103 コウキの旅路6
一行は街に入ると、幻想的な街の在り方に目を奪われる。
巨大な世界樹を中心に作られた街というのは、その根すらも共存という形で、街を彩っている。
決して平坦ではなく、地面を盛り上げるかのように無数の根が張り巡らされ、それに沿って家が建ち並び、自然と階層的な段差ができている。
不規則でありながら、どこか統一感のある街並みだ。
空を見上げるとそこには、世界樹による傘とでもいえる無数の枝葉が街を覆い、雨の一粒も通さないかのように隙間がない。
当然太陽光など入る余地もないが、発光する葉が淡く照らし続けることにより、街は明るく外部と遜色のないほどに、とても自然的であった。
「街の中はまた一層すごいことになってるな。雨も通らなそうだけど、生活するのに水はどうしてるんだ?」
空を見上げながら喋るコウキの言葉に、マリアもまた世界樹を見上げながら答える。
「あの幹の周りは枯れることのない、巨大な湖が広がっています。その水は自由に使えるので、それを活用しているらしいです。それとグランルーツには天気、という概念がありません。晴れでも雨でも常にこの大きな世界樹の傘がそれらを阻み、街の天候を一定に保っています」
マリアの説明にコウキは驚きはするものの、あまりのスケールに納得せざるおえなかった。
「まあここまで大きければなんでもありか……」
エリスはマリアの説明を聞きひとつの疑問がうまれた。
「天候が常に一定……ということですが、昼夜はあるのでしょうか?」
「はい、ありますよ。周りの明るさに同調するかのように、夜は月明かりが照らす程度の明るさになるみたいです」
その言葉にティオが目を輝かせ、反応する。
「や、やっぱりそうなんですね!さっきよりも少し明るさが変わっていたので、ずっと気になっていたんです!」
ティオは常人では気付きさえすることのできない、微妙な光の加減を、肌で感じとったいたらしい。
魔道具という繊細な物を扱うだけに、微かな違いに敏感に反応できるみたいだ。
「へえ、俺じゃ全く分からないけど、明るさが変わってたのか。よく気付いたなティオ」
コウキの誉め言葉に照れ臭そうにしながらも、世界樹を見る目は輝きを増している。
「さあ、話はそのくらいにして目的地に向かいましょう!」
マリアの言葉に一行は頷くと、獣人種の長が住まう、屋敷へと向かって歩いていく。
道中も様々な発見に目を奪われつつも、屋敷に到着する。
すると、屋敷から怒号が飛び交ってくる。
どうやら中で揉め事が起こっているみたいだ。
「ああ?なんで私がそんなことしなきゃいけねえんだ!兵士の訓練で忙しいんだ!ここを離れるなんてできるわけねえだろ!」
「じゃ、じゃからのう、魔王を倒すためにライカ殿の力が必要だと、アイリス王からの直々の頼みなのじゃよ。兵士は代わりにわしが見ておくから、勇者と共に行ってくれんかのう」
「ちっ!老いぼれのじじいに俺の兵士が任せられるか!」
「じゃが魔王が復活してしまったらどうするのじゃ」
「だからこそ兵士を育てるんだろ!自分の国は自分で守れだ!私はもう行く!」
「ライカ殿!どこにいかれるのじゃ!待ちなされ!」
バタン!
激しい扉の開閉音と共に、一人の女性が屋敷から出てくる。
その女性は、真っ白な髪をライオンの鬣のように逆立て、額には一本の角が生えている。
背中には大きな斧を担ぎ、きれいに割れた腹筋が見える程に露出の多い、青を基調とした防具を身に付けている。
睨み付けるように、よそ者のコウキ達を一瞥すると、口を開く。
「なんだお前ら?」
およそ女性とは思えない言葉遣いに、先程の怒号も彼女のものだと一行は察する。
「あ、あの私たちは……」
「長なら中にいるから、勝手にはいってくれ。私は行くところがある」
マリアが話そうとしたら、それを遮るように言葉を返し、彼女はどこかへと立ち去ってしまった。
その様子を見て、エリスは顔をひきつらせながら口を開いた。
「あの人、会話の内容から察するに、聖獣キリンの血を引く、この国の英雄……ですよね?」
その言葉に皆は無言で頷いた。
ティオに至っては、ブルブルと震えてしまっている。
「と、とにかく獣人種の長に話を聞きましょう!」
一行は気を取り直し、屋敷にいるであろう長に声をかける。
「すみませーん!」
マリアが声を出すと、そそくさと一人の老人が顔を出す。
「おや、こんにちは。……もしや、勇者様御一行ですかな?」
老人は見慣れない風貌と、雰囲気、及びアイリス王からの情報を元に、コウキ達が勇者だと確信する。
「はい、そうです。急な来訪になり申し訳ありません。ところで先程のかたは……」
老人は少し視線を反らし、気まずそうに重たい口を開く。
「そ、それがじゃな……」
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