100 シスカの兄
シスカに引っ張られギルドを出ると、クレイグが待機していた。
ギルドの壁に寄りかかり、朝日を見上げている彼は、二人の気配に気付く。
「ど、どうしたんですか?」
クレイグは、ミナトを引っ張っているシスカを見て、何事かと顔を歪める。
「はあ……。別になんてこと無いわ。ミナトが兄さんと長話をしているから、切り上げてきたのよ。それより待たせて悪かったわね」
シスカは大きくため息をついたあと、クレイグに謝罪した。
「いえ、大丈夫ですよ。それよりお兄さんも冒険者の方なんですね。今度機会があればわたしも挨拶をしておきたいです」
クレイグの邪気の無い笑顔に、シスカはミナト以外には打ち明けていなかった、兄の名前を告げることにした。
「構わないけれど、あまりおすすめはしないわよ。私の兄は、ルナ=ノクト。王都最強の冒険者で、わたしが越えるべき存在よ」
その事実にクレイグは驚きを隠せず、言葉がでないみたいだ。
「兄の名前を出すと、その存在が故によく比べられてしまうのよね……。それもあって兄を越えるまでは、あまり話さないようにしていたのだけれど……仲間に隠しておくのも良くないわよね。セイラとメリアにも帰ってきたら伝えるわ」
シスカは少し視線を落とし、今まで隠していたことに、少し卑屈を感じているようだ。
その様子をみたクレイグはシスカの肩にそっと手を置く。
「シスカさんはシスカさんです。わたしからすればノクト家のシスカ、ではなく零閃の狼煙の……わたしたちの仲間のシスカさんです!比べるもなにもありませんよ!セイラさんもメリアさんも、きっと打ち明けたとしても、同じように言ってくれますよ」
クレイグはにこっと笑い、シスカを励ましていた。
シスカもその言葉が嬉しかったのか、口角があがり、自然と笑みがこぼれている。
落ちていた視線も上がり、しっかりとクレイグを見定め、口を開く。
「そうよね。仲間よね!なんかもう吹っ切れたわ!ありがとうクレイグ!」
「いえいえ、仲間なんですから、一人で抱え込まずにいつでも相談してくださいね」
クレイグの言葉に、シスカは再度笑顔で頷く。
「さあ、じゃあそろそろ出発しましょうか!」
シスカはいつもの調子に戻り、ミナト、クレイグと共に城へむかうのであった。
城へと近づくにつれ、活気のあった喧騒は次第に静まり返り、厳かな雰囲気を帯びていく。
道中、ミナトはギルドでのルナとの会話を振り返り、シスカに話しかける。
「ルナさん、実際話してみると口調が穏やかで、細かい気遣いもできるいい兄さんじゃないか。シスカのこともすごく気にかけてくれていたぞ」
その言葉にシスカは少し誇らしげに、しかしどこか寂しそうな顔をして口を開く。
「そうよ。私の兄は完璧ですごい人なの。だからこそ、常にその存在が立ちはだかってきた。そんなすごい兄をもってしまった私は不幸ものよ。なんでも兄さんと比べられ、落ちこぼれだなんだと散々言われてきたわ。兄さんが私を気にかけてくれているのも知っているけれど、そんな兄さんに甘えてしまったら、私の見下し計画が台無しよ」
ミナトは納得したかのように頷きながら話す。
「てっきりシスカは、ルナさんのことが嫌いなのかと思っていたけど、そうではないんだな。よかったよ。たしかに越えるべき相手と、手を取り合ってしまえば、越えることは難しいだろうね」
シスカとルナの関係は、ミナトとコウキの関係に似ている。
ただ決定的に違うのは、シスカが兄への敬愛を押し殺し、自ら孤立することで越えようとしている点だ。
互いに手を取り合うのではなく、常に競い合う道を選んだのだった
その結果が今の彼女の強さを体現しているのだ。
「ところで、シスカはルナさんのパーティー、アストラ・エンブレムについては知ってるのか?」
シスカは首をかしげ、少し考え込む。
「そこまで詳しくは無いのよね……。確か六人構成で、兄さんの他に、三人Sランクの冒険者がいて、あと二人はAランクだったはず。それがどうかしたの?」
「いや、ルナさんの仲間に、俺と似たような戦闘をする人がいるって聞いて、今度話を聞きに行こうと思ってるんだ。どのような人なのか気になってね」
ミナトの言葉に、シスカは腕を組み、答える。
「なるほどね。確かに同じ戦闘スタイルの高ランク冒険者ってのは、いい手本になるわ。ちょうど、セイラとメリアも試験で居ないし、明日にでも会ってみたらどうかしら?」
シスカは意外にも、ミナトがルナの仲間と会うことに抵抗は無いようだ。
「ああ、じゃあそうさせてもらうよ。二人はどうする?着いてくるか?」
その言葉にクレイグがまず反応する。
「ルナさんへ挨拶も兼ねて、同行させてもらってもよろしいでしょうか?単純にSランクパーティー、というのにも興味があります」
ミナトは頷くと、次にシスカが腕を組み直し、しばらくの沈黙の後、静かに口を開く。
「わたしは……今回は遠慮しておくわ」
どうやらルナのパーティーへの興味と、兄への意地が彼女の心の中で葛藤しているのか、視線が宙を彷徨っている。
だがもの惜しげな顔をしつつも、今回は同行しないことに決めたようだ。
「わかった。じゃあ明日、クレイグと一緒にルナさんのところへ行ってくるよ」
その後も会話を交えながら歩き続けると、城門が見えてくる。
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