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異端魔力の召喚勇者 ~魔法の使えない勇者は冒険者の道を歩む~  作者: 水辺 京
勇者 第二章 テラヴェルト連邦編

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104 コウキの旅路7

 一行は老人の話に耳を傾ける。

 どうやらアイリス王からの協力要請に応じたいところだが、肝心の英雄ライカの説得に苦労しているみたいだ。


 だが、単に要請を無下にしているのではなく、自身がこの地を離れることで、自国の防衛力が損なわれ、万が一にも魔族の手が、この世界樹に及んでしまう可能性を危惧しているみたいだ。

 ライカもまた、口ではああは言っているが、自国と世界を天秤にかけ、逡巡しているのだろう。


「というわけじゃ。今のわしは名ばかりの長、兵士を指揮することは愚か、子供一人の説得にも力及ばずじゃ」


 老人の視線はすっかり下を向いてしまい、自身の無力さを嘆いているようだ。


「なるほど……。何かと長というのも苦労するものですね」


 マリアの言葉にはっとしたように目線をあげる。


「おっと、そういえば自己紹介がまだじゃったな。わしはグランルーツ、獣人種の長、オーランと申す」


 オーランと名乗る老人は続けて口を開く。


「そこで申し訳ないのだが、勇者様達からもライカ殿を説得してはくれんかの」


 オーランの言葉に一行は頷き了承する。


「わかりました。私たちも同行してもらわないと困りますので、一先ず話をしてみますね」


「手間をかけてすまないの。わしも他の長となにかできないか考えておくので、よろしく頼みましたぞ」


 オーランはそう言うと自身の屋敷へと戻っていった。

 おそらくライオンの種族だろうが、自身でも明言していた通り、歳をとり、衰え、もはやライオンの覇気のような面影も残らず、立ち去る姿は老猫のようだあった。


「まさかの同行拒否とはな……。英雄と言えば、ティオなんかは俺らと同行することに抵抗とか無かったのか?」


「ぼ、僕は……みんなから破壊神と呼ばれています。ほんとは嫌なんです。でももし僕が世界を救ったら、そんな恥ずかしい異名も無くなるかと思ったので……」


 もじもじと俯きながらも、真面目に話すティオに、コウキは肩をぽんっと軽く叩き、笑いかけながら口を開く。


「なんだ、そんなことだったのか!周りの言葉なんて気にしなくていいんじゃないか?ティオはティオだ!そりゃ、あの姿をみたらそう思うやつも多いとは思うけど……?ま、まあその異名があったおかげで俺らと出会えたってことで良いじゃないか!」


 なぜか励ますつもりが、破壊神の印象がより鮮明にコウキの頭に流れてきてしまった。

 それほどまでにあの手合わせが記憶に刻まれているのだろう。

 ティオは静かに頷いた。


「それよりさっきのライカっていう人はどこに向かったんだろうな?」


 コウキの疑問に、エリスが腕を組みながら考え込むように答える。


「先程の話から推測すると、兵士の訓練にあたっている可能性がありますよね。訓練場のようなところがあれば、そこに向かってみるのは良いかもしれませんね」


「ここから世界樹の幹の方へ向かえば、それらしき場所があるようです。行ってみましょうか」


 マリアは地図を見ながら方角を指差す。

 一行はライカを探しに訓練場へ向かうのであった。

 しばらく歩き続けると、姿はまだ見えないが、それらしき声が聞こえてくる。


「おいお前ら!そんなんじゃ魔族どころか、そこらの魔物にやられちまうぞ!もっと魔力を効率的に使え!とにかく反復だ!」


 コウキたちはその声がする方へ向かうと、案の定先程のライカという女性が、大きな斧を片手に兵士の訓練を行っていた。

 獣人種だけならず、他の種族もライカの指揮のもと、湿った土と汗の匂いが混じった重い熱気の中で、ふらふらになりながらもひたすら魔法を放ったり、尋常ではない量の汗を流し走り込んでいる姿があった。


「これはきつそうだな……。オーバーワークだろ」


 コウキはその光景を見るなり額に手を当て、呆気にとられる。

 彼はミナトとの特訓の日々で、それが悪手であると知っていた。


 根性論で死ぬほどの特訓をしたところで、適度な特訓をした時と、得られる経験値は対して変わらないことに。


「おい、やりすぎだぞ」


「ちょっとコウキ!」


 つい我慢できずに、コウキは声をあげてしまった。

 マリアは慌てて止めようとしたが遅かったようだ。


「あ?よそ者が口出しするんじゃねえ!」


 ライカはその言葉に反応し、コウキを怒鳴り付ける。

 常人なら、萎縮してしまう圧をかけられるが、コウキは退かなかった。


「その訓練を続けたところで、上達する前に体を壊すだけだ。そのやり方は間違えだ。指導者なら兵士一人一人の顔をしっかりみろ。どう見ても魔力、体力共に枯渇寸前だろ」


 はっきりと正論をつきたけられたことに、ライカは一度兵士の顔を見渡すと、ライカの顔つきが、怒りから戸惑いへと急激に変わり、喉をつまらせるかのように、言葉を失う。


「こ、このくらいでへばってるようじゃ戦場ですぐに死んじまう!それを防ぐために訓練をしているんだ!」


「訓練をすることは悪いことじゃない。だが、やりすぎだと言っている。適度な訓練、適度な休憩、この比率は人によって異なる。それを見極め、一人一人に合った量の訓練を課す。それができなければ指導者として失格だ」


 コウキはライカの目をまっすぐに見ていた。

 一向に退かずに、正論を叩きつけてくるコウキの圧に、ライカはつい一歩退いてしまう。


 それはライカ自身もこの訓練が、間違いなく正しいものとは思っておらず、かといって他の方法がわからずに紆余曲折している証拠だ。

 同時に言葉による対話が可能であることも示している。


「な、ならどうしたらいいんだ?」


 ライカは思ったよりも理解は早いようで、コウキに助言を求める。


「まず、休息をとれ。休むことも訓練のひとつだ。話はそれからだ」


 ライカは頷くと、兵士たちに手を上げ、声を出す。


「一度休憩をとる、声がかかるまでゆっくり休め」


 兵士たちのほとんどはその声と共に、泥のように地面にたおれこむ。

 コウキはその光景を見ると再度、額に手を当て呆気にとられる。


「こんな状態で訓練したって、何の上達もしないってわからないのか?」


 ライカは顔をひきつらせ、返す言葉も無いようだ。

 視線はすっかり下を向き、自身のしていることが間違いだと、はっきり理解したみたいだ。


「ふぅ……。でも話してわかるやつで良かったよ。自己紹介がまだだったな。俺はコウキ、勇者として英雄の君を迎えに来た」


「わ、わたしはライカだ。コウキ、君の言っていることは正しいみたいだ。パーティーに加わり、魔王討伐に力を貸したいのは山々なんだが、訓練内容を見直す必要がある。今離れるわけには……」


 反省しているのか、威勢のあった声のトーンはすっかり落ち、視線が右往左往している。


「なら、俺が訓練の内容を考えて、それをライカが信用できる者に任せるってのはどうだ?俺たちには君の力が必要だ。だが、兵士達の訓練は君でなくても大丈夫なはずだ」


「……先程の発言からすると、コウキはこのての訓練に慣れているようだな。よし、そうゆうことならいいだろう!もちろん私がその訓練内容に納得できるなら、だけどな!」


 ライカは顔を上げ、逡巡していた自国と世界の天秤に、よい落とし所を提案され、納得できたみたいで、威勢が戻り、獰猛な獣の面影を持つ力強い笑顔を見せる。

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