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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第四章 Sランクへの道のり 後編

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108 クラウスの提案

「すまない、シスカはうちの大事なパーティーメンバーなんだ。引き抜きは勘弁してくれないか?」


 ミナトは無意識のうちに気配を殺し、シスカ達の背後、剣の間合いの内側まで踏み込んでいた。

 言葉が聞こえた瞬間、二人の反応は劇的だった。


 ザッ!


 クラウスの右手が反射的に剣の柄に掛かり、シスカは弾かれたように後方へ飛び退く。

 思考よりも先に、体が背後を取られたという脅威に反応したのだ。

 それがただの驚きではなく、洗練された武人の反応であることを示している。


「ミナト!いつからそこにいたの?」


 相手がシスカの知り合いだと認識すると、クラウスは柄から手を離し、両手を上げて降参のポーズをとる。

 敵意がないことを示すと同時に、完全に背後を取られたことへの敬意の表れでもあった。


 また、勧誘から手を引くという意思表示も込めているのだろう。


「おっと、パーティーメンバーの方でしたか。これは失礼しました」


「いや、分かってもらえたなら大丈夫です。俺は彼女の所属するパーティーリーダーのミナトと言います。シスカの相手をしてもらいありがとうございます。何かと迷惑かけてませんでしたか?」


 ミナトの言葉にシスカは少し頬を膨らませ、何か言いたげにむっとした表情をするが、声にはださなかった。

 遅れてきたクレイグとリリィも、副団長に対して丁寧に会釈をする。

 そして副団長はミナトの自己紹介に返すように、一礼した後口を開いた。


「引き抜きは諦めておきますね。私は王国騎士団副団長、クラウスと申します。こちらこそいい刺激をもらえましたし、団員達の士気も高まったので気にしないでください。なんならまたお願いしたいくらいですね」


 終始笑顔で答えたクラウスと名乗る副団長は、重厚な騎士の鎧に身を包んでいるが、その立ち姿は決して鈍重ではなく、無駄な贅肉を削ぎ落とした鋼のような鋭さを漂わせている。

 年齢は30代前半と言ったところだろうか。

 落ち着きがあり、灰金色の髪が理知的な雰囲気を漂わせている。


「ところでミナトさん。先程の気配の消しかたといい、腰の剣とその引き締まった筋肉……やはりあなたも魔法剣士なのですか?」


 王国騎士団は魔法と剣技を併用する『魔法剣士』が主力だ。

 メリアのように弓を扱う者も中にはいるが、近接戦闘と魔法の親和性が高い剣を選ぶ者が圧倒的に多い。


「自分は魔法は使えないので、どちらかというとただの剣士……ですかね。無論魔力纏いによる強化はしてますけど」


 ミナトの言葉にクラウスは目を閉じ顎に手を当て、少し考え事をはじめる。


「……ミナトという名前と魔法が使えないという特異体質。もしや勇者召喚の時に召喚された方ですか?」


 ミナトは頷いた。副団長ともなれば勇者召喚について詳しく知っていても当然かもしれない。


「やはりですか!私もあの時あの場に居たのですが、遠目からしか見えなかったもので……。声だけは聞こえていたので、今確信に至りました。勇者殿の力も是非拝見したいものですね」


「勇者なんてよしてくださいよ。俺はあくまで冒険者として勇者を手助けする立場ですから。手合わせなら俺からもお願いしたいくらいですが……」


 ミナトは言葉を切り、クラウスの右腕に鋭い視線を送る。


「クラウスさん、今日はもう腕が限界じゃないですか?」


 クラウスは一瞬目を見開き、そして観念したように左手で右腕を軽く抑えた。

 どうやら先程のシスカの一撃に対抗するために、相当無茶な筋肉の使い方をしたみたいだ。

 微かな筋肉の強張りを見抜かれたことに、苦笑いを浮かべながらも感心する。


「あははは……。ばれてましたか。隊員の手前、勝ったかのように振る舞ってましたが、あのまま続けていればどうだったか分かりませんね。まだまだ精進が必要みたいです」


 出会いこそ仲間の引き抜きの現場ではあったが、ミナトはすでにクラウスの人柄や、自身の弱さを認められる強さに感心していた。

 彼は副団長に相応しい強さや人望、支持があるのだろう。それに加えさらに強くなることに貪欲であるところも人間味があり、とても魅力的だ。


「また来るので、万全の状態の時に手合わせをお願いしますね」


 ミナトは自然と笑顔になった。クラウスもまた笑顔で返し、互いに握手を交わした。


「それにしてもクラウスさんの実力で副団長だとしたら、団長さんはどれ程の実力者なのですか?」


 その問いに対し、クラウスの表情から笑みが消え、畏怖と尊敬が入り混じった真剣なものへと変わる。


「団長は私が百回手合わせしても、一度も勝てないと思います。一言で言うなら、生きる次元が違う……そう思わせる御仁です」


 クラウスの視線は、自然と離れた場所へと向けられた。

 訓練場の奥、そこだけ空気が凪いでいるかのような異質な空間があった。


 一人の男が、複数の団員を相手に稽古をつけている。

 だが、剣を振るうまでもない。男がわずかに指を動かすだけで、掛かっていく団員たちが見えない壁に弾かれたように吹き飛んでいく。


 その男の周囲だけ、重力そのものが歪んでいるかのような、圧倒的な個の圧力が支配していた。


「あの強さのクラウスさんが、一度も……!?」


 シスカは信じられないといった表情で、クラウスの視線の先を見つめる。


「ミナトさん気になるなら一度手合わせをしてもらいますか?」


 クラウスの提案を聞いた瞬間、ミナトの心臓が、早鐘を打つように高鳴った。

 恐怖ではない。武道家としての本能が、あの底知れない強者との邂逅を渇望し、指先が熱くなるのを感じる。


 無論今日は見学だけのつもりではあったが、これほどの実力者であるクラウスが、手も足もでないという団長との手合わせ。

 やらぬ道理がなかった。

 ミナトは高鳴る鼓動を抑え込むことなく、はっきりと声にだした。


「はい!是非!」

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