圧迫感が場を支配した。

 クラウスが手を振り上げる。

 張り詰めた糸が切れる寸前、二人の殺気が最高潮に達する。


「では、はじめっ!」

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