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001 招かれざる転移

 放課後の賑やかな喧騒が嘘のように、ミナトとコウキが通う武術道場には、木剣がぶつかり合う乾いた音と、胴着の擦れる音が静かに響いていた。

 二人の息を詰める気配が、その音に混じる。


「はぁ……はぁ……もう一本!」


 コウキの荒い息遣いが道場に響く。額から汗が滴り落ち、道着はびっしょりだ。対するミナトは、僅かに息を弾ませる程度。

 武術に精通し、あらゆる技術を会得したミナトにとって、親友でありライバルでもあるコウキとの稽古は、高校生活の大部分を占めていた。

 

 互いの技をぶつけ合い、高め合う。そんな日々が、ミナトの身体と精神を鍛え上げていた。


「もう終わりだぞ、コウキ。時間だ」


 ミナトが冷静に告げると、コウキは悔しそうに顔を歪めた。


「くっそ、ミナトにはなかなか勝てねーな!」


「コウキも十分強いさ、相手が悪いだけだよ」


「それ自分で言っちゃうのかよ!」


 軽い冗談を交えながらも、着替えを済ませ、道場を出た二人は、他愛もない会話をしながら夕暮れの通学路を歩いていた。

 沈みゆく太陽が彼らの影を長く伸ばし、今日という一日が終わろうとしていた。


 いつもの帰り道、いつもの風景。しかし、そのいつものが、次の瞬間、脆くも崩れ去る。


 突然、足元から眩い光が溢れ出した。地面に描かれた、見慣れない複雑な魔法陣のような模様が、みるみるうちに輝きを増していく。

 同時に、空間が歪むような、耳鳴りのような不快な感覚が全身を襲った。


「な、なんだこれ……!?」


 コウキが驚愕に声を上げる。ミナトもまた、これまでにない異常事態であることを感じていた。

 抗おうにも、身体は痺れたように動かない。光は瞬く間に二人を包み込み、視界は真っ白に染まった。

 まるで世界がひっくり返るような浮遊感に襲われ、意識が遠のく。


 次にミナトが感じたのは、ひんやりとした石の床の感触と、カビ臭いような、それでいて荘厳な空気だった。

 ゆっくりと目を開けると、そこは先ほどまでいた通学路ではない。


 巨大な石造りの広間。壁には燃え盛る松明が等間隔に並べられ、中央には彼らが吸い込まれたものと酷似した、巨大な魔法陣が描かれている。

 そして、彼らの目の前には、豪華な装飾を身につけた初老の男と、ローブ姿の複数の人物が立っていた。


 ミナトは困惑しながらも、自分の身体に異変が起きていることに気づいた。体内に、今までに感じたことのない、途方もない何かが満ちている。


 それは、かつて感じたことのある、微かな「気」のようなものとは比べ物にならないほど巨大で、暴れ出しそうなほどのエネルギーの塊だった。


 しかし、それを形にしようとすればするほど、胃の奥からこみ上げるような吐き気と、頭を締め付けられるようなめまいに襲われる。


(なんだ、これは……そして、この吐き気は……!?)


 ミナトは知る由もなかった。彼が、魔法格差の世界において、膨大な魔力を持つにもかかわらず、その魔力を一切魔法として使うことができない、異端の存在として召喚されてしまったことを。


 そして、本来の召喚対象である親友コウキと共に、魔王復活という三年後の脅威に立ち向かう運命に巻き込まれたことを。

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