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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
第四章 Sランクへの道のり 後編

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107 シスカ対副団長

 ミナトとクレイグはアルフレッドの話に聞き入っていた。

 没頭してしまうほどに臨場感のある説明だったが、リリィに至っては長話に飽きたのか、ミナトの膝の上で寝てしまっているみたいだ。


 ミナトはコウキ達の動向を知ることができ、それが自身のモチベーションへと繋がり、同時に親友が着実と歩みを進めている事に安堵する。


(順調そうで何よりだ。あの訓練内容……、俺との鍛練の日々が役に立ったみたいだな)


 コウキが提示した訓練内容は、以前ミナトが作り出した効率をとことん重視した内容を、この世界用に少しアレンジを加えたものだ。

 その事実にミナトは言葉もなく、ただ胸の奥が熱くなるのを感じる。

 まるで二人は離れていても、深いところで繋がっているかのようだ。


「今回の話はこのくらいにしておきましょうか。すでにカレントリア聖国を出立している頃かと思いますが、魔水晶に映る映像もかなり時差がありますゆえ、まだ説明できるほどの情報はありませぬ」


 アルフレッドは魔水晶から手を離し、置いてあったコップに手を掛け、長話で乾燥してしまった喉を潤す。


「話きかせてもらってありがとうございます!コウキが順調にやってると知れて良かったです」


 ミナトはアルフレッドに笑い掛け、頭を下げた。


「コウキさん達は最終的にはまたこの国へ戻ってくるんですよね?会える日が楽しみになりました。英雄の方々も個性溢れる方達ばかりですね」


 クレイグは話を聞くことにより、コウキの事、英雄の事が知れて、彼らに興味が湧いたみたいだ。

 目を輝かせ、顔には笑みがこぼれている。


「いえいえ、わたしも彼らの動向を再確認しているようなものなので、また情報が整理できたら是非お話を聞きにきてくださいな。ではわたしはこれで失礼しますぞ」


 アルフレッドは満足げに笑みを浮かべると、一礼し部屋を後にした。


「コウキ達と次会うときには、俺たちももっと強くなってないとな」


 ミナトは自身の拳を見つめながら、骨が軋むほど強く握りしめ、自分自身に発破をかける。

 コウキの成長に自身も感化されたかのようだ。

 その後ミナト達は部屋を退出し、シスカがいるであろう騎士団の訓練場へと向かった。


 訓練場へと近づくにつれ、木剣がぶつかり合うような乾いた音と、訓練の熱気が混じった微かな息づかいが聞こえてくる。

 それは紛れもなく現在進行形で訓練が行われているということだ。


 ミナトとクレイグはお互いに視線を交わすと小走りで駆け出した。

 二人ともシスカほど態度や行動には表れにくいが、いざ目前にその光景が迫っているとなると、気になってしまうのは人として当たり前の事なのだろう。

 訓練場に到着した彼らは目の前の光景に呆気にとられる。


「シスカ……見学じゃなかったのか」


「どなたかと手合わせしてますね」


 そこには見学しているはずのシスカが、騎士団員と手合わせをしている姿があった。

 彼女の表情は真剣そのものであったが、どこか焦っているかに見える。

 額には汗を滲ませ、息も絶え絶えだ。


「私のスピードに対応するだけじゃなく、反撃まで加えて来るなんて……、流石は副団長さんね!」


 どうやら相手は騎士団の副団長みたいだ。たしかに他の団員と比べると鎧には装飾が施され、権威を象徴しているかのようだ。


「お誉めの言葉ありがたくいただきます。シスカさん、あなたも中々なものです。私の部下にほしいくらいですよ」


「生憎私には私の野望があるのでね。次の一撃で決めるわ!」


 シスカはそう告げると、距離をとり神速の構えをとる。

 半身の構えで体勢を低くし、右手を深く引くと剣先を対象に一直線に向ける。


(あれは人に繰り出していい技じゃないぞ!)


 ミナトは腰を落とし、地を蹴ろうとしたが、その手は虚しく空気を掴んだ。時すでに遅く、彼女は音を置き去りにしその場から居なくなっていた。


 ガキイィィーン!


 次の瞬間、剣を弾かれ、挙げ句にはカウンターの蹴りをくらい後方まで吹き飛ぶシスカの姿があった。

 ミナトの心配は無用だったみたいだ。それだけに王国騎士団の副団長が、とてつもない剣の達人だということを示していた。


「私の……今出せる最高速よ……何で防げるのよ……」


 シスカは土埃の中からふらふらになりながらも立ち上がり、副団長のもとへとゆっくり歩く。

 その眼差しは、敗北の悔しさよりも、新たな知識への渇望に満ちていた。


 副団長は剣を鞘へと収め、シスカにしっかり向き直る。

 その体からは、じわりと蜃気楼のような陽炎が立ち上り、周囲の空間が熱で歪んで見えた。


「君のスピードは見事なものだ。私自身ほとんどみえてなどいなかった。だが、魔法はイメージ次第。使いようによっては、無意識下での防御も可能になる」


 副団長は自身の左手で、震える右手を抑えるかのようにしながら言葉を続ける。


「とはいっても、今の一撃……あれを防ぐには体にかなりの負荷がかかったみたいだ。私の場合火魔法により体温を上げ、一種の覚醒状態のようなものを強制的に引き起こしている。それにより、常人では考えられないスピード、パワーを引き出している」


 副団長が右手を握りしめると、バチリ、と微かな紫電が指の間を走った。


「そして脳が指令を出すコンマ数秒すら魔法で削り取る『反射制御』、それを雷魔法により再現し、それらを組み合わせ、剣技として仕上げている」


 シスカはごくりと息を飲んだ。それは単にスピードが早いだけではない。

『認識』から『行動』までのタイムラグを、魔法で物理的に削除しているのだ。

 シスカの一撃を難なく凌いだようにみえたが、それは彼の努力と魔法の発想が噛み合った、紙一重の結果だったのだろう。


「王国騎士団……、やはり学べることが多いわ。自分の力に傲りがあった訳ではないけれど、まさか剣術でここまで手が出ないとはね。ありがとう副団長さん!」


 シスカは鞘にしまってある自身の剣に視線を送ると、無力さを嘆くように、しかし次は絶対に負けないという意志を込めて、拳を強く握りしめていた。

 対して副団長は、そんなシスカの資質を見抜いたのか、労いと共に核心を突く。


「いえ、私もここまで早く動ける人との手合わせは久しぶりだったので、いい練習になりましたよ。ただ、一つ、速さを求めるというのは一つの正解ですが、そこに緩急を付けることが出来れば、さらに成長できるかと。先ほどの最後の突き技も……もう言わないでも分かるみたいですね」


 副団長のアドバイスを聞いた瞬間、シスカの瞳孔が開き、世界の色が変わったかのように表情が一変する。

 ただ速いだけでは、線になる。だが、そこに止まるという点を打てば、線は予測不能な軌道を描く。


 硬く閉ざされていた思考の扉がこじ開けられ、静かで強い光が瞳に宿る。

 副団長はすぐにそれを察し、言葉を止めた。


「緩急……なるほど……」


 シスカはぶつぶつと一人で腕を組み、速さを活かすには、あえて速さを殺すことも必要という意味の副団長の言葉を、必死に頭の中で反芻し始めた。

 その姿をみた副団長は口角を上げにこっと笑いかける。


「そのひたむきな姿勢素晴らしい!努力家なのがひしひしと感じとれます!やはり私の部下になりませんか?」


 副団長はシスカに手をさしのべるが、その言葉に答えたのはシスカではなかった。

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